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首都圏における無線式列車制御システムの動き2023 ③車両動向

施設動向
ATACS車上装置の設置が始まったE235系0番台
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首都圏のJR・公民鉄では次期信号保安装置として無線式列車制御システム導入を目指す動きが相次いでいます。全3回の本連載では、2023年の動きを総括することで、在来線向け無線式列車制御システムをめぐる現状を整理し、記録に残すことを目的とします。本記事では、車上設備に関する動向を総括します。

1.はじめに

本記事では、無線式列車制御システムに用いる車上設備に関する動向に焦点を当てます。
2023年はJR東日本の2形式でATACSアンテナ等の車上設備設置が始まったほか、都営大江戸線でもCBTC車上設備の設置が始まりました。以下に各社の動向をまとめます。

※本文中で頻出する保安装置関係の略語は下記の通りです。なお、CBTCとATPの関係についてはこちらをご覧ください。
ATS:Automatic Train Stop(自動列車停止装置)
ATC:Automatic Train Control(自動列車制御装置)
ATP:Automatic Train Protection(自動列車防護装置)
CBTC:Communications-Based Train Control(無線式列車制御)
ATACS:Advanced Train Administration and Communications System(JR東日本の無線式列車制御システム)
SPARCS:Simple-structure and high-Performance ATC by Radio Communication System(日本信号の無線式列車制御システム)

2.2023年の車両動向

2.1 JR東日本

2023年はE233系1000番台とE235系0番台でATACS車上装置の設置が進行しました。労組資料によれば、2023年度(2024年3月期)、東京総合車両センターでは▽E233系1000番台で9編成、▽E235系0番台で11編成がATACS対応改造を施工するとされています。これに加えて、E233系1000番台はさいたま車両センターにおいても施工されています。

次年度のTK改造工事内訳(ワンマン・山手京浜東北ATACS等)
公開された労組資料において、2023年度の東京総合車両センターの業務量と主要改造工事の数量が確認できます。E231系では近郊タイプ5編成(いずれも国府津車)に機器更新が予定されています。E233系では、中央線向け0番台では、グリーン車組み込

京浜東北線E233系1000番台では、2022年12月にサイ146編成の両先頭車にアンテナが追設された姿が目撃されていましたが、2023年1月に本線で試運転を行い、その後、営業運転に復帰しました。同番台におけるATACSアンテナ・関連機器設置最初の事例です。2023年度に入ってからも設置工事が進捗し、12月末までに(2022年度分も含めて)15編成でATACSアンテナ設置が確認されています(参考:編成ノート)。改造メニューは▽先頭車両後位屋根上にATACSアンテナ設置のほか、▽保安装置箱の変更、▽床下にATACS車上無線装置・ID電源装置の設置を確認しています。ATACSアンテナは配管の回し方が異なるものの、東京臨海高速鉄道70-000形における設置方法と似通っているように見受けます。

山手線E235系0番台では、2023年2月に東京総合車両センター内で編成分割して作業を行っていることが確認されたトウ04編成を皮切りに、ワンマン対応改造と同時にATACS関連機器の設置が確認されました。改造メニューは▽2・10号車屋根上にATACSアンテナ設置のほか、▽床下にATACS車上無線装置・ID電源装置の設置、▽一部編成では保安装置箱の変更を確認しています。同形式は従来の仙石線・埼京線におけるATACS車上アンテナとは異なり、先頭車ではなく次位の中間車屋根上にアンテナが設置されていることが特徴です(E131系500番台でも先頭車次位の中間車にATACSアンテナの台座が準備されています)。

両形式に共通することとして、保安装置箱の変更が挙げられます。これについて、業界誌にて下記の記述がありました*1。

“現在、山手線や京浜東北線に導入するD-ATC・ATACS・ATO を1 台に統合したATC/ATO 統合型車上装置の開発を進めています(写真❷)。”
横山、北原、ほか:「山手線E235 系における自動運転実証運転の概要」、R&m、Vol.31、No.1、p.3-6、(2023.01)

現車の銘板などから、上記記事で紹介された開発品の設置が始まっていることが窺えます。ただ、実際に新システムの基盤が設置されているかどうかは不明で、今後ソフト改修等が必要になる可能性もあることから、ATACSアンテナ・新保安装置箱が搭載された編成の動向にもある程度注意が必要です。

