【羽田空港事故救済】約2年ぶり都心発着「はやて」特発 運行中

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JR東日本は2024年1月3日より、羽田空港での火災の影響による飛行機減便により東北・北海道新幹線「はやて」と北陸新幹線「はくたか」上り各1本ずつ運行が実施されています。

2021年度の年末年始輸送以来となる都心部発着「はやて」の登場が注目されますが、改めて東北新幹線の不思議な愛称の使い分けを考えつつ、近年の“救済”・“特発”の事例を振り返ります。

「はやて」も全車指定席の愛称だが……

2024年1月2日、羽田空港にて航空機同士が衝突する事故が発生し、これにより帰省ラッシュの最繁忙期に国内線・国際線が大打撃を受けています。

滑走路が一部使用不可能となっていることによる欠航で困る利用者への救済として、鉄道事業者各社では相次いで新幹線・空港アクセス列車の臨時運転等の対応を実施しています。

このうち東北・北海道新幹線では、札幌・南千歳から函館までの臨時特急と接続を取る格好で「はやて」上り1列車が新函館北斗駅から東京駅まで設定されています。

「はやぶさ」ではなく「はやて」となっており、盛岡駅以北の区間便を除いた都心発着の「はやて」は2021年末〜2022年始の運転以来、北海道新幹線開業後に新函館北斗駅から東京駅までの全区間を走破する「はやて」は初めての設定となりました。

他の新幹線や過去の地震による臨時ダイヤなどでも設定されてきたように、普通車全車自由席(グリーン車・グランクラスのみ車内で発売)とされている点も特筆されます。

「はやて」は運転開始当初こそ仙台駅以北の区間便に自由席が連結されており、「やまびこ」と同様の自由席特急券での乗車が可能となっていましたが、北海道新幹線延伸開業とともに区間便も全車指定席に改められました。

ダイヤ上は320km/h運転をしている臨時「はやぶさ」をベースとしていること・E2系はJR北海道管内を走行した実績がないことからE5系またはH5系使用が確実ななか「はやて」の愛称とした経緯についてファンの間で興味を惹くこととなりました。

・「はやて546号」(1/3,4運転)「はやて544号」(1/5-8運転)

1/3,4
はやて546
1/5-8
はやて544
(参考)
はやぶさ66
1/2-4運転
新函館北斗19:04発18:14発
新青森20:02着
20:12発
19:14着
19:16発

19:16発
八戸19:40着
19:41発
二戸19:52着
19:53発
盛岡20:59着
21:04発
20:11着
20:14発
20:14着
20:22発
仙台21:42着
21:43発
21:02着
21:04発
21:03着
21:05発
大宮23:08着
23:12発
22:15着
22:16発
22:15着
22:16発
上野23:31着
23:32発
22:34着
22:35発
22:34着
22:35発
東京23:36着22:40着22:40着

ダイヤ面では臨時列車が多数運転されていた4日までは東京駅にかなり遅い到着とされている反面、5日以降はより早く東京駅に到着する「はやぶさ66号」ダイヤをベースとした設定となっています。

このほか、北陸新幹線の臨時列車も上り1本設定されていますが、こちらも「はくたか」全車自由席扱いとされていますが、これは「はやぶさ」「はやて」問題とは別の経緯とみられます。

停車駅を絞っていても通常の停車駅ではない新高岡駅と上越妙高駅にも停車するため「はくたか」扱いとされているのは過去の臨時「はくたか」でも似た事例がみられたため同様の経緯かと推定されます。

神出鬼没の「はやて」

東北新幹線「はやて」は2002年12月1日の八戸駅延伸とともに新設された愛称で、盛岡駅以北の延伸区間を走行する全てに列車がこの愛称とされました。

大多数を占める都心発着列車では「こまち」併結列車等の速達タイプ「やまびこ」を置き換える格好で、大宮駅〜仙台駅間の途中駅を全駅通過・E2系10両編成による最高時速275km/h運転・全車両指定席として運行されていました。

早朝・夜間の仙台駅・盛岡駅以北の「はやて」区間便には自由席が設けられている点も特徴的で、「はやて」=全車指定席の列車には運行開始から例外が存在しました。

従来の東北新幹線では郡山駅以南で完結する短区間便が「なすの」・仙台や盛岡駅以南を走行する「やまびこ」盛岡駅以北の区間に乗り入れる列車は「はやて」運行開始当初は北側の発着駅が愛称の使い分け基準となっており、これはJR東日本が運行する上越新幹線「とき」「たにがわ」の使い分けも同様でした。

