2023年 ホームドア関連のトピックスを振り返る

あけましておめでとうございます。2024年も当Webサイトをよろしくお願いいたします。

当サイトは鉄道駅のホームドアについて紹介する記事をメインコンテンツとしています。そこで昨年に続きまして、国内のホームドアに関する出来事や話題で2023年を振り返ってみたいと思います。

1 2023年に新設された注目のホームドア

1.1 小田急電鉄 本厚木駅

小田急本厚木駅の大開口ホームドア

まずは2023年内に新設されたホームドアの中から、技術的・趣味的に注目したい4駅を紹介します。

小田急電鉄本厚木駅では、2月18日に下り1・2番ホーム、9月30日に上り3・4番ホームにおいて、同社初となる特急ロマンスカーと一般型車両のドア位置の違いに対応した「大開口ホームドア」が稼働開始されました。

大開口ホームドアは既に多くの事業者で採用されていますが、小田急本厚木駅の特徴はさまざまなサイズの二重引き戸式を組み合わせた複雑怪奇な構造。しかし、最大4m超の大開口を以てしてもロマンスカーのすべてのドア位置に対応することはできず、「EXE」と「MSE」は一部号車のドアを締め切っています。多車種が発着する駅へのホームドア設置が如何に難しいかを物語る事例となりました。

1.2 JR西日本 大阪駅21番のりば

JR大阪駅うめきた地下ホームのフルスクリーンホームドア

3月18日に開業したJR大阪駅「うめきたエリア」の地下ホーム21~24番のりば。このうち21番のりばでは世界初となる次世代型ホームドア「マルチフルスクリーンホームドア」が初めて実用化されました。戸袋部分も含めたドア全体がふすまのように移動することで、車両ドア位置に合わせて開口部を自在に構成できます。

JR西日本といえばドア位置の異なる車種に対応できる「昇降式ホーム柵」を既に実用化していますが、うめきたホームは将来的に昇降式ホーム柵でも対応しきれないほど多様な車種が乗り入れると予想されるため、それを見越したホームドアとして開発されました。近未来的でダイナミックな動きをするこのホームドアは一般の利用客からも大きく注目されており、間違いなく2023年のホームドア界を代表する出来事となりました。

1.3 相鉄・東急直通線 新横浜駅

相鉄・東急直通線 新横浜駅のホームドア

うめきたホームと同日の3月18日、関東では相模鉄道と東急電鉄を結ぶ「相鉄・東急直通線」が開業しました。両社の会社境界となる新横浜駅に設置されたホームドアは、両社それぞれの事情を加味して一部号車や番線ごとに多くの違いがある独特な仕様となっています。

1ホームにつき1か所だけ存在する二重引き戸式の片開きドア、ホームによる建築限界の違いと対応車種の違い、それによる開口幅の違いや大開口部の有無などなど、その変態度でいえば本厚木駅やうめきたホームに匹敵していると個人的には思っています。一見するとごく普通のホームドアでも、よ~く観察してみると底知れぬ面白さがあることを実感する良い事例になりました。

1.4 JR東日本 京浜東北線大宮駅など

JR大宮駅1・2番線のスマートホームドア改良タイプ

JR東日本メカトロニクスが開発した軽量・低コストな新型ホームドア「スマートホームドア」は現在までに30駅以上で採用されていますが、6月に設置された南武線武蔵中原駅や7月~8月に設置された京浜東北線大宮駅では、筐体・扉の高さを上げる、扉下部のバーを2本に増やすなど防護性を高めた改良タイプが初めて登場しました。その後、横浜線の十日市場駅や中央・総武線各駅停車の東中野駅などでも同型が採用されています。

製造時期の都合なのか現在は従来タイプと並行して導入されていますが、順次こちらの改良タイプが標準になっていくものと思われます。また、JR東日本メカトロニクスはこれをベースに扉を二重引き戸とした “大開口タイプのスマートホームドア” を特許出願しており、実用化されれば車種によってドア位置が異なる路線でも設置が容易になるでしょう。

2 ピックアップ:ホームドアに代わる安全対策も整備進む

「ホーム安全スクリーン」の紹介動画
JR西日本テクシア公式YouTubeチャンネルより

2023年は都市圏の多くの鉄道会社において、ホームドアやエレベーターなどの整備費用を運賃に上乗せして徴収する「鉄道駅バリアフリー料金制度」を活用した運賃値上げが実施されました。NHKの記事によると、小田急電鉄の事例では、制度の活用により従来の2倍近いペースでホームドア設置を進められる見込みだとしています。

一方、制度を活用できるホーム上の安全対策はホームドアだけではありません。東武鉄道は今年度から東武アーバンパークラインの各駅で車両ドアのない部分に「固定式ホーム柵」の設置を開始。阪急電鉄も伊丹線で「センサ付きホーム固定柵」を順次設置しており、2024年3月23日からはワンマン運転が実施される予定です。またJR西日本は、物理的な転落防止設備ではなく、ホーム上に設置したセンサにより乗客の転落を検知して速やかに列車を止めるシステム「ホーム安全スクリーン」を関西エリアの主要駅で順次整備しています。

