存続問題に揺れるJR芸備線-昨日、中国運輸局、JR西日本、岡山県、広島県、庄原市、新見市の関係者が集まり、第1回の再構築協議会が開催されました。鉄道路線の存廃問題をめぐって、再構築協議会が開催されるのは全国初です。

 

 

1.JR芸備線について

 JR芸備線は、広島駅(広島市)と備中神代駅(岡山県新見市)をつないでおり、中国山地を東西に縦貫しています。全線を通して走る列車はなく、広島~三次、三次~備後庄原~備後落合、備後落合~東城~備中神代~(新見)の3区間に運行系統が分割されています。東側の終着駅は備中神代駅ですが、全列車が伯備線に直通し、新見へ乗り入れています。

 今回特に存廃について議論されるのが、備後庄原~備中神代間についてです。この区間は運行本数が1日3~6往復しかなく、鉄道利用が著しく少ない区間となっています。

 JR芸備線の2022年度の輸送密度(1kmあたりの輸送人員)は、備後庄原~備後落合間が75、備後落合~東城間が20、東城~備中神代間が89となっています。列車1本あたりの平均乗車人員に均せば数人~10人であると思われ、数値的に鉄道で維持することは困難と言っても過言ではありません。収支率も1~3%と極めて悪い状況にあります。

https://www.westjr.co.jp/press/article/items/231128_00_press_shuushi.pdf

 

2.再構築協議会について

 再構築協議会について簡単に説明すると、自治体や鉄道事業者、国等が集まり、鉄道路線のよりよい利活用の在り方や、バス等他の交通への転換について議論し、実証計画を作り実行していくことを目的とした会議の場です。

 ローカル路線の存廃については、自治体を中心に存廃の議論の場につくことを拒否し、協議することすらままならない状況に陥るケースがあったことから、国を交えた会議体を設けて鉄道路線の在り方を議論し、よりよい交通づくりを行っていこうというものです。詳細については、下記リンクをご参照ください。

https://www.mlit.go.jp/policy/content/001586767.pdf

 

 芸備線はまさしく、自治体が存廃の議論を拒否し続け、何も進まない状況が続いてきました。今回、JR西日本の申し出もあり、全国初となる最高値協議会が開催されることとなりました。

 

3.協議会の内容

 議事録が出ていないので、協議会でなされた話し合いの詳細については不明ですが、各種報道を見ている限りでは、JR西日本と沿線自治体がそれぞれの主張をして終わったような形となりました。

 JR西日本は、「利用状況の低迷により、同区間が大量輸送の特性を発揮できていない」との見方を示した一方、沿線自治体は「これまで通りJRが維持すべき」「業績が回復しつつある中で、どうして維持できないのか」といった声をあげました。

 

4.なぜ自治体は廃線を拒むのか?

 広島県、岡山県、そして沿線自治体からは存続を求める声が出ていますが、芸備線の利用状況や経営状況が厳しいという言葉を通り越したレベルであることは、自治体関係者も分かっていることと思います。むしろ、廃線やむなしという状況をひっくり返せる見込みがないからこそ、存廃の議論の場に立つことを拒み続けたとも言えます。

 それではなぜ、自治体は廃線を拒んでいるのでしょうか。私は大きく2つの要因があると考えます。

 

(1)廃線に伴う町のイメージ低下

 廃線になると、列車の行先や地図上の駅としてその町の名前が出てこなくなるため、町の存在を外部にアピールすることが難しくなるでしょう。また、「廃線」=「街の衰退」というイメージを持たれかねず、町が負のイメージを抱え込むこととなってしまうことを恐れているのではないでしょうか。

 

(2)自治体がお金と労力を今以上に割かなければいけなくなる

 鉄道路線が通っていれば、例えその路線運行本数が1日数本であったとしても、その沿線付近は「公共交通が確保されている」ことになり、極端なことを言えば鉄道事業者任せにすることもできます。

 しかし、鉄道が廃線となると、沿線が”交通空白地帯”となります。「自らの町の中の移動手段を確保する」ことを自治体は建前としているので、廃線になった沿線に対して、地域交通を確保する必要に迫られます。

 それは代替路線バスであったり、コミュニティバスやデマンドタクシーを自治体が運営することになることが多いですが、代替路線バスの場合は、バス事業者へ補助金を拠出することになる可能性が高いですし、コミュニティバスやデマンドタクシーを運営するとなると巨額の費用がかかります。また、当然ながらその市や町の職員が補助金拠出や運営に携わることになるため、自治体の労力負担が増大します。「お金や労力をこれ以上かけられない、かけたくない。」-そんな思惑があるのではないでしょうか。

 

5.存続か、廃線か―筆者の考え

 芸備線の存続にかかわる問題については、居住者が少ない地域の移動手段の確保について、鉄道事業者と自治体のどちらが担うのか?という点で問題になっています。ものすごく悪い言い方をすれば、押し付け合いの様相を示しているともいえます。

 私自身の考えは、芸備線の当該区間はいずれ廃線になるのではないか、とみています。前述の通り輸送人員や収支率は極めて悪く、全国ワーストレベルです。また芸備線は昭和初期に開通した路線であり、勾配を避けるために遠回りなルーティングをしているところがあります。線形も悪い上に保守経費も最低限に抑えられているため、随所で25km/h制限(雨の日に至っては15km/h制限)がかかり、とても遅いです。利用者が少ないうえに、鉄道の強みである高速走行もできないため、鉄道としての特性を発揮できているとは言いがたいです。

 それならば、廃線は受け入れることとして、他の交通モードに移行する上でJR西日本から資金や技術的なノウハウを少しでも多く引き出せるよう交渉していくほうが、廃線を拒否してズルズルいくよりもよっぽど前向きで地域のためになると考えます。

 

6.終わりに 沿線自治体に思うこと

 芸備線の沿線自治体の発言を見ていると、「JRが責任を持って運行を維持しろ」の一点張りです。確かに、自治体だけではどうにもならない、と言いたくなる気持ちは分からなくはありませんが、自らの地域の交通について、地域の人が移動しやすい環境を考え、事業者や市民と協力して作っていこうとする姿勢、施策が全くと言っていいほど見られないことを、非常に残念に思っています。自治体がやるべきこと、考えるべきこと、できることはもっとあるのではないかと思います。

 今回の再構築協議会を報じた記事に、読者のコメント(ヤフーコメント)が多数ついていましたが、大半は自治体の姿勢に対して冷ややかな見方をするものでした。芸備線のケースでいえば、自治体が自分事として地域の交通に向き合う姿勢を示すことが、求められているのではないか―私はそう思っています。