2005年12月改正では「やまびこ」速達タイプのうち「はやて」に移行せず盛岡駅発着となっていた列車も「はやて」に移行しており、登場から3年で「はやて」は全車指定席・大宮〜仙台ノンストップの速達列車または盛岡駅以北の延伸区間を走行する列車の愛称……と少し定義がしにくい状態となったほか、2007年には仙台駅以南完結の列車が臨時列車で登場したのち、2008年から定期列車でも登場するなど「はやて」「やまびこ」の使い分けはより速達性での分類の色合いが強くなりました。

2010年12月の東北新幹線新青森駅延伸により新青森駅発着の速達「はやて」と仙台駅以北各駅停車の準速達「はやて」の2種類に大別される構成となり、現在の“100番台はやぶさ”の源流となっています。

翌2011年3月改正よりE5系による最高時速300km/h運転の「はやぶさ」が東京駅〜新青森駅間2往復・東京駅〜仙台駅間で1往復運転を開始しています。

運転開始当初から「はやぶさ」には仙台駅発着が設けられているように、従来の最高時速275km/hから速度が向上した列車が新愛称の対象とされ、運転区間は定義に含んでいないことが読み取れます。

この「はやぶさ」運転開始当初に設けられた割増料金には「HS料金」(ハイ・スピード料金)という内部呼称がされる割増料金が設定されています。割増料金が使用列車が断定出来る指定席とされているのは先行事例となる「のぞみ」と同様です。

3月5日に運転を開始したものの直後の東日本大震災により運転を見合わせる不運に見舞われ、運転再開後も半年間は速度制限のある臨時ダイヤとされたため「はやて」と同一料金が適用されていました。

E5系は増備の進行とともに「はやて」にも運用範囲が拡大されてE3系「こまち」との併結運転も見られるようになりました。

2013年3月改正から2014年3月改正にかけて秋田新幹線のE3系は順次E6系投入により代替されており、この混在期間はE6系併結の最高時速300km/h運転の列車は「はやぶさ」と「スーパーこまち」、併結相手がE3系で最高時速275km/h運転の列車は「はやて」「こまち」とされました。

この過渡期はE2系とE3系併結の「はやて」「こまち」も残存していたほか、2013年3月のダイヤ改正に先駆けた1月から余剰となったE2系が上越新幹線で定期運用が再開・200系がダイヤ改正で撤退後に団体臨時列車で最後の活躍をするなど、話題の尽きない1年間となりました。

2014年3月改正で秋田新幹線の全列車がE6系での運用に統一されたことで、「HS料金」の都合で愛称が分けられていたものも「こまち」へ統一、併せてE5系,E6系とも最高時速320km/hに向上しており、この2014年改正以降「はやて」は盛岡駅以南ではE2系使用列車として残存していた7列車と盛岡駅〜新青森駅の区間便のみの“レア愛称”になっています。

2016年3月26日の北海道新幹線開業により同線区間に運転範囲を拡大。従来と同様に「HS料金」の都合で盛岡駅以北完結列車は北海道新幹線でも「はやて」とされており、現在まで2往復設定されています。

その後も盛岡駅以南のE2系使用「はやて」はダイヤ改正の度に置き換えられ、最後まで残っていた下り1列車が2019年3月改正で「はやぶさ」への置き換えが完了して盛岡駅以南の定期列車は運転を終了しました。

その後は現在まで盛岡駅以南では繁忙期の臨時列車のみで見られる存在となりましたが、E2系に新青森駅まで入線実績があることから「はやて」臨時列車での運転機会が残されたことや、「やまびこ」「なすの」増結用として元「こまち」E3系2編成が近年まで残存しており、E5系+E3系で臨時「はやて」として運転される機会があったことから、臨時列車で稀に見られる希少な列車愛称となっていました。

これらの変遷を遡れば、「はやて」は2008年改正の定義となっている全車指定席で大宮〜仙台ノンストップ速達列車または盛岡駅以北の延伸区間を走行する列車の愛称であることには変わらないものの、そのほとんどが「HS料金」を収受する「はやぶさ」に代替、しかし運転区間や車両性能の都合で「HS料金」を収受しない例外的な列車の愛称として残存していることが分かります。

これらの歴史を紐解けば、E3系代替時にE6系「スーパーこまち」として加算運賃必要な別列車とした経緯も、2024年に運行を開始するE8系が“スーパー”を冠しない「つばさ」となった(過去記事)のも納得がいきます。

