ひろば 研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

吾妻線の一部区間の存廃論議か

2024年03月23日 00時00分00秒 | 社会・経済

 「やはり」という印象は避けられません。朝日新聞社が、2023年3月22日19時00分付で「JR東、吾妻線沿線自治体に協議申し入れ 終点付近区間の存廃議論へ」(https://www.asahi.com/articles/ASS3Q5KN9S3QUHNB001.html)として報じています。

 吾妻線は、上越線の渋川駅から大前駅までに至る55.3kmの路線です。元々は渋川駅から長野原駅(現在の長野原草津口駅)までの路線で、長野原線と称していました。また、長野原駅から太子駅までの区間も開業しますが、この区間は1970年に休止、1971年に廃止となっています。一方、長野原駅から大前駅までの区間は、大正時代の鉄道敷設法の別表に第54号ノ2「群馬県長野原ヨリ嬬恋附近ニ至ル鉄道」および第54号ノ3「群馬県嬬恋附近ヨリ長野県豊野二至ル鉄道」として追加されたものです。「嬬恋附近」が具体的に何処のことなのかは不明ですが、1961年まで草軽電気鉄道の上州三原駅が吾妻線の万座・鹿沢口駅(その当時は未開業)の近くにあり、上州三原駅の隣が嬬恋駅であったので、おそらく万座・鹿沢口駅付近が想定されていたのでしょう。そして、1971年、長野原駅から大前駅までの区間が開業します。結局、大前駅から豊野駅までの区間は工事すら行われないままに終わりました。

 私が小学生であった1970年代後半には、吾妻線の渋川駅から万座・鹿沢口駅までの間に特急が走っていました(上野駅が始発・終着駅です)。つまり、万座・鹿沢口駅から大前駅までの末端一駅区間のみが極端に本数の少ない部分であったのです。これは第54号ノ3の存在と無関係ではないでしょう。また、万座・鹿沢口駅までの特急の定期運行は2016年春のダイヤ改正で消滅しており、現在は渋川駅から長野原草津口駅までしか定期的に特急が運行されません。

 このような状態では、長野原草津口駅から大前駅までの区間について存廃論議が起こってもおかしくありません。果たして、JR東日本は、3月22日に同区間について協議を行うように、群馬県、長野原町および嬬恋村に対して申し入れたことを明らかにしたのです。

 JR東日本が発表している「路線別ご利用状況(2018~2022年度)」によると、吾妻線の2022年度における旅客運輸収入は5億3200万円です。線区収支が書かれていないので、上記朝日新聞記事によると4億6300万円の赤字となっており、営業係数は2759円となっています(つまり、100円の収入を得るために2759円の支出が必要になっているということです)。

 そして、同線の平均通過人員は、次の通りです。

 渋川駅から大前駅までの全線:1987年度は3304、2022年度は1932(1987年度の58%程)。

 渋川駅から長野原草津口駅までの区間:1987年度は4506、2022年度は2461(1987年度の55%程)。

 長野原草津口駅から大前駅までの区間:1987年度は791、2022年度は263(1987年度の33%程)。

 なお、上記朝日新聞社記事に書かれていることでもありますが、万座・鹿沢口駅から大前駅までの区間は、下り(万座・鹿沢口駅→大前駅)が1日4本(万座・鹿沢口駅発が平日、土休日ともに8:07、10:37、17:07、19:50)、上り(大前駅→万座・鹿沢口駅)が1日5本(大前駅発が平日、土休日ともに7:17、8:32、10:50、17:32、20:11)となっており、日中は6時間30分以上も空いています。

 JR東日本高崎支社が協議を申し入れた訳ですが、現在のところ、地域公共交通活性化再生法に定められる法定協議会ではなく、任意協議会での議論を念頭に置いているようです。また、吾妻線の近隣とも言える上越線の水上駅から越後湯沢駅までの区間については、JR東日本による協議の申し入れが考えられていないようです。19億2000万円の赤字にして2022年度の平均通過人員が976と芳しくない数字ではありますが……。

 長野原草津口駅から大前駅までの区間の沿線自治体は長野原町および嬬恋村ですが、やはり嬬恋村への影響が多大でしょう。上記朝日新聞社記事には、次のように書かれています。

 「村には路線バスがなく、実証実験中の乗り合いのデマンドバスで集落と鉄道駅を結んで、交通弱者の支援をしている。今回のJRからの申し入れには『存続や廃止という前提を置かない議論』とあるものの、村の担当者は心配する。『村内の高校生は通学のために乗り、県外から観光客が利用する重要な路線。JRの申し入れにどう対応するか、JRからしっかり説明をきき、慎重に判断することになる』と話す。」

 完全な車社会であるということが想像できます。別荘地でもあるからでしょうか。それだけではないでしょう。公共交通機関がないに等しい、とまでは言えなくとも衰退しているとは言える市町村は全国に多くあります。色々と考えさせられる話です。


コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 東急9000系9012Fと9020系9021F | トップ | 東急バスの連節バス「タンデ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

社会・経済」カテゴリの最新記事