JR鹿児島本線を中心に35年近くにわたって活躍する811系交流近郊形電車。783系特急形電車「ハイパーサルーン」とともにJR九州第1世代の車両で、北部九州の都市圏輸送の充実化やイメージアップに貢献しました。現在はリニューアルが進み、外観が変わってきています。

 

 

鹿児島本線を行くPM102編成を先頭にした8両編成の811系。国鉄末期以来のトレンドである軽量ステンレス車体ですが、大きなブラックマスクと赤色・青色を交互に配した飾り帯が独特の存在感を見せています=遠賀川—海老津、2018年(※PM102編成はリニューアル工事を受け、現在はPM2102編成になっています)

 

 

 

811系は1989年にデビューし、国鉄時代からの421系などを置き換えました。傾斜のついた個性的なモノトーンマスクとブルー系の転換クロスシートが並んだ明るい車内は、国鉄形から一気に飛躍したような印象でした。

 

JRではちょうど3扉転換クロスシート車が花開いた時期で、西日本の221系、東海の311系が同期に当たります。当時の雑誌では外観や乗り心地を比較するような特集も見られました。

 

 

転換クロスシートが並ぶ現在の811系の車内。座席のモケットは変更されていますが、非リニューアル車は比較的オリジナルの雰囲気を保っています(写真はPM103編成)

 

 

大きなくずもの入れの設置は斬新な発想でした。一方で貫通扉の形状は国鉄車両とさほど変わらず、JR第1世代らしさが感じられます(PM103編成)

 

 

 

811系は93年までに4両編成28本が製造されました。その後、工業デザイナー・水戸岡鋭治氏が手がけた形式が増えると不思議なもので、あれだけ国鉄離れしたように見えた811系が逆に親しみやすい存在に見えてきたのです。

 

鉄道車両発達史の観点ではそれは当然なのですが、私のような中高年世代には国鉄末期に出た415系1500番台とともに、現在の九州で最も安心感を覚える車両になっています。

 

 

臨時急行列車などの長距離運用を想定し、中間車にもトイレを設けた編成も2本登場しました(サハ811形200番台)。写真は現在唯一残るPM106編成で、前寄りから2両続けてトイレが見られます(この写真では分かりにくいですが…)=博多駅

 

 

 

一方で811系は、登場から25年以上が過ぎた2016年からリニューアル工事が始まりました。足回りをVVVFインバータ制御に換装したほか、外観もイマドキのJR九州といえる「commuter train(CT)」のロゴを配したデザインになりました。

 

側面は長い青帯に変更されすわりは良くなりましたが、個人的には、装飾的に使われた車体のローマ字表記がうるさく感じます。

 

またリニューアル編成はロングシートに変わりました。福岡都市圏の混雑緩和の観点からはやむを得ないことですが、「急行」使用も想定した汎用性が考慮されていたことを思うと、良くも悪くも811系の「クセ」がなくなってしまいました。

 

 

811系のリニューアル編成(写真はPM1504編成)。外観は帯色など小規模の変更にとどまっていますが、車内はロングシートに変わりました=門司港、2022年

 

 

検測装置を搭載した「RED  EYE」と呼ばれる編成も登場(写真はPM7609編成)。赤色の「CTマーク」が目を引きます=西小倉—九州工大前

 

 

 

平成初期に登場してから約35年。811系はJR九州の近郊形電車では415系1500番台とともにベテランの部類に入っています。鉄道を取り巻く環境の変化から811系に求められる役割も変わってきましたが、時代に適応した姿にリニューアルされて今後も活躍を続けそうです。

 

 

783系「ハイパーサルーン」(右)と並ぶ811系(PM2013編成)。ともにJR九州第1世代ですが、改造を経て活躍を続けています=博多駅