ひろば 研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

京阪中之島線の行方は

2023年12月18日 07時00分00秒 | 社会・経済

 私は神奈川県川崎市の出身であり、京阪神地区の私鉄についてそれほど事情を詳しく知っている訳ではありません。そのため、これから取り上げる京阪中之島線についても、そもそも利用したことが一度もないため、報道などからしか知りえないことをあらかじめ記しておきます。ちなみに、私は、京阪電気鉄道については交野線、中之島線および鋼索線以外の全路線を利用したことがありますが、今から35年ほど前、学部生時代のことでしかありません(まだ初代3000系が特急として走っていましたし、京津線は京津三条駅から現在のびわ湖浜大津駅までの路線でした)。それから27年後に京阪本線の淀屋橋駅から門真市駅までの区間を利用したこともありますが、その程度でしかないということでもあります。

 朝日新聞社のサイトに、2023年12月17日の7時付で「京阪中之島線の延伸構想、年度中の決定は見送りへ IRの動向に不安」という記事が掲載されています(https://digital.asahi.com/articles/ASRDH5V2QRDHULFA00J.html)。以前から京阪中之島線の不振が伝えられており、実際に、大々的に宣伝されて2008年10月19日の華やかな開業を迎えたはずなのに、翌年冬には早くも減便ダイヤ改正が行われたほどです。一体、京阪は中之島線をどうしたいのかが気になるところで、朝日新聞社記事はその点についての参考になりうるでしょう。

 ここで、京阪中之島線について説明をしておきましょう。同線は、京阪本線の天満橋駅から分岐して中之島駅までの3キロメートルの路線です。正式には起点が中之島駅、終点が天満橋駅であり、京阪電気鉄道は第二種鉄道事業者です(中之島高速鉄道が第三種鉄道事業者です)。

 中之島駅の時刻表を見ると、全ての列車が京阪本線に直通しており、平日の朝夕に区間急行および準急が運行され、土曜日および休日には普通列車のみ運行されています。また、平日の夕方に1本のみ、樟葉行きの快速急行が運転されます。平日の11時台から13時台まで、および土曜日の12時台から15時台までは15分間隔の運転であり、大阪市の北区および中央区を通る路線としては運行本数が少ない路線であるとも言えます。なお、途中駅は、渡辺橋駅、大江橋駅、なにわ橋駅(中之島駅→天満橋駅の方向での順)であり、起点の中之島駅以外の全駅で大阪メトロの路線と乗り換えることができますが、天満橋駅を除けば便利ではないようです。

 さて、上記朝日新聞社記事に戻りましょう。京阪ホールディングスの加藤好文会長へのインタビューが基になった短い記事ですが、行間に京阪の苦悩あるいは苦境を読みとることができるような気もします。

 京阪は、中之島線を大阪メトロ中央線(および阪神なんば線)の九条駅まで2キロメートルほど延伸するという計画を持っているようです。その理由は、2025年に開催が予定されている大阪万博の会場にしてIRの建設予定地でもある夢洲へのアクセスの向上です。大阪メトロ中央線にコスモスクエア駅から夢洲への延長計画があるので、その計画に(あまり良い表現ではないですが)便乗しようというのでしょう。中央線は近鉄けいはんな線と直通運転を行っており、近鉄は奈良線からけいはんな線を経由して中央線までの直通運転を行うという計画を持っているとのことです〔朝日新聞社2023年7月4日7月4日6時30分付「IR会場へ、人の流れは生まれるのか 路線延伸、関西鉄道会社の思惑」(https://digital.asahi.com/articles/ASR7367GZR6ZPLFA004.html)によります〕。京阪が自力で夢洲まで延長することは、中之島線の実績からして無理であると判断されたのかもしません。

 2023年7月3日、京阪ホールディングスは中之島線の延伸計画に関する組織(しかも会長直轄の組織)を設置しました。IRの開業時期を考慮しても遅きに失したと感じたのは私だけでしょうか。ともあれ、延伸の採算性などについて議論がなされており、2023年度中に延伸か否かを決定する方針であったとのことです。しかし、それが難しくなりました。

 その理由は、やはり建設費や人件費の高騰でした。当然、延伸のための事業費も増えてしまいます。中之島線の実績が需要予測を大幅に下回っているだけに、九条駅まで延伸したところで中之島線の業績は向上しないと判断されたのでしょう。さらに、上記朝日新聞社12月17日記事によれば「IRの事業者が事業の実施は困難と判断した場合に、違約金なしで計画を撤回できる『解除権』が、今年9月から26年9月まで3年間延長された」ことも、2023年度中の決定が困難になった理由とされています。京阪としても解除権が行使されたのではたまったものではないでしょう。およそ2キロメートルしかないとは言え、建設費が高額になることは容易に想像できます。

 九条駅まで延長するのはIRが建設され、予定通りに開業することが前提です。しかも、大阪メトロ中央線は第三軌条方式、京阪中之島線は架線集電方式ですから、そのままでは直通運転ができません(近鉄についても同様ですが、架線集電方式と第三軌条方式の双方に対応する車両を製造するつもりなのでしょう)。阪神なんば線に接続するのであれば直通運転も可能になるでしょうが、阪神電気鉄道がその意向を持っているかどうかはわかりません。夢洲でのIR建設計画が進まないのであれば、九条駅まで延長する必要はなくなるのです。

 そもそも、京阪中之島線は京阪本線の混雑緩和(あまりの混雑ぶりのために5扉車の5000系が登場したのは有名な話です)、鉄道ファンなどの間では有名な計画線である「なにわ筋線」への接続を目的として計画され、建設されたそうです。しかし、「なにわ筋線」の建設がなかなか具体的なものとならなかったこともあって、中之島線の方向性は定まらなかったようです。どう考えても、中之島駅を起点にして現在の姿のままでおしまいというのではいかにも中途半端です。地図を眺めてみると、確かに九条駅までの延伸は自然な形ですが、JR大阪環状線および阪神なんば線の西九条駅までの延伸も可能であると考えられますし、実際にそのような計画もあったようです。ただ、様々な要因があるとは言え、京阪中之島線については不確定要素が多く残されたままで建設され、開業したような印象を受けます。「門外漢が何を言うか!」というお叱りを受けることを覚悟の上で記すならば、少なくとも大手私鉄で京阪中之島線ほどの迷走ぶりを見せてくれる路線もあまりないでしょう。それだけに、行方が気になるのです。


コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« かつては田園都市線を走って... | トップ | 長電バス、日曜日は当面運休へ »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

社会・経済」カテゴリの最新記事