JR西日本が来年春から、京阪神エリアなどの運賃体系を見直す方向で調整を進めていることが、複数の報道筋から明らかになりました。今回はこれについて解説します。

 

 

1.京阪神エリアの運賃体系について

 京阪神エリアでは、本州3社で適用されている運賃体系が導入されていますが、「電車特定区間」「大阪環状線内」のエリアについては、別の運賃体系が導入されています。

 「電車特定区間」「大阪環状線内」とは、下図のエリアを指します(JR西日本おでかけネットから引用)

 

 「電車特定区間」は主に大阪から50km圏内くらいの範囲が該当します。さらに、「大阪環状線内」とは、大阪環状線および桜島線(西九条~ユニバーサルシティ~桜島)、関西本線(天王寺~JR難波)をさします。

 このエリアは利用者が多いことから、下表のとおり運賃が他の地域に比べて安く設定されています。

 電車特定区間内だけを利用した場合、その他のエリアよりも10~70円安い運賃になっていることが分かります。さらに、大阪環状線内だけ利用する場合は、さらに安い運賃が適用されることも分かります。

 

2.特定区間の運賃について

 さらに、JRが指定した区間について、上表によらない「特定運賃」を定めているケースもあります。例えば、大阪~京都間(42.8km、41~45km)は電車特定区間内なので、上表に従って運賃を求めれば740円となります。しかし、大阪~京都間は特定区間として運賃が別に設定されており、実際の同区間の運賃は580円と格安に設定されています。

 このような特定区間の運賃設定は東京・名古屋・京阪神でみられ、通常運賃よりも割安に設定されています。並行する私鉄への競争力強化のために設定しているケースが多いです。

 

3.現行の運賃体系の問題点

 京阪神エリアを中心に、利用者の多い部分については運賃を安く設定し、乗客に便宜が図られているこの仕組みですが、問題点もあります。

 現行の運賃体系は国鉄時代に設定されたもので、数十年ものになっています。JR化以降に、電車特定区間外かつ特定区間も未設定のエリアでも利用者が増えた区間があります。例えば、福知山線(宝塚線)の新三田~尼崎間、東海道線(琵琶湖線)の京都~草津間などが挙げられます。これらの区間は利用者が比較的多いのですが、電車特定区間外かつ特定区間未設定ということで、上表の一番左の運賃が適用されるため、エリアによっては乗客が多いのに運賃が相対的に高くなっています。

 例えば、福知山線の新三田~大阪間(44.6km、41~45km)の運賃は770円ですが、ほぼ同じ距離の大阪~京都間(42.8km、41~45km)の運賃は580円と、190円もの差があります。電車特定区間や特定区間の設定の有無により、このような「距離は同じでも運賃に差がある」区間があり、不公平な状態となっているため、これを解消するために運賃体系を見直すこととしたようです。

 

4.運賃体系の見直しでどう変わるのか??

 報道によると、運賃体系の見直しにより、福知山線(宝塚線)や東海道線(琵琶湖線)の一部区間では運賃が引き下げられる一方、大阪環状線などでは運賃が引き上げられることになるようで、運賃の変動幅は10円~数十円程度となるようです。   

 それを踏まえて考えると、運賃体系の変更は主に以下の2点となりそうです。

 

(1)電車特定区間・大阪環状線内区間運賃を廃止し、他のエリアの運賃体系に一本化する

(2)「特定区間」の指定区間を追加するとともに、既に「特定区間」として指定されている区間の運賃を値上げする

 

 「運賃体系の統一」「10円~数十円ほどの変動」という点から、電車特定区間が廃止される可能性が極めて高いとみています。しかし、これだけでは単なる値上げであり、運賃が引き下げられる区間が出ることについての説明がつきません。とすれば、運賃が引き下げられる区間については、「特定区間」として別途指定すると考えれば辻褄があいます。

 現行制度では、JR福知山線(宝塚線)やJR東海道線(琵琶湖線)には、特定区間の設定がありません。そのため、これらの路線の一部区間を特定区間として指定し、別に割安な運賃を設定するものと思われます。

 また、既に「特定区間」として別途運賃が定められている区間の一部は、区間ごとに特定運賃を10円~数十円引き上げるものとみられます。

 

5.まとめ

 いかがでしたでしょうか。大阪近郊では運賃体系が複数存在すること、そして運賃表によらない「特定運賃」の存在により、乗車距離が同じでも区間によって運賃に差があるというのが実情です。

 今回の運賃改定はてっきり値上げかと思いましたが、そうではなく、あくまでも運賃収入が変わらない程度に運賃設定を変更するようです。とすれば、値上げによる収入増加ではなく、エリアごとの不公平感の解消が目的とみてよいでしょう。

 まだ詳細については判明しておらず、今後JR西日本は内容を詰めたうえで国に認可申請を出すようです。また詳細が分かり次第、当ブログでもお伝えしたいと思います。