ルピナスという植物がある。藤の花を逆さましたようないでたちから「昇り藤」ともいう。暑さに弱く、寒さに強いこともあってか、北海道でよく見かけるらしい。僕は意識して見たことはないが。

そのルピナスが根室西線の廃止予定区間の各駅に繁殖しているようで、5月から6月にかけてTwitterに多くの画像がアップされていた。InstagramやFacebookにはほとんど登場しなかったので、Twitterだけの局所現象なのだろう。Twitterではルピナスにこだわる撮り鉄を称して「ルピ鉄」なる言葉まで登場する始末。

↓ルピナス(宮城県仙台市にて)

いずれにしろルピナスの画像がアップされて以降、ルピナスとヨンマルを絡めた写真を撮ろうと多くの撮り鉄が訪れるようになったらしい。ルピナスってそんなにいいか?と僕などは思ってしまう。そもそも花を絡めて撮るのは桜くらいで、それ以外はほとんど撮らない。

と言いながらも、花を絡めた写真もあるにはある。まずは春の花から。

↓梅の花咲く早出川橋梁を渡る“ばんえつ物語号” 磐越西線五泉ー猿和田にて(2005.4)

↓春爛漫の真岡鉄道を走るC12 真岡鉄道市塙ー多々羅にて(2000.4)

問題はルピ鉄で現場が混むのをブロックしようと、ルピナスは刈られてしまったというフェイク記事と共に、過去に撮ったと思しき季節外れの写真をアップする輩まで現れたというからビックリするやら呆れるやら、なんとも情けない話である。

なんかこの話って、いまの撮り鉄をめぐる情勢を象徴しているようで、他愛のない話ではあるが、根は結構深いのではないかと直感的に思う。

要すれば、いい写真が撮れる場所はできれば秘密にしておきたいという撮影地保護の発想である。廃線や列車廃止などにより写真が撮れなくなった時点でSNSなどで発表する。そのような考え方が撮り鉄界に結構広く浸透しているようだ。北斗星がなくなった後になって、また、最近では留萌本線の一部区間が廃止になった後にそれまで見たこともない写真が散見されるようになったことからもたしかだろう。

↓沿線は紫陽花が咲き誇っているのではと思い6月に訪れたが、早すぎた。翌月中旬に再訪したらちょうど見頃だった。湿度が高い日で汗びっしょりになったので、帰りに沿線の銭湯に立ち寄った。滅法熱い湯だった。箱根登山鉄道にて(1989.7)

↓富良野に遅れること数週間、かなやま湖のラベンダーは今が盛りだった。根室本線東鹿越ー金山にて(2021.7)

このような「掟」に反して発表する者は自己承認欲求の強い奴として叩かれてしまう。叩かれた方は反発して、更なる画像をアップするというドロ沼に陥る。僕にとってはどうでもいいことではあるが、なんとかならないものかと端で見ていて思う。

写真には旬というものがある。いい写真は旬を逃すべきではないと思う。それなのに、せっかくいい場所で会心のショットを撮影できたにもかかわらず、それを発表もせず貯蔵しておく、発表するのを我慢できるというのはある意味すごく強い意思の持ち主だと思う。

他方、発表したらしたで人が押し寄せて静かに撮影することができなくなる。定員をオーバーして撮影を諦めざるを得なかったり、屑鉄が現場の秩序を乱すとも限らない。それはそうなるかもしれない。例えば、伊豆急のロイヤルエクスプレスの北海道への送り込み回送の情報が流れると、運転当日東海道本線内に屑鉄が立ち入って電車に遅れが出たではないか。そういうこともあるので、秘匿する気持ちもわからないではない。

そう考えてくると、先にも記したように、この問題は昨今の撮り鉄をめぐる情勢を反映していて、根が深いと思わざるを得ないのである。

↓同業者が密集するポジションを避け、工場の職員用駐車場のはずれに咲いている花を配して三脚をセットした。磐越西線喜多方ー山都にて(2000.10)

↓たまたまコスモスが群生する場所を見つけたので迷わず三脚を立てた。コスモスは思いのほか背が高く、ハッセルのウエストレベルファインダーだったこともあり、脚立を使用した。上越線八木原ー渋川にて(2001.11)