旅メモ ~旅について思うがままに考える~

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電気釜+簡易貫通扉の「魔改造」の始祖?381系先頭車化改造車【7】

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《前回からのつづき》

 

 383系が増備され、長野駅発着の運用がすべて置き換えられた後も、松本駅白馬駅発着の「しなの」の運用は残り、381系は4往復のみに充てられるようになり、JR西日本の381系とは対称的に風前の灯になりつつありました。

 それでも、1998年の時点でクロ381形0番代は7両すべてが残っており、後から改造されたクロ381形50番台はすべて廃車・区分消滅し、展望室が自慢のクロ381形10番台もかろうじて廃車を免れていた状態になりました。

 とはいえ、JR東海に継承された381系たちの運命は、383系が増備され始めた時点でそう長くないことは必然でした。これは、JR東海の方針とも大きく関係することで、分割民営化直後から、同社は国鉄から継承した車両を早期に淘汰し、効率性と経済性に優れる新型車に置き換えるというものでした。そして、この方針によって383系の増備によって381系はそう遠くない将来に全て置き換えられる運命が定まっていましたが、それでもJR東海から前者が姿を消すまでにはまだ多少の時間がありました。

 というもの、1998年に開催が予定されていた長野冬季オリンピックでは、名古屋地区から長野方面へのオリンピック観戦客の輸送が想定されていました。383系は1996年までに76両が製作されたことで増備が終了。数に限りのある383系だけでは、オリンピック関連の波動輸送をこなすことは困難であることから、381系がその役を担うために残されました。

381系が最初に投入されたのは、中央西線で運転されていた特急「しなの」だったが、1998年の長野オリンピックの波動輸送を終えた後、次々と引退していき姿を消していった。後継の383系は、そのDNAを受け継いで車体傾斜装置を装備し、やはり所要時間の短縮を実現している。(出典:写真AC)

 

 1998年に予定通りで長野で開催された長野冬季オリンピックの波動輸送に活躍すると、国鉄時代に改造されたクロ381形0番代は最後の役目を終えたとして、その年の11月から次々と廃車の運命を辿っていきました。最後まで残った電気釜・簡易貫通扉スタイルのクロ381形0番台はクロ381−2で、この1両だけは21世紀に入ったあとも車籍を維持していました。おそらくは波動輸送用として残され、臨時列車などに充てられたのでしょう。それも2001年11月に廃車となり、クロ381形0番台は区分消滅していきました。

 クロ381形0番代がすべて姿を消した後、JR東海の381系も間もなく表舞台をさることになります。2005年のダイヤ改正では、381系の「しなの」の運用はついに1往復にまで減りました。一方の383系は15往復の運用を担うようになり、381系の命運が尽きるのも時間の問題となります。そして2008年5月6日、ゴールデンウィークの繁忙期輸送が終わるの待った白馬駅発着の「しなの」の運転をもって、381系はすべて営業運用から離脱し、長らく走り慣れた木曽路からも姿を消していき、その4日後の5月10日廃車。1973年の新製配置と運用開始以来36年に渡る中央西線での381系の歴史に幕を下ろしたのです。

 同じ時期に製造され、運用に充てられる線区と列車によって1987年の分割民営化で「しなの」用はJR東海に、「くろしお」「やくも」用はJR西日本にそれぞれ継承されたものの、前者は国鉄形車両の早期淘汰と新型車両への更新を推し進められたことで、36年でその運用を終えたのに対し、後者はローカル線を多数抱えるという経営環境に加え、未曾有の犠牲者を出した福知山線脱線事故の被害補償とそれに伴う安全対策への投資などもあり、新型車両への置き換えにはなお時間がかかり、結局のところ最後の国鉄形特急車両として2024年になるまで運用が続けられました。

島根県の名所、宍道湖を横目に走り抜けていく381系「やくも」。線路の際まで広がる田圃には、稲の緑が美しく、「ゆったりやくも」のカラーが映えている。(出典:写真AC)

 

 新製された1973年から数えると、既に51年、半世紀以上にも渡って優等列車に充てられた車両はそう多くありません。国鉄が設計した車両の多くは堅牢なつくりであり、往々にして長寿になる傾向がありますが、常に高速で長距離運転を強いられる特急用車両は老朽化の進みが早いのが定番ですが、381系はそうした過酷な運用を日常的にこなしながらも長寿な車両だといえます。

 車体がアルミニウム合金で作られた軽量車体だったこともさることながら、新車の投入が先延ばしにされてしまったとはいえ、老兵となった381系を常に走ることができる状態に維持し続けた所属区所の検修技術者の技術力の高さは特筆に値することでしょう。

 既にアナウンスされているように、2024年4月6日をもって「やくも」の運用に充てられている381系はすべての営業運用から離脱し、後継となる新型車両の273系にその任を託して舞台を去る事になっています。日本で初めて車体傾斜装置を営業用車両で装備し、曲線区間の通過速度を引き上げることにより、運転時間の短縮を可能にした381系は、その後の車体傾斜装置を装備した数々の車両の礎となった、いわばエポックメーカーとも言える車両です。その活躍と技術は、これからも永遠に引き継がれていくことでしょう。

 今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

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