そして、そもそも東北新幹線新青森駅延伸の際にわざわざ「はやぶさ」と別愛称を公募したのも、「HS料金」を収受する別の列車として定義する必要があったからだと考えれば辻褄があうところです。

これらの経緯を踏まえつつ旅客営業規則第175条を意訳すると、「HS料金」が設けられている「のぞみ」「はやぶさ」ともに加算料金を含んだ別表を添えてそれぞれの指定席特急料金を定義したのち、「自由席は指定席特急料金の530円引き」という大原則の規定があります。これに「特定特急料金」として「のぞみ」自由席料金は「のぞみ」の料金表とその他の東海道新幹線の料金表の差額を差し引きます……といった規定で実運用上は「こだま」「ひかり」と同額で乗車可能なことを定義する文言とされています。

一方で、「はやぶさ」にはこれらの定義がされていないため、仮に現行規則で「はやぶさ」の自由席を発売するとなると「はやて」「やまびこ」との差額である「HS料金」が反映された自由席特急券を作成することとなります。

全車指定席で運転されている「はやぶさ」の自由席特急料金……という通常発生しえない列車の料金をわざわざシステムに登録することは現実的ではなく、対応の素早さからしても救済臨を運行する場合は「やまびこ」と同一料金で設定できる「はやて」扱いとするのが合理的と判断されたのも納得のいくところです。

結構柔軟な救済臨

現代ではあまり使われない古い・難しい日本語が鉄道用語として広く使用されている事例はいくつもありますが、「救済」についてもそのうちの1つでしょうか。

「救済臨時列車」として言われる臨時列車は、定期列車・予定されていた臨時列車に旅客が集中し乗り切れない場合に後続便を運転する場合や、自然災害や大規模な事故により長時間不通となった場合の代替手段として設定されたものを指します。

その経緯から突発的な臨時列車など直前〜当日に運転が決定したものがほとんどで時刻表掲載はされず、近年ではホームページ・SNS発信でその列車設定が示されることが多くなっています。

類似した文脈で使用される「特発」は運転整理手段としては遅延している列車を途中駅から別建てで仕立てて定刻で列車を運行することを指しますが、事前計画にない列車を急遽仕立てること全般を示す文脈でも登場します。

(なお特殊信号発光機の略称として“特発”という単語が頻出しどちらも誤りではありません)

言葉の使い分けは微妙なラインで会社によっても微妙にニュアンスが異なりますが、「救済」がその列車設定の設定事由、「特発」がそのための列車運行の手段といった違いから〇〇線旅客救済のための特発臨時列車……といった語感で使われる事例が多いようです。

いずれも一般利用者にとって馴染みがない言葉ゆえに旅客案内で登場する事例はあまり多くありません。

ネット上で残っている事例だと、お堅い言葉を旅客案内にも使いがちなJR東海が2019年にXへポスト(当時;Twitterにツイート)したものがあります。現在同様の設定をした場合も「特発」の単語はポストに含まれていません。

対して、JR西日本はこれらの臨時列車を「タイムリートレイン」と呼称して一般案内にも使用していた時期がありました。ファンの間で“のぞみレールスター”などの愛称で呼ばれることの多い新大阪特発の山陽新幹線から普通列車まで、特発列車を「タイムリートレイン」と案内していました。

最近は自社ホームページやSNSでの情報発信などの一般旅客への案内ではほとんど見られませんが、稀に駅の電光掲示板や駅作成の急拵えのポスターにその文言が登場してファンの間で話題に上ることがあります。

これらの突発的な臨時列車は今回のように定期列車・臨時列車が満席である最繁忙期だろうとそうでなかろうと柔軟に運転されてきました。

JR東日本だけに限っても、記憶に新しいところとして2021年・2022年の2年連続で発生した福島県沖を震源とする地震による東北新幹線長期不通の際、東北本線経由でE653系使用の臨時快速・常磐線経由で特急「ひたち」延長運転の臨時快速・羽越本線経由で特急「いなほ」延長運転の臨時快速が設定された事例がありました(2021年過去記事2022年過去記事)。

これらの地震では東北新幹線の那須塩原駅以南の運転再開が間に合わなかった場合も想定して上野〜那須塩原駅間で臨時快速列車も運行されました(2021年過去記事2022年過去記事)。

既に発売開始している特急列車を延長として実施することによる煩雑さがあるにせよ快速扱いは採算度外視ですし、今回の各社新幹線の事例も指定席発売の煩雑さがあるにせよ各社とも普通車全車自由席ですぐ設定するスピード感はとても好感が持てる対応です。

