JR関西本線の利用促進に向けた会議が11月29日、三重県庁で行われ、その中で名古屋~奈良間を結ぶ直通列車の実証運行を目指す動きを進めていくことが明らかになりました。今回はこれについて分析します。

 

 

 

1.JR関西本線の概要と現状

 JR関西本線は、JR難波駅(大阪市)と名古屋駅を結ぶ路線です。全区間を走破する列車はなく、運行系統もJR難波~奈良~加茂(京都府木津川市)、加茂~亀山(三重県亀山市)、亀山~名古屋の3区に分割されています。JR難波~亀山間はJR西日本の管轄であり、亀山~名古屋間はJR東海が管轄しており、同じ路線名でも区間によって管轄会社が異なっています。

 この3区間のうち、JR難波~奈良~加茂間は「大和路線」の愛称が与えられています。大阪と奈良を結んでおり、阪奈間の移動や大阪への通勤・通学・行楽利用があります。

 また、亀山~名古屋間は、桑名や四日市、亀山などの三重県内の都市と名古屋を結ぶ役割を担っています。こちらも名古屋への通勤通学等の需要があり、利用者は比較的多くなっています。

 しかし、関西本線の中間に位置する加茂~亀山間については、山あいの地域を通ることもあり、利用者の少ない区間となっています。2022(令和4)年度の輸送密度(1kmあたりの輸送人員)は864人となっており、路線の存続が危ぶまれる状況となっています。

https://www.pref.mie.lg.jp/common/content/001069085.pdf

 

 そのため、沿線自治体の伊賀市、亀山市、三重県及びJR西日本の四者で「関西本線活性化利用促進三重県会議」が構成され、関西本線の利用促進に係る協議が行われている、というわけです。

 

 

2.名古屋~奈良間を走っていた急行「かすが」

 2006(平成18)年3月のダイヤ改正までは、名古屋~奈良間を結ぶ急行「かすが」という列車が1日1往復走っていました。停車駅は名古屋、桑名、四日市、亀山、柘植、伊賀上野、奈良であり、名古屋~奈良間を約2時間10分、名古屋~伊賀上野間を約1時間30分、伊賀上野~奈良間を約40分で結んでいました。恐らく、名古屋~奈良間を走る列車を実証運行するとなると、この急行「かすが」が復活する形となるでしょう。

 

3.急行「かすが」を復活させたら??

 急行「かすが」を復活させる形で実証運行を行った場合、他の交通手段と比較してどれほど優位性があるでしょうか。ここでは、名古屋市~奈良市、名古屋市~伊賀市、伊賀市~奈良市間の移動について分析してみます。

 伊賀市は、関西本線の加茂~亀山間のちょうど間に位置する自治体であり、もし同区間が廃線や減便になった場合、最も大きな影響が出ることになります。

 伊賀市の玄関口は、北側にJR関西本線の伊賀上野駅、南側に近鉄大阪線の伊賀神戸(いがかんべ)駅があり、伊賀上野~伊賀神戸間を第三セクター線の伊賀鉄道が南北に結んでいます。伊賀市の市街地は、伊賀鉄道の上野市駅周辺となるため、ここでは上野市駅と奈良・名古屋間のアクセスで比較しています。

 

 高速バスのコストパフォーマンスが良いため、名古屋~上野市間においては急行「かすが」はやや優位性に欠けるともいえます。ただ、総じてみると、急行「かすが」はコストパフォーマンス的にみていい線はいっており、何もしないくらいなら試しに急行「かすが」を走らせてみるのも面白そうです。

 

4.課題

 ただ、もちろん課題もいくつかあります。

 

(1)本数が設定できない

 かつての急行「かすが」が1日1往復であったことを踏まえると、設定本数については恐らく当時と同様の1日1往復になるでしょう。そうすると本数面で高速バスに劣ってしまうため、形勢不利となる可能性があります。

 

(2)そもそも移動需要が少ない?

 高速バスの本数をみると、名古屋~奈良間は1日4往復、名古屋~上野市間は1日3往復となっており、決して本数が多いとはいえません。その点をみても、そもそも名古屋~伊賀市・奈良市へ向かう需要自体が少ない可能性を示唆しています。(それが関西本線の利用促進問題の根本でもありますが)

 

(3)JR東海との調整

 そして、既に多くの方が指摘していますが、実証運行を行う上で最大のネックとなるのが、JR東海との協議・調整となるでしょう。

 前述のとおり、名古屋~亀山はJR東海の管轄であり、名古屋~奈良間の直通列車を走らせるにはJR東海にも協力してもらわなければなりません。しかし、この直通列車を走らせることについて、JR東海のメリットは殆どないように感じます。

 記事を見ると、「名古屋~奈良間の直通列車の実証運行を目指すことを、関西本線活性化利用促進三重県会議で決定した。今後、関係各所との調整や計画の策定を進める」とあります。この会議にはJR東海には参加していないため、JR東海にはまだ何も話がなされていない可能性が高いです。

 JR東海にとってのメリットを提示し、JR東海を納得させられるか。実証運行にこぎつけられるかは、そこにかかっています。

 

(4)実証運行できたとして

 実証運行にこぎつけられたとして、その直通列車をどのように利用しておくかは、よく策を練る必要があるでしょう。伊賀市や亀山市の住民が大阪・奈良・名古屋へ行き来しやすくすることを主眼にするのか、大阪・奈良・名古屋から伊賀市や亀山市への観光客の利用増加を主眼とするのかだけでも、とるべき策は変わると考えます。

 三重県として、伊賀市として、亀山市として、関西本線をどのように利用してもらうか、その考えは持っておく必要があるように感じます。

 

5.まとめと所感 ~直通列車の実証運行は伊賀市の意向??~

 いかがでしたでしょうか。1人の鉄道マニアとしては、急行「かすが」が復活したらとても興味深いですが、冷静に見ると、実証運行したところで地元住民や鉄道に興味のない観光客がどれだけ乗るのか??と思ってしまう、というのが正直な感想です。ただ、何もしなければ衰退していく一方なことも確かで、そうした意味では一度実証運行をしてみて、どういった流動が期待できそうか検証してみるのもよいと思います。

 

 ところで、今回の名古屋~奈良間の直通列車の実証運行ですが、この案は伊賀市の意向が強く表れていると感じています。伊賀市の岡本市長は昨年、急行「かすが」の復活や、伊賀鉄道と関西本線の直通列車の運行などのアイデアを提案しています。

 

 

 伊賀市の玄関口、伊賀上野駅は、加茂~亀山間の中間に位置しています。そのため、大阪や奈良に行くには加茂駅で、名古屋に行くには亀山駅で必ず乗換が必要となります。また、上野市駅からであれば、伊賀上野駅を含めて2回も乗換が発生してしまい、どこへ行くにも乗換がつきまとうという問題を抱えています。

 岡本市長の昨年の発言と、今回の実証実験を目指すという方針を踏まえると、伊賀市は「関西本線を利用して主要都市へ行こうとすると、乗換が必ず発生してしまう。そのことが関西本線の利用が進まない要因なのではないか」と捉えていることが推測できます。

 どうすれば、より多くの人に利用される関西本線になるのか。実証運行がなされた暁には、その点を踏まえた設定になることを願ってやみません。