小田急電鉄のホームドア:QRコードを用いたホームドア制御システム ②本厚木駅・町田駅の仕様

小田急電鉄の本厚木駅では、2022年度から23年度にかけて同社初のロマンスカー対応大開口ホームドアが設置されました。ホームドア開閉方式はロマンスカーと一般型車両で異なっており、一般車は登戸駅などに続いて「QRコードを用いたホームドア自動開閉制御システム」が採用されています。しかし同駅の場合は、開扉が車掌による手動操作に逆戻りしたほか、列車検知の仕組みも従来と少し異なっているようです。

なお、2024年には町田駅でも同型のホームドアが稼働開始されていますが、当記事は本厚木駅での取材に基づいて記述しているため一部異なる可能性があることをご了承ください。

1 基本仕様&登戸駅などの仕様

下北沢駅などのホームドアは、地上側の各種センサが列車の定位置停止・編成両数などを検知することでホームドアを自動開扉しています。しかし閉扉は車掌による手動操作なのでタイムロスが大きいこと、回送列車などが停車した場合でも自動開扉してしまうことが課題でした。そこで2020年度に整備された登戸駅のホームドアからは、車両改造を伴わず低コストに導入できる「QRコードを用いたホームドア自動開閉制御システム」を採用することで上記の課題を解決しました。

登戸駅および新宿駅地下各停ホームの仕様(以下:登戸仕様)は、車両ドアが開き始めたことをQRコードの動きで検知してからホームドアを開ける、つまりホームドアが車両ドアより遅れて開くのが特徴です。また、QRコードに格納された車種情報は補助的にしか使わず、編成両数の判別は従来と同じくセンサにて行っています。

2 本厚木駅などの仕様

2.1 開扉は車掌手動操作

最後部の足元に設けられた車掌向け表示
“ホームドアを先に開ける!”

しかし冒頭で述べた通り、本厚木駅・町田駅の仕様(以下:本厚木仕様)においてQRコード検知により自動化されているのは閉扉動作のみで、開扉は自動から手動に退化してしまいました。元々は開閉を全自動化する目的でQRコード式システムを導入したのに、手動操作が必要なのは本末転倒にも思えます。

本厚木駅ホームドアの最大開口幅は4,410mm

その理由として考えられるのが大開口ホームドアの特徴である巨大な扉です。このホームドアは扉長さが3m前後もある箇所が多く、車両ドアより遅れてホームドアが開く登戸仕様では開ききるまでの時間が掛かりすぎて乗降の支障になってしまうと考えられます。そこで、開扉は車掌が先にホームドアを手動操作する方式にしたのではないでしょうか。

開扉を自動化するために考えられる解決策は、下北沢駅などと同じく列車の定位置停止を検知したらすぐに自動開扉させる(=ホームドアが先に開く)方法です。この場合、回送列車等はあえて停止位置をずらすことで自動開扉を防げます[1]他社では多数の事例あり。。しかしそれができるなら既にやっていたはずなので、小田急には何らかのできない事情があるのだと思われます。

より抜本的に、ホームドアシステムを運行管理システムと連動させて回送列車の自動開扉を防ぐ、トランスポンダ等による無線通信で車両ドアとホームドアを同期させるなどの方法も考えられますが、いずれもコストが掛かるので現実的ではありません。結局、現状の手動開扉扱いが最も効率的なのでしょう。

2.2 両数判定センサは存在しない

開扉が手動操作になったとはいえ編成両数などを個別に設定する必要はなく、車掌が「開」ボタンを押すだけで編成両数に対応した範囲のホームドアが開きます。しかし、ホーム全体を見渡しても登戸仕様とは異なり両数判定センサが見当たりませんでした

そもそもQRコード式システムは、QRコードに格納した車種情報を用いて編成両数・ドア数などを判別できる点がメリットです。しかし小田急では6両+4両の10両編成や4両+4両の8両編成も運行されており、QRコードの両数情報と実際の編成両数が異なる場合もあることから、登戸仕様は両数判定センサを併用していました。

では本厚木仕様ではどのように両数判別を行っているのか、考えられる可能性の1つはホームドア開口部の支障物検知センサが両数判定を兼任している説[2]JR西日本の昇降式ホーム柵設置駅において実例あり。、もう1つは次に紹介する2台の定位置停止検知センサとQRコードの車種情報を組み合わせて判別している説です。

2.3 定位置停止検知センサが2台設置

上図は本厚木駅2番ホームにおける、各編成両数の停止位置およびシステムに関連する各種機器の配置を表しています。QRコード読み取りカメラの位置・数は登戸仕様と同じですが、異なるのは両数判定センサが無い点と、定位置停止検知センサが2台ある点です。

5-6号車間の定位置停止検知センサ
外観は登戸仕様とほぼ同じ
9-10号車間の同センサ
この場所には10両編成しか止まらない

登戸仕様は定位置停止検知センサが1ホームあたり1か所だけでしたが、本厚木仕様は5-6号車連結部と9-10号車連結部の2か所に設置されています。各編成両数の停止位置と比較すると、9-10号車連結部で検知できるのは10両編成のみで、それ以外の両数はこの場所に止まらないため検知できません。

つまり、QRコードから読み取った車種情報に加えて、このセンサが車両自体が在線しているか否かを検知すれば、2編成を連結している場合でも正しい両数を判別できると考えられます。しかしなぜ従来の両数判定センサではいけなかったのかの説明にはならないため、まだ何とも言えません。

3 ロマンスカーはQRコード式システムの対象外

そもそもロマンスカーはカメラの位置にドアが無い

冒頭で述べた通り、ホームドア開閉方式はロマンスカーと一般車で異なっており、ロマンスカーはQRコード式ではなく開閉ともに車掌がリモコンを使って手動操作する方式です。ただしロマンスカーの場合でも定位置停止検知は行っているため、前述の2か所にあるセンサが両数判定などに関わっているかもしれません。

ロマンスカー発着時の取り扱いについては別記事にまとめています。

4 おわりに

小田急線内のホームドア開閉方式はこれまででも「開閉ともに手動」「開閉ともに自動」「開扉のみ自動」の3パターンありましたが、本厚木駅にて「閉扉のみ自動」が加わったことでさらに混沌としてきました。乗務員への負担や開閉に掛かるタイムロスを考えれば、すべての駅を全自動に統一したいとは思っているはずですから、今後の動向が一層注目されます。

出典・参考文献

  • 持田 歩「車両扉に連動した地上完結型ホームドア制御の導入について」『鉄道と電気技術』Vol.33-No.4、日本鉄道電気技術協会、2022年、p17-20

脚注

References
1 他社では多数の事例あり。
2 JR西日本の昇降式ホーム柵設置駅において実例あり。

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