フィルムで写真を撮っていた頃、カメラは耐久消費財であった。だから、カメラを購入する際は慎重に検討したものである。ニコンにするかキヤノンにするかは、大袈裟に言えば人生の進路を決めるような感覚であった。

カメラは道具であるのだから、自分の身体に馴染むようになるまで使い込むのがよいとも言われていた。どんなに高価なカメラでも馴染むことができないものは宝の持ち腐れ、逆に安いカメラ、普及型のカメラでも自家薬籠中のごとく使いこなせれば御の字と受け止められていた。

さて、カメラを選ぶ際にどのランクの機種にするかは、昔も今も悩ましい問題である。性能の高さ(や見栄など)を考えるとフラッグシップ機にしたいと思っても、とても高価である。どのランクの機種で妥協するかと頭を悩ませることになる。しかし、語弊を厭わず言えば、フラッグシップ機を選んでおけば間違いはないと僕は思う。フラッグシップ機は各メーカーが自社のプライドを賭け総力を挙げて開発・製造するもの。過酷な条件下でもほぼほぼ失敗のない写真が撮れる機能を有しているからだ。初心者にいきなりフラッグシップ機をというのはハードルが高すぎると言う向きもあろうが、僕は初心者こそフラッグシップ機がいいと思う。もちろん予算と体力が許せばだが。

さて、そのフラッグシップ機導入に当たってネックとなるのは価格であろう。ニコンZ 9やキヤノンR3、ソニーα9などは70万円前後もするので、おいそれと手が出ない。しかし、耐久消費財という意識を捨てると、すなわち数年間使用した後に下取りに出し新たな機種を手に入れるということにすれば、実質的には中級機並みのコストで使うことができる。フラッグシップ機の中古相場は下落テンポが遅いので、そのようなことが可能なのだ。実際、ハイアマチュアの中にはそのような考え方で、常に最新のフラッグシップ機を使っている人が少なくないようだ。

そのことを知ったとき、僕はなるほど、その手があったかと大いに合点がいった。では、お前はそれを実行しているのかと問われれば、相変わらず長期保有派のままでいる。数年も使っていると馴染んでくるし愛着も湧いてくる。それをコスト面や性能面で見切りをつけて新しい機種にチェンジすることはどうしてもためらわれるのである。

僕の50台に及ぶカメラ遍歴の中でフラッグシップ機を持ったことは数えるほどしかない。古い順にミノルタα-9xi、ニコンF3HP・F4s、キヤノンF-1、ニコンD1X・D2Xくらいである。以下にそれぞれのカメラで撮影した写真をお目にかける。

↓磐越西線東長原ー磐梯町で捉えたD51(1994.1にミノルタα-9xiにて撮影)

↓この頃は毎年2月上旬に磐越西線電化区間でD51が運転されていた。なんとか復活してくれないものかと期待している。復活する際には(可能性がないと承知の上で言っている)、郡山始発の順光ダイヤでお願いします。磐梯熱海ー中山宿(1995.2にニコンF3HPにて撮影)

↓海外赴任初年度の夏休みにドイツを訪問。フランクフルト空港に到着後、手始めにカールスルーエ(Karlsruhe)に向かい、ファン団体が運行するBR58型を撮影した。(1995.7にニコンF4sにて撮影)

↓旧東ドイツに位置するアイゼナハ(Eisenach)を拠点として実施された“Plan Dampf”に参加した際に早朝から重連貨物列車を追いかけた。その本物テイストに感動した。(1998.2にキヤノンF-1にて撮影)

↓磐越西線の猿和田と五泉の中間にある早出川の鉄橋に差し掛かる築堤は返しのばんえつ物語号を良好な光線状態で撮ることができた。窓から乗り出して撮影している乗り鉄が難点だが… 今では手前の水田にソーラーパネルが設置されている。(2003.5にニコンD1Xにて撮影)

↓上の写真の反対側からは沈みゆく夕陽を画面に入れることができた。このときここでかつて『鉄道ファン』誌で名を馳せた某Mプロに出会った。「仕事ですか?」と聞いたら、プライベートとの由。この写真は拙著『Excellent Railwaysー追憶の鉄路ー』に収めた。(2008.4にニコンD2Xにて撮影)