このほか変わり種の救済列車としては、2012年の笹子トンネル崩落事故の際の年末に新宿駅12:06発の「あずさ99号」と新宿〜甲府駅間で臨時快速列車がともに183系で追加設定された事例もありました。

この「あずさ99号」は12時ちょうどに「スーパーあずさ15号」12:02発で臨時「スーパーあずさ79号」、そして中央線快速電車を挟んだのちの続行運転で、最繁忙期で車両がギリギリのなかなんとか捻出して輸送力を高めています。当時のリリース(外部PDF)を見てみると最繁忙期なのに指定席の発売ペースが前年比159%という驚異的な状況だったことが見られます。

今回は羽田空港の旅客を救済するためにJR各社が一丸となっており、新幹線の長期不通時に航空会社や高速バス会社が臨時便・増便を頑張っていた事例ともども、日本の公共交通機関の迅速な対応が評価される内容となりました。

合理化・人員削減が進む昨今でも出来る限りはやる姿勢は各社とも好感が持てる反面で、公共交通機関として今後も可能な限り実施出来る体制の維持に期待したいところです。

末筆ながら……

能登地方地震で被災された方々・羽田空港事故機に搭乗されていた皆様に心よりお見舞い申し上げます。

この地震により亡くなられた方々、そして救援物資を運ぶ職務のさなか事故に遭い亡くなった海上保安庁職員の方々に心よりお悔やみ申し上げます。

そして最繁忙期に生じた輸送障害にも迅速に対応した運輸業の各社関係者に敬意を表します。

筆者も能登半島を含めた北陸エリアには何度も足を運び、何度も宿泊。北陸の鉄道は全社の路線、大半の区間に乗車した経験があります。

かつての寝台特急「北陸」急行「能登」寝台急行「きたぐに」特急「北越」「雷鳥」といった懐かしい列車から、今を輝く北陸新幹線、大きな転換時期を迎える「サンダーバード」「しらさぎ」、そして被害が大きかったエリアを走るのと鉄道・七尾線「能登かがり火」「花嫁のれん」。

車両更新が進みファンからも注目されている北陸鉄道。北陸新幹線延伸とともに生まれ堅調な経営を続けるIRいしかわ鉄道、あいの風とやま鉄道。

風光明媚で観光客にも人気で今後が注目される氷見線・城端線。自社発注車から関東・関西私鉄の古株まで個性豊かな富山地方鉄道。富山地鉄・ライトレールとともに路面電車の強さを全国に広めた立役者の万葉線。キハ58形やキハ85系の勇姿を見に全国の鉄道ファンが駆けつけ、今はカラフルなキハ120系と最新鋭のHC85系が活躍する高山本線。

日本一の赤字三セクという困難のなか地域のために挑戦を続けるえちごトキめき鉄道。日本一の米どころ新潟の車窓が美しい越後線。

これまでもこれからも魅力いっぱいの北陸エリアの鉄道と、その沿線にお住まいのすべての皆さまに笑顔と元気が戻る日が1日も早く訪れることを願って止みません。

羽田空港事故では、衝突した日本航空機から乗客乗員全員が脱出できたことが高く評価されています。

航空業界から接遇マナーを学ぶ事業者も見られますが、鉄道業界が一番取り入れるべきは異業種の安全対策からの学びだと考えています。

鉄道の列車火災対策は桜木町事故や鶴見事故など犠牲者を多く出した痛ましい事故を受けて大幅に強化された歴史がありますが、近年ではJR北海道石勝線火災事故のように乗員の指示が不適当で乗客の判断により犠牲者を出さずに済んだ苦い事例もありました。

航空業界は緊急脱出について過去の事故事例から国際的な取り決めから手厚い訓練まで極めて高い水準を維持しており、今回の乗員乗客脱出に大きな効果を発揮しました。

日本の鉄道はヒューマンエラー対策や難燃性などで世界トップクラスの水準の技術開発が進んでいて“事故を起こさない対策”では航空業界より先進的な面もある一方で、津波発生時の避難誘導や火災など“トラブルが起きた際の対応”については、乗員1名あたりの旅客数の比率が極めて高い鉄道事業特有の課題がまだまだ残っている印象です。

列車火災とドアコックの問題については過去記事で詳しく取り上げていますので、併せてお読みいただけましたら幸いです。

当サイトは今後も鉄道の話題に特化して執筆をします。本年ものんびり不定期更新ですが、引き続きご愛読のほどよろしくお願い申し上げます。

2024年1月6日

鉄道ファンの待合室

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