トロッコ列車で出会った親子 | あさかぜ1号 博多行

トロッコ列車で出会った親子

東海道本線・東海道新幹線の発着する豊橋駅と中央本線(辰野経由)と接続する辰野駅までの間を結ぶJR飯田線。
昭和の時代から旧型国電の最後の活躍の場として人気があり、その後も乗っても撮っても魅力のある路線であり続けています。
そんな飯田線では過去から現在まで様々な臨時列車やイベント列車が走っていますが、今回はその中でも平成の時代に走ったトロッコ列車「トロッコファミリー」号乗車の思い出と、そのたびで出会った親子の思い出を書きたいと思います。

このトロッコファミリー号は、1987年から2006年にかけて飯田線豊橋ー中部天竜間で運転されていたトロッコ列車で、もともとは飯田線沿線にある佐久間ダムなどの観光客をターゲットにした列車でした。
当初はディーゼル機DE10が旧型客車と貨車改造のトロッコ客車を牽引するスタイルで運転していましたが、時代が平成に入った頃から人気の電気機関車EF58がこの列車の牽引を担当することになったり、1991年に佐久間レールパークがオープン、さらにはそこで保存されていた貴重な輸入機関車のED18 2号機も牽引に加わるようになって鉄道ファンにも人気の列車となりました。
そのような列車なので、私も一度、佐久間レールパークの訪問を兼ねて乗ってみたくなりました。

そんなトロッコファミリー号に初めて乗ったのは、1995年のGWのことでした。
乗日付は忘れてしまいましたが、車日の前日に品川発の「臨時大垣夜行」こと品川ー大垣間の臨時普通列車9375M列車に名古屋駅まで乗り、その後東海道線快速で豊橋駅まで戻りました。
当時のトロッコファミリー号の豊橋駅の発車は9時45分すぎなので、9:30分頃に発車番線の1番線に向かうと、すでに多くの人が乗車や撮影のために集まっていました。
そんな中、駅に隣接した豊橋運輸区から推進運転でトロッコファミリー号の編成が入線。
この日の牽引機は、ぶどう色塗装のEF58 122号機で、同機が12系客車2両、そしてトロッコ客車(貨車改造のものと荷物社会増のものの2種)を牽引するのが当時のトロッコファミリー合の編成でした。
9:47(だった記憶があります)にトロッコファミリー号は豊橋駅を発車。
肝心のトロッコ車両には途中の豊川駅からでないと乗車できないので、発車後しばらくはトロッコ車と一緒に連結されている12系客車で待機し、豊川駅を出たところでトロッコ車両に移動しました。
この時乗車したトロッコ車両はパレット積載用の荷物車マニ44形を改造したオハフ17形で、さすがは客車に分類される形式からの改造車とあって、乗り心地も予想していたよりよかったのが印象的でした。
トロッコファミリー号は通常の普通列車よりもゆっくり目なダイヤが設定され、さらに景色のよい区間では減速して運転され、ちょうど晴れて暑くもなく寒くもない快適な気候の日だったこともあって素晴らしいトロッコ列車の旅を満喫できました。
そして12時頃に終点の中部天竜駅に到着しました。

中部天竜駅に着いたトロッコファミリー号の乗客はそのほとんどが佐久間レールパークへと向かったようで、私ももちろんその中にいました。
初訪問のレールパークを楽しんで、再び中部天竜駅に戻ってきたのが15時少し前だったと思います。
この日の予定はトロッコファミリー号と佐久間レールパークだけで、この日の夜の上り「大垣夜行」(定期列車)に乗車するために大垣駅へ向かうまで時間的な余裕もあるので、中部天竜からは119系の普通列車で豊橋駅までゆっくり向かうつもりでいました。
しかし、駅ではこの後の豊橋行きのトロッコファミリー号の指定席にまだ若干の空席がある旨の案内放送が流れていて、その放送につられて窓口で指定券を購入し、帰りも豊橋までトロッコファミリー号を利用することにしました。
帰りに乗車したトロッコ車は、トロッコファミリー号の運転開始当初から使用されていた無蓋貨車トラ90000形の改造車でした。
このトラ90000形改造のトロッコ車は、乗車した年(1995年)の運転を最後にトロッコファミリー号の編成を外れて廃車になったので、2種類のトロッコ車両の乗り比べができたことを含め、いろいろな意味で貴重な乗車体験になりました。
上り列車では中部天竜駅発車時点からトロッコ車に乗車できるので、私もさっそくトロッコ車の指定された座席へ。
貨車改造のトロッコ車に乗車するのは初めてでしたが、走り出してみるとその乗り心地はいろいろな意味でインパクト大でした。
下り同様普通列車よりもゆっくりしたスピードで走るものの、もともとが乗客を乗せることを想定しない貨車だけに台車のバネも簡素で、走行時の振動がダイレクトに伝わってきます。
また飯田線に多いトンネル進入時などの風圧も直接感じられ、普段なかなか体験することのないワイルドな列車旅を楽しむことができました。

そんな独特な乗り心地を味わいながらトロッコ車の旅を楽しんでいると、不意にお父さんと男の子の親子から声を掛けられました。
トロッコ車の座席は、中央の通路を挟んだ進行方向左右両側に、2人掛けの席がテーブルを挟んでボックスシート上に配置されたもので、一人で乗車していた私と2人で乗車したこのお父さんと男の子が向かい合わせ席の相席になっていました。
家族連れやグループ客の多い車内で私がポツンと一人であれこれ写真を撮ったりしているのを見て声をかけてくださったようでした。
男の子は鉄道が好きなようで、この日も私と同じようにトロッコファミリー号に乗って佐久間レールパークに行くために乗車したとのこと。
私も鉄道好きであることを話すと意気投合し、お菓子を分けてくださったり電車の話で盛り上がったりして、とても楽しい時間を過ごすことができました。
豊川駅でトロッコ車の乗車可能区間が終わり12系客車に移動した後も一緒のボックス席に座って終点の豊橋駅まで乗車。
豊橋で下車する親子と名鉄で名古屋へ向かう私とは豊橋駅の改札でお別れとなり、お互いまた何かの機会に再開できることを願いながら2人と別れました。

もともとは完全な乗り鉄&撮り鉄旅のつもりだったのが、トロッコ車の独特な開放感のおかげか思わぬ人との出会いを楽しむことができ、素晴らしい経験ができました。
あの時の男の子、確か小学校3~4年生と言っていたので、今頃は早いものでもう40歳近い年齢になっているはずです。
もちろん彼は私のことなどとっくに忘れてしまっているんだろうけど、あの時の出会いのことを思い出して、今どうしているのか、ちょっとだけ気になったりしています。