ぱらのみっく・ういんどう

ひとり旅のブログ。乗り鉄中心、バスに船、街歩き。ひとつのテーマをじっくりと…。

憧れの台湾ナロー、虎尾の製糖軌道を歩く【虎尾糖廠・馬公厝線 2024年1月】

台湾には現役の製糖ナロー軌道が残っている。

Twitterで海外鉄道の情報をよく見るようになった10年前頃にそんな話を聞いて、ずっと気になっていた。毎年「今年で最後かも」と言われていて、しかしなかなか踏ん切りがつかず、行けないままなのかなあ…。そう思っていたが、渡航制限が消え去った2023年になってもまだ運行が続いているようだ。しかも勢いで取った桃園行きのスクート航空券が手元にある。あれ、これ、行けるのでは??

 

そんなこんなで2024年の正月休み。夕刻に台湾高速鉄道の雲林駅に降り立ち、虎尾まではタクシーで200元。

虎尾。大学も産業もあるからか、ちょっと想像以上に街でした。

登豐米蘭商務旅店(ミラノデンバーホテル)という、妙に名前の由来が気になるホテルに泊まり、自助洗(コインランドリー)で洗濯も済ませ、翌日に備えて早めの就寝。

 

畑行き1・2便/朝の中正路踏切

翌朝、食堂で塩っけの強い卵とおかゆを掻き込んでから街に出る。8時少し前。

バイク行き交う通りの端を歩き、中正路の踏切までやってきた。道端がそのまま朝市のようになっていて、肉屋があったり、トラックの荷台で白菜を売っていたりと大変賑やかだ。

中正路踏切。道端で白菜を売っている。

踏切小屋にはもう人がいて、トランシーバーでなにやら話している。どうやら今日は列車が動くらしく一安心。下調べの通りならもうすぐ来るはず。

どこで写真を撮ろうか、とそろそろと動き回る。虎尾の街中は、線路とも裏道ともつかないような風景の中を走る景色が数年前まで展開されていたのだけど、段々と整備が進んだらしく、線路沿いには舗装された遊歩道が出来ている。将来の観光列車化を見据えているのだろうか。

朝日眩しい虎尾。踏切から工場方向を望む。

工場からサトウキビ畑へ行く便はどうせ逆光になるし、街の風景を入れたスナップにしよう。GRiiiを片手に踏切から少し離れた場所に陣取る。

 

8時15分ごろ、踏切警手のおっちゃんが出てきて警報機が鳴り出した。遮断ロープがそろそろと下がり、交通が止まる。いよいよだ。

ギャリギャリガタガタと音を立てながら、軽便鉄道が街を行く。

オレンジの小火車が、黒と黄色の小さな貨車を引き連れて、キャリキャリと走ってきた。貨車は空車だけれど、なかなかに長くて迫力がある。速度も遅く、踏切も閉まったまま、だんだんとバイクが溜まる。

列車が通過し終えてロープが上がると、水門を開け放ったようにまた交通が流れ出す。

バイクの洪水。虎尾は大学もあり、かなり人流は多い。

ああそうだ、ぼくはこれが見たかったんだ。今年が最後かもしれないと言われて何年間も経ち、きっと変わった景色も多いけれど、良くここまで走っていてくれた。一つ憧れの街に来ることが出来た。今日は長くなりそうだ。

 

通常、午前は8時と9時に工場を出る、というのが事前調査でわかったことだけれど、次はいつ頃だろうか? 適当に街をぶらつきつつ、次の撮影ポイントを探してみよう。とりあえず、線路沿いの遊歩道を進んでいこうとしたけれど、飼い犬が激しく吠えてくる。おおっとコッチは行かないほうがよいな…と躊躇っていると踏切が鳴り出した。

民家のガレージと一体化した線路をゆく。これはこれで併用軌道の雰囲気?

あれ、もう?まだ9時にはなってないぞ、いや専用線の時刻なんて当てにならないものが。とりあえずカメラを構える。

かなり長い編成が街なかをゆっくり走る。

焦って写真はあまり上手く決まらなかったが、軒先やガレージの前を抜けていく列車を見られたのでそれは満足。

踏切小屋に戻り、Google翻訳に「次の列車はいつですか?」と打ち込んで、すみません、と警手さんに近寄る。コイツ日本人で言葉分からんのだな、とすぐに理解してくれたようで、スマホに表示された訳文を見てから指をクロスさせる仕草をされた。

踏切でタオルが干されていたり、生活感あふれる雰囲気。

バッテン?わからない、いや、教えられないのかなぁ、とその意図を掴もうとしていると、僕が片手に持っていたメモ帳を認め、そこに「10点」と書き記していただいた。そしてジェスチャーで「戻って来る」。つまり10時頃に折り返してくるということか。わかりました、という仕草とともに、謝謝、と伝えると、『アリガトゴザイマス!』と元気よく日本語で返された。ちょっと唐突で笑ってしまったが、日本人の相手をすることも多いんだろうな。

