はじめに

 

新型コロナウイルスの流行前まではJR東日本の経営状態が良く、赤字ローカル線を認知していたのは主に鉄道マニアであった。しかしコロナウイルスが社会に及ぼした影響は実に凄まじく、今では度々赤字ローカル線の存廃問題に関する記事が出てくる。しかしその記事はだいたい特定の路線の経営状態と存廃問題に関するものであり、JR東日本が不採算路線を抱えることによって出している損失額の合計に関する話題は少ない。そこで今回2019年度の収支公表データに目を通してみた。2019年度のデータは下のリンクから手に入れることができる。

 

https://www.jreast.co.jp/company/corporate/balanceofpayments/ 

 

 

 

 公表区間の赤字額は年間合計700億円!

2019年度のゴールデンウィーク、お盆休み、正月休みはいずれも行動制限がなかった。それにも関わらず、公表された路線の赤字額は、私の電卓操作に誤りがなければ合計700億円にも及ぶ。公表されているのは輸送密度が2桁台から2000未満までの区間であるため、若干輸送密度に幅があるが、輸送密度が1000を超えていても余裕で赤字である。鉄道が如何に大量輸送によって成り立っている乗り物かがよくわかる。また、輸送密度が2桁台の区間はバス転換したとしても大赤字になることは目に見えている。もはや人が住むべきではないエリアなのではないか?もし住みたいなら自分の足は自分でなんとかしてくれ。

 

 隠れ赤字路線の存在

プレスリリースで示されている収支データは輸送密度が2000未満の区間のみだが、鉄道の経営を安定させるためには、輸送密度が4000を超える必要があるといわれている。

https://www.hokkaido-np.co.jp/article/858895/ 

 

 

JR東日本にも輸送密度が2000~4000の路線は多数存在し、電化路線ほどその赤字額は大きいと考えられる。公表されていないが赤字である「隠れ赤字路線」と公表されている赤字路線の赤字額を合わせれば、年間1000億円以上の損失である。都市部の人間の犠牲によって、地方路線が維持されている。私は実に変わり者で、満員電車が大好きなのだが、ほとんどの人は満員電車にストレスを感じているだろう。都市部の人間のストレスによって地方の数少ない利用者が甘い汁を吸えているのは何だか腹立たしい。
 

 赤字でも残すべき区間も勿論ある

2024年問題によって、今後は路線バスの維持が困難になるため、輸送密度が2000~4000の区間は赤字でも残すべきである。しかしプレスリリースに公表された輸送密度が2000未満の路線でも、残すべきところはある。それは、貨物列車の通り道になっている区間だ。プレスリリースにあるとおり、羽越本線や鹿島線、上越線のいわゆる国境越えの区間は巨額の赤字を叩き出しているのだが、いずれも貨物列車にとって重要な路線である。物流2024年問題の救世主でもある貨物列車、その通り道を守れなければ、あらゆる場所の人間の生活が成り立たなくなる。これは避けなければならない。

もちろん貨物列車が通らない区間は即廃止して頂きたい。

 

 乗って残すよりも乗らずに潰す方が良い

鉄道マニア、特に乗り鉄の場合はこういう話を聞くとローカル線に乗って残そうとすべく、旅に出かけてしまうようだ。しかし、収支公表されたローカル線は鉄道会社にとってこの上ないお荷物であり、即刻廃止にしたいのが本音だろう。しかしここで乗り鉄や一部の物好きによって輸送密度が中途半端に上がってしまえば、鉄道会社が赤字路線を廃止しにくい状況が生まれる。特に乗り鉄の場合、自分はJRのためにお金を落としてあげているんだという傲慢な思い違いをしがちであるが、それは誤りである。鉄道会社の売上に貢献したいなら、黒字路線の特急やグリーン車に乗れ。

 

 どうしても鉄路を維持したいなら…

都市部の人間の犠牲によって、地方路線が維持されるのは許し難いが、そうでない路線に対して都市部の人間が文句を言う筋合いはない。都市部の人間に文句を言われずにどのように地元の路線を維持するのか、要するにJRに負担をかけなければ良いのである。それは、上下分離方式や第三セクターによって可能となる。最近の第三セクター路線は新幹線の開通時に登場することが多かったが、城端線と氷見線があいの風とやま鉄道に移管されると聞いて驚いたと同時に、他の地域もこれに追随してほしいと強く思った。

https://mainichi.jp/articles/20231130/ddl/k16/020/156000c 

 

 

 

 

 

 おわりに

 

鉄道が公共性の高いインフラであるため忘れがちだが、JRは民間企業である。民間企業が赤字部門を切り捨てるのは当然の話で、何故地元と協議が必要なのかが理解できない。お菓子メーカーが売れない商品の生産を止めたり、家電量販店が不採算な店舗を閉鎖するのは当然だろう。それと全く同じことである。

もうすぐ正月休みである。帰省や旅行される方も多いだろうが、その際くれぐれも不採算な路線に乗ることのないように。前述のとおり、中途半端に転送密度が上がってしまえば、JRが赤字路線を廃止にしにくい状況が生まれてしまう。コロナウイルスによる社会情勢の変化や、経費の高騰により、JRのみならず鉄道各社の経営環境は厳しさを増している。赤字路線を一掃しなければ、最悪の場合利用者の多い都市部の路線のサービス低下に繋がる。

この記事ではJR東日本について長々と語ったが、他のJR旅客各社にも不採算路線が山ほどある。いずれの路線も乗って残すべきではない。

 

 

 余談

不採算なローカル線に乗るなと言われても、ローカル線が好きな方には受け入れ難いだろう。しかし今後のJRの経営を考えれば、そうせざるを得ないことは明らかである。そこで、首都圏でローカル線気分を味わえる路線を紹介する。京成金町線、東武亀戸線、東武大師線、JR鶴見線、JR南武支線、東京メトロ千代田線(綾瀬~北綾瀬)である。正月休みにぜひ行ってみてほしい。特に京成金町線と東武大師線は初詣に最適である。

また、少し都心からは離れているが、銚子電鉄とひたちなか海浜鉄道もオススメである。というのも両者の経営状態は少なくとも同じようなエリアの他路線よりは安定しており、しばらくは安泰であるからだ。特に銚子電鉄の経営努力には私も頭が上がらない。また、ひたちなか海浜鉄道は、ひたち海浜公園への延伸計画がある。今後が楽しみである。



京成金町駅に停車中の3600形3668F。この編成は鉄道マニアからターボ君と呼ばれている。