JR西日本は15日、来年4月1日に実施する京阪神エリアでの運賃改定についての詳細を発表しました。今回はこれについて解説します。なお、当記事で掲載されている図は、JR西日本プレスリリースから引用しています。
https://www.westjr.co.jp/press/article/items/240515_00_press_keihanshin_unchin.pdf
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<チャプター>
1.京阪神エリアの運賃体系について(おさらい)
2.運賃体系の変更点
3.特定運賃について
4.まとめ
5.終わりに~今後、首都圏でも運賃改定がなされる??~
1.京阪神エリアの運賃体系について(おさらい)
京阪神エリアでは、本州3社で適用されている運賃体系のほか、「電車特定区間」「大阪環状線内」という、通常より割安な運賃体系が導入されています。
「電車特定区間」「大阪環状線内」とは、下図のエリアを指します(JR西日本おでかけネットから引用)
2.運賃体系の変更点
今回詳細が明かされた、運賃体系の変更は以下の通りです。
(1)電車特定区間の拡大
通常より割安な運賃体系である「電車特定区間」について、以下の通り範囲が拡大されます。
新たに電車特定区間に編入されるのは、JR山陽本線(網干~西明石間)、JR関西空港線、JR福知山線(新三田~尼崎間)、JR片町線(長尾~松井山手間)、JR山陰本線(亀岡~京都間)、JR奈良線(京都~城陽間)、JR湖西線(山科~堅田間)、JR東海道本線(京都~野洲間)です。いずれも、JR化後に開通もしくは利用者が増えた区間なのが特徴です。これらの区間では、運賃が現行より下がる場合があります。
(2)大阪環状線内運賃の廃止
現在、電車特定区間よりさらに割安な運賃体系として「大阪環状線内運賃」が設定されていますが、これは廃止されます。これにより、大阪環状線内利用の場合は、運賃が値上げとなります。
(3)鉄道駅バリアフリー料金の適用区間拡大
現在、電車特定区間エリア内の区間を移動した場合、運賃に加え10円(1か月定期:300円 3か月定期:900円 6か月定期:1,800円)の鉄道駅バリアフリー料金が加算されています。これはホームドアやエレベーターなどのバリアフリー設備の設置や維持のために徴収されている料金です。本改訂で新たに電車特定区間に編入される区間においても、鉄道駅バリアフリー料金の徴収対象となります。
(4)賃率の統一
現在、各運賃体系で分かれている賃率が以下の通り統一され、分かりやすくなります。現在既に電車特定区間内にある駅同士を移動する場合、運賃が値上げとなる可能性があります。
※参考 運賃体系改定前後比較表(JR西日本プレスリリースより引用)
今回の変更について、いくつか具体例をあげてみます。
(1)電車特定区間の拡大 に伴う事例(改定前:幹線運賃→改定後:電車特定区間運賃)
<例1>新三田~大阪間(44.6km) 770円→ 750円(-20円)
<例2>姫路~大阪間 (87.9km) 1,520円→1,460円(-60円)
(2)大阪環状線内運賃の廃止 に伴う事例(改定前:大阪環状線内運賃→改定後:電車特定区間運賃)
<例3>大阪~ユニバーサルシティ間(6.8km) 190円→200円(+10円)
<例4>大阪~天王寺間 (10.7km) 210円→240円(+30円)
(3)鉄道駅バリアフリー料金の新設 に伴う事例(改定前:幹線運賃→改定後:電車特定区間運賃)
<例5>京都~大津間(10.0km) 200円→200円
通常の幹線運賃より割安な電車特定区間運賃が新たに適用される区間ですが、併せて鉄道駅バリアフリー料金の徴収対象となるため、運賃は現行と変わりません。
(4)賃率の変更 に伴う事例 (電車特定区間内で完結する一部の区間)
<例6>天王寺~堺市間( 8.8km)190円→200円(+10円)