いずれもホームドアより転落・接触事故を防げる確率は減りますが、それでも確実に “何もないよりはマシ” だと思います。ホームドアが設置されるまでの暫定的な安全対策として、1駅でも多く、1日も早く整備されてほしいものです。

3 その他の主な話題

3.1 都営地下鉄ホームドア全駅設置達成

都営地下鉄浅草線のホームドア

都営地下鉄の4路線では、11月に浅草線西馬込駅のホームドアが稼働開始されたことで、東京都が管轄するすべての駅におけるホームドア設置を達成しました。浅草線と京成電鉄の境界駅である押上駅も、駅を管轄する京成電鉄により2024年2月までの整備完了が予定されています。

なかでも浅草線は他社との直通運転で多くの車両が乗り入れるため、車両の改修にかかる期間・コストが課題でした。そこで、車両側を改修せずにホームドアを制御できる「QRコードを用いたホームドア制御システム」を開発したことが早期の設置完了に貢献しています。車両側にホームドア連携用の無線装置を搭載する従来の方式と比べて車両の改修費は約20億円から約270万円へと劇的なコスト削減を実現し、この話題はメディアを通じてSNSでも大きく話題になりました。

上記の価格は東京都が所有する5500形全27編成における総工費だと思われるので、1編成あたりのQRコードステッカー代(計12枚)は約10万円ということになります。浅草線に乗り入れる他社車両の分も含めると、抑えられたコストは相当なものでしょう。

3.2 JR東日本在来線 ホームドア設置駅数が100駅超え

JR立川駅南武線ホームに停車するE257系臨時特急列車
ホームドアは駅係員の操作で個別開扉している

JR東日本は、2031年度末ごろまでを目標に東京圏の主要路線330駅758ホーム[1]駅数は線区単位で計上。へのホームドア整備を進めていますが、今年は設置駅数が100駅・200ホームを超えました。

ホームドアが増加したことで、JR東日本としては初めて “ホームドア設置駅に特急型車両が発着する” という出来事もありました[2]昇降式ホーム柵が設置されている成田空港駅・空港第2ビル駅は除く。。立川駅の南武線ホームでは、ホームドア設置後の6月と11月にE257系を使用した臨時特急列車が発着。車両ドアとの位置が合わないため、5両中2両のドアのみを開閉することで対応していました。

2010年の山手線ホームドア導入開始から13年でついに大台に達したわけですが、目標となる2031年度末は7年後にまで迫っています。中央線快速などの現時点でホームドア設置駅数が0駅の路線でも、車両改修やホームの基礎工事は着々と進められているので、準備が整いさえすればかなりのハイペースで設置されていくのではないでしょうか。

3.3 見直される非常用設備

阪急春日野道駅ホームドアの非常脱出ドア
国交省ガイドラインに基づき、非常口のピクトグラムや開錠手順が表示されている

2021年に発生した京王線刺傷事件では、列車がホームドアの開口部とずれた状態で緊急停止したため、乗客が窓からホームドアを乗り越えて避難する事態となりました。近年はこのほかにも列車内での傷害事件が相次いでいることから、国土交通省は2022年に車内非常用設備等の表示に関するガイドラインを制定。車内の非常用ドアコックやホームドアの非常開ボタン・非常脱出ドアといった各種非常用設備の周知を強化しています。

また、事件以降に新設されたホームドアでも非常用設備の重要性が見直されてきています。事件の当事者である京王電鉄も一時期は非常脱出ドアを設けていないタイプを採用していましたが、2023年2月に整備した笹塚駅1・4番線からはこれを復活させ、数も1両あたり2か所(10mおき)に増やしています。阪急電鉄も再び非常脱出ドア付きタイプの採用に舵を切るなど、今後ほかの事業者でも同様の流れが来るかもしれません。

4 おわりに

2023年のホームドア界で一番大きなトピックは、やはり世界初となる可変式フルスクリーンホームドアの実用化だと思います。また、ホームドアの製造にも影響を及ぼしていた世界的な半導体不足も解消傾向にあるとのことで、さらなる整備拡大への光明が差す1年になりました。

そして今年は名古屋市交通局鶴舞線や神戸市交通局海岸線、Osaka Metor中央線でもホームドア設置または設置に向けた工事が始まり、これで全国すべての地下鉄路線においてホームドアが1駅以上は整備されることになります。一方で、4月末には広島県にある世界唯一の交通システム「スカイレール」が廃止されるため、久しぶりに “ホームドア設置路線の廃線” が発生する[3]2006年に廃止された愛知県の「ピーチライナー」以来?というのも特筆する出来事になるでしょう。

最後に当サイトの今後の方針ですが、取材したものの記事にできていないホームドアが多数残っているので、新規の取材はしばらく休もうと考えています。もちろん、個人的に「これはデカいニュースだ!」と思うことがあれば飛んでいきますが…

改めまして、2024年も当サイトをよろしくお願いいたします。

出典・参考文献

脚注

References
1 駅数は線区単位で計上。
2 昇降式ホーム柵が設置されている成田空港駅・空港第2ビル駅は除く。
3 2006年に廃止された愛知県の「ピーチライナー」以来?

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