5月9日頃,JR東日本は突如,公式サイトに連絡きっぷの発売範囲を公開した。
異なる会社を介して旅客や貨物を運送することを連絡運輸という。連絡運輸できる範囲(出発地点,到着地点,経路など)は,連絡運輸を交わす会社間で都度,取り決められている。
鉄道の連絡運輸,特に普通乗車券の連絡運輸(連絡きっぷ)は一般の旅客目線では情報がわかりにくかった。駅で運賃表が掲出されていても,それが連絡運輸範囲のすべてを掲出しているとは限らないからだ。
JR各社と社線(JR以外の私鉄など)との連絡運輸範囲は,『旅客連絡運輸規則別表・旅客連絡運輸取扱基準規程別表』(以下,「別表」)に記載されている。この資料はJR各社のみどりの窓口などに備え付けられているが,旅客が好きに見られるようなものではないのが実情だ*2。
そのような状況が当たり前だったので、今回の公開は趣味者の中でも驚きをもって受け止められた。
JR東日本が公開した「連絡きっぷの発売範囲」を使おう
JR東日本が公開した連絡きっぷの発売範囲を見てみよう。例えば,えちごトキめき鉄道であれば以下のようになっている。表形式になっていて,一定の鉄道知識がないと読み解くのも難しいかもしれない。
横浜から直江津まで行くことを考えてみよう。東京から北陸新幹線に乗って上越妙高まで行き,そこからえちごトキめき鉄道で直江津まで向かうとする。連絡きっぷを買えるだろうか?
まず,「次のJR線の各駅とえちごトキめき鉄道線の各駅相互間」の表に東海道本線(横浜)が無いため,「横浜→(上越妙高接続)直江津」の連絡きっぷは買えないことがわかる。
しかし,「えちごトキめき鉄道線を経由し、次のJR線の左欄の各駅と右欄の各駅相互間」の表によると,上越妙高・直江津間でえちごトキめき鉄道を経由する「通過連絡運輸」の場合は,JR6社各駅と連絡運輸があることがわかる。よって,横浜から直江津まで行くのに,直江津のひとつ先のJR駅である黒井までの「横浜→(上越妙高・直江津接続)黒井」のきっぷを買えば,1枚の連絡きっぷで発券することが可能だ(直江津駅では途中下車とすればよい)。
このように,連絡連絡範囲がわかれば,旅行時に用意するきっぷ1枚にしても様々な選択肢が生まれるようになる。
粗雑な内容
ただこの「連絡きっぷの発売範囲」の資料はあまりに粗雑だ。連絡運輸の駅名に誤植があったり,通過連絡運輸で経由運輸機関が複数ある場合に記載方法が違ったり,フォントが統一されていなかったりと,もともとは公共企業体たるJRが作った資料とは思えない粗雑な内容になっている。公開前に誰かチェックしなかったのだろうか。
また,内容を見る限り「別表」を旅客向けにアレンジしていることがわかる。「別表」では,独特の表記が多々あり,たとえば「東京」と記載されていれば「東京都区内の各駅」を意味していたが,さすがに公開された「連絡きっぷの発売範囲」では「東京都区内」と記載されていた。
一方で,富山地方鉄道のように社線側の範囲が「各駅」となっている場合でも,実際には社線全駅へのきっぷが買えるとは限らない場合もある。規程別表に旅客運賃や営業キロを記載している駅までしか発売しないからだ。富山地方鉄道の場合,規程別表には(富山地方鉄道線)「各駅」とあるが,旅客運賃や営業キロの記載は「上市」「宇奈月温泉」「立山」の3駅しかなく*5,JR側が連絡運輸範囲内であっても,これ以外の駅までのきっぷを購入することはできないと思われる。
旅客向けの資料としては不十分
以上のように,連絡きっぷの発売範囲が公開されたことは喜ばしいが,誤植があったり誤案内といっても過言ではないような内容が含まれているほか,そもそも表形式でわかりにくいことから,旅客向けの資料としては不十分であると考える。IRいしかわ鉄道のように連絡運輸範囲を路線図形式で掲載している会社を見習ってほしい。
私鉄では連絡運輸を公開する会社も増えてきたが,JR で連絡運輸範囲を公開したのはJR東日本が初めてだろう。他 JR も追随するのか引き続き注目したい。
ちなみに,JR東日本では首都圏の利用者のうち,2021年度時点できっぷの利用者はわずか5%*8。さらに連絡きっぷとなればごく僅かのはずだ。しかしながらこのタイミングで公開に至ったのにはなにか理由があるのだろうか?
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*2:駅に請求すれば閲覧は可能という建付けではある
*3:JR東日本公式サイト(2024年5月12日閲覧)より引用
*4:JR東日本公式サイト(2024年5月12日閲覧)より引用
*5:2023年12月閲覧時点
*6:中央書院(1987)『旅客連絡運輸規則別表・旅客連絡運輸取扱基準規程別表』p.245 国立国会図書館デジタルコレクションより引用
*7:現在では五百石は連絡運輸範囲から外れていると思われる
*8:「連絡切符」が買えない! 首都圏の鉄道各社が販売縮小、そのわけは?<ニュースあなた発>:東京新聞 TOKYO Web 2024年5月12日閲覧