<例7>大阪~西明石間(55.9km) 950円→960円(+10円)
3.特定運賃について
ここまでみると、「新たに電車特定区間に編入される区間は概ね運賃が下がる」「大阪環状線内のみの利用や、既に電車特定区間になっているエリア内での利用では概ね運賃が上がる」と読み取ることができます。しかし、実際はもっと複雑で、ケースバイケースです。その要因は、「特定運賃」の存在です。
通常、運賃は幹線運賃表もしくは電車特定区間の運賃表に基づいて算定されるのですが、指定された区間については、それらの運賃表とは別に「特定運賃」を設定しています。(下の資料の3ページ目参照)
https://www.jreast.co.jp/ryokaku/beppyou/pdf/beppyou02.pdf
<例8> 大阪~ 京都間(42.8km)580円 (同距離の本来の運賃:770円)
<例9> 大阪~ 宝塚間(25.5km)330円 (同距離の本来の運賃:510円)
<例10>大阪~三ノ宮間(30.6km)420円 (同距離の本来の運賃:590円)
例のとおり、本来の運賃よりかなり割安な運賃が別途設定されていることが分かります。この特定運賃は、主に私鉄との競合区間に多く設定されているのが特徴です。
この特定運賃については、私は価格を見直すと予想していたのですが、今回の運賃改定による変更は概ねありません。この点については、私の予想が外れた形となりました。
原則変更はないものの、賃率の変更や、新たに鉄道駅バリアフリー料金の徴収対象となる区間については、現行より運賃が変わるので注意が必要です。また、特定運賃が新たに適用される区間もあります。詳細については、プレスリリースの15~23ページをご確認ください。
4.まとめ
いかがでしたでしょうか。今回の運賃改定の意義は、複数ある運賃体系を整理し、分かりやすくするとともに、電車特定区間の範囲を見直すことにあります。
電車特定区間の範囲は国鉄時代から変わっていないため、現在では利用者が増えている路線もあります。そんな路線でも、割安な電車特定間運賃が適用されず、実態に合っていない不公平な状態になっていました。その点が是正されたことはよかったと思います。
また、今回の電車特定区間の範囲拡大は、鉄道駅バリアフリー料金の徴収対象の拡大もセットになっています。もとはと言えば、利用者の多い路線や区間で鉄道駅バリアフリー料金を徴収したいというところから、電車特定区間の見直しが検討されたという経緯もあり、将来の設備投資のための資金を確保したいという意図もうかがえます。
ただ実際のところは、「特定運賃」という例外規定が細かく設定されており、運賃体系が分かりやすくなったかというと若干疑問も残ります。並行私鉄と競合している関係で、あまり特定運賃を変更することはできないですが…
5.終わりに~今後、首都圏でも運賃改定がなされる??~
今回JR西日本の運賃改定でキーワードとなった「電車特定区間」「大阪環状線内運賃」ですが、ほぼ同じ運賃体系を採用している地域があります。それが、JR東日本の首都圏エリアです。
首都圏エリアでは、通常運賃より割安な「電車特定区間」、さらに割安な「山手線内運賃」が設定されています。(JR西日本おでかけネットから引用)
しかしこの区間についても、横須賀線は久里浜(東京から70.4km)、中央線は高尾(東京から53.1km)、奥多摩(東京から74.7km)と広くエリアに含まれる一方、高崎線・宇都宮線系統は大宮(東京から30.3km)までしか電車特定区間に属していません。埼玉方面だけ電車特定区間に含まれる距離が短く、埼玉県知事が「不公平だ」との声を上げたこともあるようです。
そうした状況もあるため、今回のJR西日本での運賃改定を参考に、JR東日本でも同様の運賃体系の変更を行う可能性は高いとみています。運賃体系改定後の京阪神エリアでの変化だけでなく、首都圏のJRでも運賃体系の変更がなされるのか、引き続き注目です。