戦争に翻弄された交通営団

経営

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東京メトロの前身である帝都高速度交通営団が民営化されてから、今年で20年が経ちますが、戦争に翻弄された歴史を持っています。

昭和初期の東京における都市高速鉄道は、効率性と整合性に問題が多く、地下鉄建設を核とする交通調整が、強く求められていました。そんな状況に対し、民間団体や交通事業者の経営者から政府などに対して解決の要望があり、1938年3月に陸上交通事業調整法が成立されました。陸上交通事業調整法の成立を受けて、公共性の高い東京の地下鉄は、地下鉄の父とも呼ばれる早川徳次が五島慶太との経営権争いに敗れたこともあって、公的な性格を持つ特殊法人が運営することになり、1941年に帝都高速度交通営団が設立され、銀座線の原型でもある東京地下鐡道と東京高速鐡道は、国と東京都によって運営されることになりました。

その年の12月8日に、真珠湾攻撃による日米開戦で第二次世界大戦が始まり、営団は戦局に応じて赤坂に青年学校を設立し、若年層の職員を入学させて軍事訓練を行い、多くの職員が徴兵されました。1945年1月に銀座駅では、B29爆撃機が投下した爆弾がトンネル上部に到達して爆発し、鉄骨鉄筋コンクリートのトンネル上部に3メートルほどの大きな穴が空き、鉄骨の桁が折損して爆発で破壊された水道管から大量の水が流入し、線路が水没したこともあり、上野にある本社が空襲による被害で、焼け落ちる寸前になったこともありました。その年の8月15日に終戦を迎えますが、部品不足で車両故障が頻発し、当時の制服は軍服で、アメリカの軍人が無断で乗務員室に立ち入って、勝手に列車を運転してしまうこともあり、連合国軍総司令部(GHQ)の日本民主化政策で、1946年3月に戦時経済対策を目的として設立された機関の閉鎖をGHQが指示したため、営団もその対象となり、非民主的な組織として、廃止論が浮上しました。廃止論を声高に唱えていたのは、営団を運営していた東京都で、戦後の東京における地下鉄の整備は、営団ではなく東京都が担おうとしていましたが、当時、東京都には地下鉄の建設を行った実績がなかったため、営団は戦争の遂行に間接的には関係していましたが、地下鉄の整備拡充を目的とする公共性の強い企業体であったため、営団は戦後も存続することになりました。

300形

営団は、設立後初の事業として、戦後の混乱と資金不足の中で丸ノ内線の建設に着手し、丸ノ内線用の車両として、欧米の最新技術を用いた画期的な新形高性能電車を開発することになりました。日本に鉄道が誕生してから、日本の鉄道車両技術は海外に学ぶことで発展を遂げてきましたが、その発展は、戦争の影響により10年もの間、足止めになっていたため、営団の未来のために日本で最も優れた運転屋と言われた東義胤を理事として招き入れ、日本の鉄道技術をリードすべく準備が整えられていましたが、開発では技術の停滞により、海外から電装品のサンプルを取り寄せたものの梱包を解くとその構造すらまったく分からず、大きな衝撃を受ける中手探りで、営団初の新製車両である300形の開発が進められました。丸ノ内線は、1954年1月20日に池袋―御茶ノ水間が開通し、当時としては最新の技術が盛り込まれていますが、鈴木清秀総裁の「いたずらに宏壮華麗を求めない」という方針により、第1期工事では、施設・設備等を最小限に留めました。

その後は、戦後の日本の復興とともに日比谷線、東西線と新線の開通と延伸を繰り返し、1986年に国の臨時行政改革推進審議会が営団を5年以内に特殊会社に改組し、地下鉄路線がほぼ整備されて、路線運営が主たる業務となる時点において完全な民営企業とすることを答申したため、1987年に地下鉄路線がほぼ整備され、路線運営が主な業務となった時点において、完全民営化を目標とすることが、国会において閣議決定され、国の特殊法人等整理合理化計画による民営化により、2004年に東京メトロになりました。

現在、東京メトロは完全民営化に向けて準備を進めていますが、国と東京都が東京メトロの株の売却を来年度中に開始し、来年度の夏以降に株式の上場を目指すことになっています。民営化前から計画がある有楽町線豊洲―野田市間の延伸については、豊洲―住吉間が2030年代半ばの開通を目標に整備を進めることになっており、住吉ー野田市間にについても、昨年に足立区が地下鉄8号線建設促進並びに誘致期成同盟会へ加入したことにより、延伸に向けて計画が前進しました。有楽町線豊洲―野田市間が開通したら、東京の下町地域における都市高速鉄道網の整備は、ほとんど完了することになりますが、本当に営団が廃止になっていたら、今の東京メトロの路線網は、随分違う形になっていたかもしれません。

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参考文献

巷説 東京地下鉄道史 もぐら見聞録 吉村新吉日本鉄道図書株式会社1985年発行

帝都高速度交通営団史 東京地下鉄株式会社平成16年12月発行

もぐらの履歴書 吉村新吉株式会社文芸社2005年1月15日発行

「総説:東京メトロ」関田崇 鉄道ピクトリアル2016年12月号臨時増刊号株式会社電気車研究会 鉄道図書刊行会平成28年12月10日発行

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