 

虎尾の街から郊外へ

10時ということで、1時間以上ある。一旦ホテルに戻り、荷物をまとめてチェックアウト。目星をつけておいた撮影地に向かい歩き出す。

レンタサイクルもあるようだけれど、今日は借りないで歩きで巡る。荷物はリュックで7kgすこし、水も持ったしなんとかなるだろう。作戦は「線路沿いを歩いてサトウキビ畑までゆき、適宜写真を撮影、帰りは路線バスで高鐵雲林駅へ」だ。

今思うと、沿線でトイレも水調達も無理なのを考えれば、やはり自転車か、頑張ってタクシーと交渉したほうが良かった気もする…。まあ、とにかく今回は「徒歩鉄」で頑張ってみた。

線路沿いを歩く。遊歩道は、カラーコーンがあったりとまだ整備中の雰囲気。

虎尾の街中はずっと、線路沿いがきれいに舗装され、街灯や植栽も整備されている。ここは廃線跡を楽しめる遊歩道で、軌道は昔のまま残してるんだよ、とか言われたら信じてしまいそうだが、ちゃんと現役線だ。

本音を言うなら、数年前までの、街なかヘロヘロ併用軌道の姿の方を見てみたかったな…。でも、いまの姿も一つの生きたナローの形なんだろう。

虎尾糖鐵緑廊、はここまで続いた遊歩道の名前だろうか?観光化が進行中の雰囲気。

街外れまで来た。川を渡ると線路は小さな築堤のような場所を走る。「虎尾建國一村」という軍事系遺構を使った施設が線路の反対側にある。糖鐵の保存車両も見え、気になるが今日はスルー。

その先で道路は線路から離れていくが、その脇にも別の線路が埋まっている。ここは廃線跡のようだ。今は一路線しかない糖鐵も、かつてはこの平野を網の目のように駆け巡っていたらしい。

綺麗に廃線跡が残っている

県道158号線の先でまた線路と合流。このあたりは、片方の線路の端までが舗装されていて、高知のとさでん交通後免線とソックリだ。

台湾の国道195号線である。

併用軌道好きとしては、この辺でもスナップしてみたいなぁ…と思うけど、まだ列車が来る気配がない。もう少し進んでみる。

線路は左に緩やかにカーブを描き、その先で台湾高鐵の高架線路と交差。ここで高鐵とサトウキビ列車を同時に納めた写真を見たことがある。ちょっとその画にも惹かれるけど、流石にギャンブル要素が強いか。

 

工場行き第1便/(旧)北渓厝車站

高鐵の線路をくぐれば順光になる直線区間が広がっていて、編成写真を撮るにはうってつけ。ちょっとゴミのポイ捨てが多いが…。サトウキビ畑から戻って来る列車はここで撮ることにした。Google Mapだと北渓厝車站と記載がある。

構図を考えながらしばらくうろついていると、遠くからフェーン!と汽笛が聞こえる。列車が来る!カメラを構える。

サトウキビ満載!

通過するディーゼル機関車の乗員と目があい、すかさずお互いに手を上げて挨拶。なんだか楽しい。

最後尾には赤い布が結わえてある。

サトウキビ満載の列車は、高鐵の線路の向こうにゆっくりと消えていった。

 

工場行き第2便/(旧)改良場站 手前

さて、次の列車は何処で撮ろう。とりあえず歩きだすけど、この先はあんまりアイディアがない。朝の時点で下調べとはかなり異なる運用だったし、さっきの列車も結局10時をだいぶ過ぎてから来たしで、イマイチいつ来るかわからない状況だ。

この先で線路は小川を渡る。並行する道はないので、とりあえず迂回。

流石にこれは…人は渡れないか…。

春のような田園地帯を歩いてゆき、再び線路沿いの道に合流。更に考えもなく進んでいたが、霞んだ空気の向こうにオレンジの点が見える。汽笛も聞こえる。あっ、もう来るのか!と、その場でカメラを構える。

ヘロヘロ道端軌道をゆっくりと…

各貨車のシルエットはなかなかに不揃いだ。

 

ここは側面逆光だし、とりあえず風景重視のスナップに、遊びで影を強調の一枚。

編成写真はさっき撮れたので、まあもう気楽なもの。この辺りは町外れとはいえ中でも人の往来を感じられるエリアで、バイクやトラックが路駐してあったりする。その雰囲気を長編成のナローがゆく、それもまた愛おしい。

関係者だろうか、黄色のベストの人がバイクで列車の最後尾を追っかけていった。

少し先に、良い三輪トラック!こっちと絡めて撮ればよかったか。

さて、朝見た2本が戻ってきてしまった。このあと果たして列車は来るのか?

