12月11日の東洋経済オンラインで、東急の堀江社長のインタビュー記事が掲載されていました。この内容をもとに、東急新横浜線・東横線・田園都市線の現状と展望をみていきます。

 

 

 

1.東急新横浜線

(1)新幹線乗継だけじゃない!~新横浜の強み~

 まずは、今年3月に開業した東急新横浜線です。相鉄新横浜線も同時開業し、相鉄~東急~副都心線・三田線・南北線方面の直通列車も運行されるようになり、相鉄沿線から新横浜や東京都心へのアクセス、そして東横線・目黒線沿線から新横浜へのアクセスが飛躍的に向上しました。

 インタビューによると、輸送人員は予算の7割程度で、「概ね順調」という状況のようです。特に定期外利用者が伸びているようで、「横浜アリーナと日産スタジアムのイベント再開が大きい。両施設の最寄り駅である新横浜を利用するお客様がかなり多く、それが需要として出てきている」との発言があります。

 東急沿線や副都心線方面から新横浜へ一本で行けるようになったことで、新横浜で東海道新幹線へ乗り換えるという選択肢ができたことがよく取り上げられますが、乗り入れ先の副都心線や東武東上線沿線からであれば、東京駅や品川駅へ行くほうが便利なことも多く、新幹線乗継利用だけでは定期外利用者はここまで増えなかったでしょう。

 そこで出てくるのが、新横浜のもう一つの強みです。新横浜は横浜アリーナと日産スタジアムを擁しており、著名なアーティストのコンサートやイベント、プロスポーツの試合がよく行われます。これは東京駅や品川駅にはない強みで、その強みをうまく味方につけたといえるでしょう。

 

(2)定期利用が伸び悩む理由は何なのか?

 一方で、定期利用者の伸びは、定期外利用より動きはゆっくりのようです。これにはいくつかの理由が考えられます。

 

①割高な運賃

 1つ目は、記事でも触れられている運賃の高さです。相鉄・東急直通線では加算運賃が設定されているため、それが定期利用の足かせになっている可能性があります。

 

②存在感の強い東横線と東海道新幹線

 新横浜の1駅東隣の菊名駅には、東急東横線が通っており、JR横浜線との乗換駅となっています。鴨居や小机など、JR横浜線から都心に向かうのであれば、新横浜駅で地上~地下の乗換をするよりも、従来通り菊名駅で乗り換えたほうが便利です。

 また、東海道新幹線を使えば、品川駅へ11分、東京駅へ18分で移動できます。東急線ー三田線の直通急行列車でも新横浜~大手町間は42分かかることを考えると、速さは段違いです。現に、新横浜から品川や東京へ向かう新幹線通勤客は決して少なくなくありません。

 

③相鉄・JR直通線利用の定着

 相鉄沿線から都心へ乗り換えなしで向かうのであれば、相鉄・JR直通線を使うという手もあります。こちらは相鉄・東急直通線よりも4年も前に開業しており、相鉄・JR直通線利用での都心への通勤が一定程度定着しているとみてよいでしょう。それを考えると、相鉄・JR直通線とルートが似通っている相鉄・東急直通線への利用のシフトは限定的になる可能性があります。

 

2.Qシート

(1)東横線

 東横線では、平日の下り急行列車5本において、有料指定席車両「Qシート」の営業を行っています。これらの列車は全て8両編成で運行されており、インタビューによると「8両編成の列車を対象にQシートを導入した」という趣旨の発言があります。

 東横線は10両編成の列車と8両編成の列車が走っており、特急・通勤特急・急行は主に10両編成、各駅停車と一部の急行は8両編成で運行されています。利用者の多い特急や急行に10両編成は充当されているため、そこにQシートをいきなり導入すると混雑が捌けなくなる可能性がある、ということなのでしょう。

 

(2)田園都市線

 恐らく、今一番Qシートのニーズが高いのは、全国でも屈指の混雑路線である田園都市線でしょう。「一番混んでいる路線にこそ、有料車両を導入すべきでしょ!!」という声が聞こえてきそうです(^^;;;

 なぜ導入されていないのか、このインタビュー記事から手掛かりが2つ見えてきます。

 

①どの列車も混雑が激しい

 田園都市線は全編成が10両編成であり、どの列車も混雑しています。そのため、Qシートを導入してしまうと、他の車両が混雑しすぎてラッシュを捌けなくなる、という懸念があります。

 

②渋谷駅の構造問題

 渋谷駅は1面2線であり、上り線と下り線の線路の間にホームが設置されている「島式ホーム」構造です。そのため、どちらの方向へ向かう客も同じホームに集中するため、常にホームは人でいっぱいになっています。また、折り返し設備もないため、渋谷発着の列車を設定することが困難であるため、渋谷駅にホームを増設するという構想がありました。

 しかしこの構想は、新型コロナ禍の影響で下火になっているようです。通勤利用者が減り(減っているようにはとても思えませんが)、混雑も以前よりは分散するようになった状況で、ホーム増設がコストに見合わない、というリスクがあるといいます。

 渋谷駅のホームや線路が増設されれば、渋谷発着の列車(東急田園都市線内で完結する列車)が設定でき、その列車にQシートを連結するという手も使えますが、現状は難しいようです。

 

<まとめ>

 いかがでしたでしょうか。今回のインタビューから、東急線の現状や抱える課題が垣間見えました。東急新横浜線に関しては、来年3月のダイヤ改正で手を入れるという発言もありますが、開業から1年というタイミングで、どのように輸送改善がなされるのかが注目です。

 新型コロナ禍により、東急をとりまく状況も変わりつつありますが、その中で他事業も含めてどのように連携し、サービスが変化していくのか、目が離せません!!