2.2 東京メトロ

2023年は引き続き1000系、2000系、13000系でATP無線装置・アンテナの設置が進みました。
2024年度にCBTC運用開始予定の丸ノ内線関連では、2000系の内ATPアンテナが未設置だった2132Fまでの32編成に対する設置工事が完了しました。非接触速度センサDRSSの設置やソフト改修は未了であるため、今後のCBTC運用開始までにもう一段階の改修作業が必要になることが窺えます。今年新製された各編成は、2133F以降と同様に、ATPアンテナやDRSSが当初から設置済みのほか、準備対応のソフトウェアローディングも済んでいることが確認されています。

メトロ2000系ATP車上無線搭載完了+CBTC運用開始は2024年11月
2020年秋より作業が進められていた東京メトロ2000系へのATP車上無線装置の搭載対応が完了したことを確認しました。また、丸ノ内線CBTCシステムの運用開始時期について、2024年11月を目指して準備を進めていることが日本地下鉄協会の資料

銀座線1000系でもATP無線装置・アンテナの搭載が進んでいます。11月には丸ノ内線内で夜間試運転に供されている姿も確認されています。ただ、DRSSについては設置有無を確認できず、現状未設置なのかあるいは外部から見えない位置に設置されているのかは判別できません。
日比谷線13000系ではATP無線装置・アンテナの設置が引き続き進行しています。本稿執筆時点で13101Fから13127Fまで設置を確認したほか、匿名投稿の運用情報サイトの履歴より、13128Fにも設置済みの可能性があります。上記2形式と同様にDRSSは未設置で、もう一段階改修作業が必要な状況です。

2.3 東京都交通局

大江戸線車両では、2023年初頭よりCBTC車上装置設置が始まりました。12月末時点で、12-000形1本と12-600形5本に設置済みです(参考:編成ノート)。改造メニューとしては、▽乗務員室内前面窓上部にアンテナ2個を設置、▽CBTC無線機等の車上装置設置、▽運転台に情報表示器を設置、▽先頭車両後位側車端部客室内に機器設置などです。特に話題になったのは客室内への床上機器設置で、乗車定員が減少するほか、付近の優先席の配置を変える措置がとられています。車両限界が小さい同線の特性上、艤装スペースに限りがあったことが窺えます。駅の掲示物によれば、令和9(2027)年度までに全58編成に対して施工するとしています。

来月から順次優先席位置が一部変更(車上CBTC設備導入の為)
先日、東京都交通局は2027年度(令和9年度)に予定している大江戸線へのCBTC導入に向けた車両改修の関係で、1・8号車の優先席の位置を変更することを発表しました。来月8日から順次変更するようで、同日から、少なくともCBTC設備を導入した1

2.4 東武鉄道

2023年は半蔵門線系統で使用されている50000系50050型の車両情報制御装置更新(Synaptra化)が始まり、この工事に合わせて、保安装置箱がATPに対応したもの(ATP/C/S装置)に変更されています(ただし、対応した箱になっただけで、基板等CBTCシステム関連部品が設置済みかどうかなど詳細は不明です)。2023年以前に東上線から本線に転属した50000型51008F・51009Fで行われたSynaptra化でも、同様に保安装置箱の変更がありました。

なお、Synaptra化にあたり運転台表示器としてモニタを2台設置(グラスコックピット化)しています。この改造メニューについて、下記のような効果を期待するとしています*2。

“また,メーター表示を実現したことで,今後,保安装置などの変更の際にはソフト改修にて表示灯の追加等を行うことができ,改造工事の工期短縮が期待できる。”
星野、石原、ほか:「東武鉄道50000系転属車Synaptraの開発」、鉄道サイバネ・シンポジウム論文集 58、508、(2021.11)