少し先の「改良場站」の踏切にはまだ人がいたので、これはこのあとも運行があるのだろうと判断し、更に歩いてゆく。農家の並ぶ田舎道にヘロヘロ路側軌道、無条件に健康に良い。

ここに線路があり、冬場は毎日列車が行き来している。それだけで御飯が進む。

また別の踏切小屋で、待機していた警手のおっちゃんが、僕の姿を認めると盛んに話しかけてくれた。しかし言葉がわからずアー、となっていると、ジェスチャーで虎尾の街から向こうに行くよ、と。なんとなく拾えた単語から、30分くらいしたら来るのかな〜、と察し、謝謝!と伝えてまた歩きだす。

やさしい警手さんの踏切。黄色い貨車流用の踏切小屋が目を引く。

親切な警手さんのおかげで、とりあえずまだ列車が走ることに確信が持てた。まだまだ歩ける。

 

畑行き第3便/9号装車場

更にひたすら西へ西へと歩く。大きな農園区画の先、線路が分岐し、貨車が留置されているのが見える。「9号装車場」についた。此処から先がいよいよ、この糖鐵の目的地たるサトウキビ畑エリアだ。

何両も貨車が留め置かれている。

踏切の先で列車交換ができるようになっている。生きている設備のなかでは、この路線唯一の交換場らしい。GoogleMap上だと「繁殖場站」の表記がある。

少し先で線路はサトウキビ畑の中に消えていってしまった。大きな道路の方は近くの集落に折れて入っていく。

さてどうしようかなとうろついているうちに、遠くの方にライトとオレンジの影が見える。あ、来てるじゃん!足早にさっきの踏切に戻ってカメラを構える。運良く自動車も来なかった。

「鉄✕路」の道路ペイントが郷愁を誘うカッコよさ。

10号装車場へ

1本行ったばかりがたら、次はまた当分先だろう。脚に疲れは来ているけど、まだ11時半。せっかくだし畑の中まで行ってみようか。「南天宮」というバス停のある集落の中を通り、西へ抜けられる道を探す。

GoogleMapだと新光・有才と表記されている集落。大きな関聖帝君廟がある。

Googleマップが示した道は、立入禁止のチェーンが貼られており、その前には野良犬が屯していたので足早に通り過ぎる。一つ横の、水路沿いを抜けていく道に迂回。

水路沿いを歩き、線路と交差する道路脇から列車を上手く撮れそうなポイントを見つけた。悪くないな、と、うろついていると、近くの踏切小屋から警手さんが出てきて盛んに話しかけてくれる。

スマホやら筆談やらを駆使してやっとわかったが、どうもしばらく列車はない、あと1時間は来ないよ?ということらしい。おおっと、そうなんだ…。

このあたりのサトウキビはまだ背丈が低い。

しかしこのあたりの方は親切だ。ろくに言葉も話せないオタクにもできる限りしようとしてくれる。中国語覚えないとな…。

次の列車まで待ってても良かったけど、じっとしてるのは性にあわない。それにさっきの警手さんも不安だろう。少し道を戻り、サトウキビ畑のなか更に西に進むことにした。

どこまでも広い空

たまに大きなダンプトラックが通り、サトウキビを糖鐵の駅まで運ぶ。

育ちきったサトウキビというのはとても背丈が高くて、向こうを見通せない。良い陽気で春の心地、日焼けし額がヒリヒリと痛む。用水路を流れる水の清らかな音が気持ち良い。時たま、大きなトラクターやダンプが走ってきて、ここが巨大農業地帯であることを思い返す。

サトウキビの切れ目に貨車が見えた。

あそこが駅?

10号装車場か!盛んにサトウキビの積み込みを行っているようだ。せっかくだし、この辺でも写真を撮ろう。

 

突然のオタク国際交流

隣の踏切に移動し、構図を色々試していると、後方から白い乗用車がやってきた。

おや立派な車だな?と思っていると脇に停まり、降りてきた男性が話しかけてくる。「アー、Sorry, I'm Japanese, 我是日本人、I can't speak Chinese、エー、Mandarin…」と情けなくもお決まりのフレーズを口にすれば、『Japanese? 日本人ですか?』と返ってきてびっくり。

