電車の「流行デザイン・顔つきのトレンド」を振り返る【特集】

電車の「流行デザイン・顔つきのトレンド」を振り返る【特集】

電車の前面形状を「顔」と言いますが、文字通り鉄道車両にとってのイメージを型作るのがこの「顔」です。

PR効果やブランディングの観点から、最もデザイン性が重要視されてきた要素でもあります。

そんな電車のデザインには時代によっての設計思想や流行から、それぞれのトレンドがあります。

近畿車輛の取締役設計室長を務める南井健治氏によると、鉄道車両のデザインのベースには、以下のような思想があるそうです。

鉄道車両は1958年頃から技術の急速な進歩により、技術がデザインの要となる時代が続きました。しかし、1985年頃からはデザイン手法が導入され、その後は地域に合わせた多彩なデザインが採用されるようになります。さらに2013年以降は、衆から個に、人や環境への優しさをデザインする時代になりました

出典:Design&Make 1)

 

時代によって変わってきた鉄道のデザイン。

今日はそれぞれのキーとなる車両も含めデザイン視点での鉄道車両のトレンドを、電車を中心に振り返っていきます。

 

1930年代:流線型電車「52形」

最も古くは、52系電車がこの始祖でしょうか。

当時世界的に流線型(紡錘形)の車両が流行し、日本でも流線型の蒸気機関車「C53型43号機」が試験的に作られ、非常に好評だったそうです。

この人気を基に、初めて流線形電車としてデザインされ登場したのが52系電車です。

当時の人が思い描いた「レトロ・フューチャー」なこのデザインは、今見てもインパクトがありますね。

上記写真のように「真っ直ぐでカクカクした電車」が当たり前だったこの時代に、いかにも早そうな先頭形状として登場した52系は、非常にインパクトがあったことでしょう。

まだ一体的な大型ガラスを作る技術がないので、平らなガラスをそれらしく並べているところにも時代を感じます。

 

ちなみに、この52系は関西地区の急行電車用として製造されていて、精神は今の「新快速」に通じるところがあります。

現代の新快速車両にも、その伝統を含めたカラーリングがなされています。

この他「ムーミン」と呼ばれるEF55形機関車や、「いもむし」こと名鉄3400系など、各車両へこの「流線形トレンド」が続くことになります。

流線形は、初めて「鉄道車両のデザイントレンド」が生まれた要素だと言えそうです。

 

 

1950年代:湘南顔「80系」

続いては「湘南顔」こと80系電車。

当時の電車は概ね「3枚の窓」が標準スタイルですが、80系は「2枚の窓」に鼻筋と呼ばれる真ん中で折れたデザインが採用されました。

複雑な鋳造が必要な先述の「流線形電車」と異なり、比較的簡易な構造で製造も容易であったことや、実利的にも運転士からの視界確保というメリットから、国鉄・私鉄問わず大流行したデザインです。

 

具体的には

・EF58形機関車
・DD50形機関車
・南海21000系
・富山地方鉄道14780形
・長野電鉄2000系
・西武鉄道101系

…といった様々な列車に波及し、今なお一部で姿を見ることが出来ます。

 

1970年代:額縁スタイル「大阪市交通局60系」

湘南顔の後は、「額縁スタイル」が大きな流行を見せました。この顔の嚆矢は、意外にも国鉄ではなく大阪市交通局の60系電車です。

額縁スタイルは、車両前面を外枠部分から一段凹ませたようなデザインで、それがまるで額縁のようだということから名付けられた愛称です。

斬新なデザインに他事業者も大きな影響を受け、小田急9000形・阪急8000系など、この時代に登場する列車はどこもかしこも額縁スタイルになりました。

 

 

1980年代:黒い顔

続いて流行したのが「ブラック・マスク(黒い顔)」でしょう。

車両前面をブラックにすることで、よりスタイリッシュな印象を持たせています。

先の60系でも一部で採用されていますが、大きく黒を採用したのは1979年登場の国鉄201系電車でしょうか。

ブラック・マスクな電車は今なお製造されており、201系が在籍していた大阪環状線でも後継車両として登場した323系では普通にブラック・マスクが採用されるなど、デザインとして定番化しています。

 

 

1980年代:角型ライト

ブラック・マスクと同じ時代に流行ったのが、角型ライトの車両です。

この始祖は1979年に登場した京急800形電車(808編成)で、同時期に登場した京阪6000系や、営団地下鉄01系など、斬新さをアピールする列車を中心に丸形ライトから角型ライトへと切り替わりました。

ブラック・マスク+角型ライトという組み合わせの流行は平成頃まで比較的長く続きましたが、現在は新しい照明であるHIDやLEDの登場で、やや旧式化しています。

 

 

1990年代:水戸岡スタイル

工業デザイナーであるドーンデザイン研究所の水戸岡鋭治さんが手掛けた鉄道車両が、現在までブームになっています。

斬新なデザインで登場した883系「ソニック」や大きな賞を受賞した787系「つばめ」を皮切りに、885系・新幹線800系・ななつ星に至るまで、作品は多岐にわたります。

顧問となっているJR九州以外にも、

・岡山電気軌道(MOMO・KURO)
・和歌山電鐵(いちご電車など)
・富士急行(富士山ビュー・6000系など)
・富山地方鉄道「アルプスエキスプレス」
・京都丹後鉄道KTR8000形「丹後の海」
・若桜鉄道WT2500形

…などなど、西日本を中心とした鉄道車両にて採用されています。

 

2010年代:LEDライト

小型で輝度の高いLEDライトは、鉄道車両のデザインにも革命をもたらしました。

これまでは照度の関係や照明装置自体のスペースの問題から、ある程度取り付け位置が制限されていましたが、LEDはそれらを克服し、非常に自由な取り付け位置をもたらしています。

大阪メトロ400系では、照明を四隅に配置するという従来では考えられなかったデザインとなりました。

また、JR東日本E353系の縦長配置や、JR九州YC1系の奇抜な配置など、その自由度の高さを存分に生かした電車が次々と登場しています。

 

一方、経営の都合や大量増備で合理性を求められるケースが多い場面では、LEDのメリットはあまりデザイン面には振られていない印象です。

むしろLEDライトの小ささの影響で、「目(ライト)が小さい」電車が増えつつあります。

・JR東日本E233系/E235系
・神戸市営地下鉄6000形

・横浜市交通局4000系
・福岡市交通局4000系

 

 

まとめ

ということで、電車の「顔」のデザインについて年代ごとにまとめましたが、どうでしたでしょうか。

書いていて感じたのは電車のデザインにトレンドもあれど、鋳造技術や照明装置の発達など、技術的な要素にも左右されるんだなぁという点でした。

2020年・2030年にはどのようなデザインが流行するのでしょうか。楽しみですね。

 

関連リンク

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参考文献

  1. Design&Make「鉄道車両のデザイン ー 過去・現在・未来」
  2. 東洋経済オンライン「電車の「顔つき」を左右する決定的要素とは何か」

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