上記のコメントや現車の状況からも分かる通り、保安装置の変更にあたっては▽ソフト改修や▽ATP無線装置・アンテナ等のCBTC対応設備の設置が必要となります。施工状況を鑑みると、CBTCの観点では現状はあくまで下準備に留まり、Synaptra化とCBTC対応改修は切り分けて考えるのが適切です。半蔵門線・東急田園都市線のCBTC化は2028年度の予定ですので、CBTC対応改修は後回しにして、2020年代半ばは50050型のSynaptra化を進める展開が見込まれます。
一方、日比谷線系統で使用されている70000系列では変化を確認していません。日比谷線は2026年度CBTC化予定ですので、上記の50000系列よりも先にCBTC対応の改修(ATP無線装置・アンテナ設置、ソフト改修等)を行うことが見込まれます。機器仕様やスケジュール、改修にあたり段階を踏むのか一括施工とするのかといった点が今後の焦点です。

2.5 東急電鉄

2023年に入って、2020系の各編成が1~2週間程度営業運転から離脱し、長津田検車区内で何らかの作業をしている様子が確認されています。一部では一連の営業離脱をCBTC対応の作業と見る向きがあるようですが、現車を確認したところ明確な変化は確認できず、作業事由を断定できない状況です。2020系・6020系のATC車上装置は、新製当初から、既存の保安装置に加えて新保安装置に対応するためのハードウェアが予め準備されており*3、ここに手を加えている可能性は考えられます。
いずれにせよ、現状ではCBTC対応とは言い切れず、ATP無線装置(アンテナ)の追加設置等は今後必要になることが予想されるため、状況を見極めながら動向を追うことが必要と思われます。5000系や大井町線車両も含めると既存車で対応すべき編成数は50編成以上となり、2028年度のCBTC化に向けて早晩改修作業を本格化させるものと推測されます。

2.6 伊豆箱根鉄道

地方鉄道向け無線式列車制御システムの試験が行われている大雄山線では、2022年3月までに5000系2編成に対してCBTCアンテナ等が設置済みです(参考:伊豆箱根鉄道まとめノート)が、2023年は特に変化は見受けられませんでした。実用化時期は繰り下がりましたが、他編成への波及有無が今後の注目点になります。

3.おわりに

本記事では、2023年の首都圏における無線式列車制御システムに関連する車両設備の動向についてまとめました。2023年はJR東日本や都営地下鉄での車上設備設置開始のほか、相直関係会社においてもCBTC対応に向けた下準備が進行しました。
2024年も引き続き各社で車上設備設置が進むことが見込まれます。また、西武鉄道では2024年度初頭から西武式CBTCの走行試験を開始するとしている*4ことから、今後数か月以内に試験対応の車両が用意されるとみられ、こちらも動向が注目されます。
◇◇
本連載の調査にあたり、限られた時間の中で可能な限り多くの資料を参照するよう努めておりますが、見落としや転記ミスといった手落ちがあるかもしれません。また、平易な説明を重視するとともに文量等の観点から割愛している事柄があります。鉄道信号方面の造詣が深い方におかれましてはその点ご容赦ください。
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―本連載一覧―
首都圏における無線式列車制御システムの動き2023 ①施策動向
首都圏における無線式列車制御システムの動き2023 ②設備動向
首都圏における無線式列車制御システムの動き2023 ③車両動向(本記事)

参考文献

*1 横山、北原、ほか:「山手線E235 系における自動運転実証運転の概要」、R&m、Vol.31、No.1、p.3-6、(2023.01)
*2 星野、石原、ほか:「東武鉄道50000系転属車Synaptraの開発」、鉄道サイバネ・シンポジウム論文集 58、508、(2021.11)
https://id.ndl.go.jp/bib/031782915 (国立国会図書館オンライン「NDL-OPAC」の資料情報)
*3 中邨、中田、ほか:「2020系/6020系車両向けATC車上装置の開発」 、鉄道サイバネ・シンポジウム論文集 55、522、(2018.11)
https://id.ndl.go.jp/bib/029305585 (国立国会図書館オンライン「NDL-OPAC」の資料情報)
*4 西武鉄道:「西武線全線に無線式列車制御システム導入を目指し、多摩川線で無線式列車制御(CBTC)システムの 実証試験を実施します」
https://www.seiburailway.jp/newsroom/news/20230118_cbtc/
https://www.seiburailway.jp/file.jsp?newsroom/news/file/20230118_CBTC.pdf(2023年12月24日参照)

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