踏切で思わぬ出会い。

台北から車で3時間かけてきたという彼は、オタク話ができるくらいに日本語が上手く、やはりとても申し訳なくなりつつも、そのまま色々会話する。

『日本からなんですね、日本でもここは有名なの?』と聞かれ「有名ですよ!ずっと来たかったんです!」と思わず返してしまう。

まあ虎尾の小火車は、海外鉄趣味のみなさんは知ってるだろうし、なにより地球の歩き方・台湾編にも記載がある。これは世界的有名撮影地ということでいいですかね。

そんな話をしている間も積み込みは続く。

台北の彼は頻繁に虎尾を訪問しているよう。さっき私が編成写真を撮影した北渓厝車站のストレートも、数年前に訪問済みらしい。この日は13号装車場から車で追っかけをしていて、このあと虎尾に向かっていくんだと、撮った動画を見せてくれた。僕は「午前中に虎尾から歩いてきた、そろそろ切り上げてバスで高鐵駅に出るつもり」と答える。『このへんにバスはないと思いますよ〜』と言われてしまったけど…さっきバス停は見つけたので大丈夫だと思いたい。

 

工場行き第3便/10号装車場

ここはなかなかどう撮るか難しい…と二人で立ち位置を模索していると、遠くの方に汽笛が聞こえ、列車がやってきた。

貨車列のむこうに、オレンジの影。

積み込みを待つためにしばらく停車。やがて出発し、留置中の車両を追い越していく。

そのまま踏切を行き過ぎたが、途中で停車。あっこれは連結だな?と、二人とも立ち位置を変える。

ポイントを切り替え、隣の線路へ。

元より長い編成は更に長くなり、満載のサトウキビといっしょに発車。

車で追っかけをする台北の彼と、立ち位置を変えて撮るつもりの僕。お互いなんとなく意図を察して簡単に別れの挨拶をし、私は走り出し、彼は車に乗る。手を振りながら、異国で思わぬ出会いがあったことを喜ぶ。

サトウキビの海をゆく。

まあ、その後また同じ場所で立ち止まって写真撮ってて、お互い笑っちゃったけどね。9号方面に行くであろう彼は、何枚か写真を撮るとすぐに出発していき、また一人に。さて私はどうしよう。シャッターを切るたびに疲れが回復した気分になるけど、なにせもう手持ちの水がない。次のバスまで1時間ほどあるが、ぼちぼち潮時か。

 

畑行き第4便/雲103号線踏切

道を戻りながら線路の方に目をやると、先程列車の時間を教えてくれた警手さんが旗を持って道路交通を止めはじめている。そうか、さっきの工場行き列車と9号装車場で行き違って、別のサトウキビ畑行きが来てるんだ!と気づいて、急いで望遠レンズを装着。

ゆっくりゆっくりと道路を横断。

そして、サトウキビ畑の中を大きくカーブし、10番装車場へ。

 

離脱、バスで高鐵雲林駅へ

よし、今度こそ満足。とりあえず今日は離脱しよう。この先の11号~13号装車場は、また次回、レンタサイクルかタクシーチャーターで行きたい。流石に徒歩は無理だ。

のどかな田園地帯。なんで初めての国で急にこんなところにいるんだ、という気分にもなりながら、とにかく歩いた。

9号装車場近くの集落まで戻り、嘉義客運「馬光南天宮」のバス停の前で待つ。

雲林市區公車202号線、というのに乗れば良いようだ。バス停には始発停留所の時刻しか書かれておらず、GoogleMapで出てくる時間もアテにならないので、日本と比べると乗車のハードルは高い。スマホで位置情報を確認しながら待って、バスがカーブから飛び出してきたら、ぴっと挙手。こうしてアピールしないと通過されてしまうらしく、ちょっと緊張した。

無事止まってくれたバスに乗り込んでしまえば、特に難しいことはなく、あとは車内の端末に悠遊卡をかざすだけだ。車内はガラガラ、いくつかの集落や工業団地に立ち寄りつつ、あっという間に高鐵雲林駅に戻ってきた。

ありがとう糖鐵!

ファミマで水を買い一気に飲み干す。

まだ14時台で明るいし、高鐵駅からまた虎尾に戻っればあと何本か撮影できるかな……というのもちょっと考えたけど、なにせ脚がかなり痛いので厳しい。次の宿を高雄に取ってしまったから、このまま高鐵で南下してしまおう。

 

むすび

ずっと来てみたかった路線だけあって、疲れこそしたけれど、撮影はすごく楽しめた。ヘロヘロ併用軌道のある風景は健康に良い。願わくば、虎尾の街なかが整備される前に来てみたかった…けれど、ともあれ現役のうちに訪問できてよかったなと思う。

そういえば、装車場でトラクターを使って貨車を引っ張る様子を見損ねてしまった。サトウキビ畑の末端部も行けてないし、工場の方や廃線跡の鉄橋も見れていない。虎尾の街もちゃんと歩いてみたいし…また再履修したいところ。

再見!