2023年9月26日、以前から告知されていた西武鉄道の他社譲受車両導入計画「サステナ車両」の対象車が公表されました。今回はその発表に対する疑問点と感想を書いていきます。

サステナ車両...他社から譲受したVVVFインバータ制御車両を西武鉄道独自の呼称として定義
※総合車両製作所の車両ブランド「Sustina」とは無関係。


  ⑴発表内容

 今回の発表では、東急9000系小田急8000系合計約100両導入することが公表されました。導入路線は9000系が多摩川線多摩湖線西武秩父線狭山線、8000系が国分寺線です。2024年から2029年にかけて導入され、2024年は8000系が1編成導入されます。なお、無償ではなく有償のようです。

  ⑵今後の予想

 今後は2029年までに東急大井町線に2020系ベースの新型車両を導入して9000系を置き換るのでしょう。置き換え完了に合わせたCBTC化も考えられます。

 西武側は新101系、新2000系、4000系を全廃し全車VVVF化を達成させるのでしょう。

   ⑶疑問点

 次に、この発表で僕が感じた疑問点を10個紹介します。

☑️普通鋼製車がサステナ車両?

 先述の通り、サステナ車の条件はVVVFインバータ制御を搭載する車両です。しかし元々の2023年度設備投資計画ではサステナ車両の条件にもう一つ、「無塗装車体」がありました。近年鉄道車両で採用されている主な材料の内、普通鋼製は全面塗装をしないと錆びてしまうので、これはステンレスかアルミニウム合金を指すと考えられます。

 今回導入される車両の内、東急9000系は軽量ステンレス製ですが小田急8000系は普通鋼製です。プレスリリースにあるサステナ車の定義からもさりげなく無塗装車体が外されています。譲受候補車が見つからなかったからなのでしょうか。しかし塗装には費用がかかり非効率で環境にも悪いので本来の目的である「持続可能(=サステナブル」に反しています。VVVF化による電力使用量の削減は大きいでしょうがやはり本末転倒な気がします。

☑️なぜ多摩川線に8000系ではないのか

 発表された導入予定区間の内、多摩川線は西武鉄道の他のどの路線とも繋がっていない孤立した区間です。しかし多摩川線に導入されるのは導入数が多い9000系で、少数派の8000系は本線と繋がっている国分寺線に導入されます。整備の効率化や運用の柔軟性を考えると、少数の車両を孤立線区に導入した方が効率的ではないでしょうか。

 この理由はよく分かりませんが、恐らく東急9000系だけでは運用数の多い国分寺線運用を全て賄えないので8000系で統一し、一方で普通鋼製の8000系の導入数はできるだけ抑えたいので運用数の少ない多摩川線には9000系を投入することにしたのかもしれません。

☑️ 9020系も譲渡対象なのか

 プレスリリースには東急9000系しか書かれていませんが、田園都市線の2000系から編入された9020系は譲渡対象に入るのでしょうか。

 車両数が100両という点から9020系も対象である可能性が高いです。9020系は2019年に大規模更新を施行しているため廃車は考えづらい一方で、大井町線からの撤退は既に決まっています。ただ9000系を組み替えて100両にする可能性や、保守効率化の観点から譲渡されない可能性も否定はできません。

☑️西武9000系も置き換え対象なのか

 東急9000系の導入予定路線には多摩湖線が含まれています。しかし多摩湖線は2019年に西武9000系が池袋線から転用されて新101系を置き換えたばかりです。

 西武9000系は1993年登場と車齢が若く、2003年から機器更新を施行して20000系と同等のVVVFインバータ制御となっています。普通鋼製であることが欠点ですが、小田急8000系の導入が決まったため廃車の理由にはなりません。

 では多摩湖線への東急9000系投入はどういう意味か。個人的には2つ可能性が浮かびます。1つ目は多摩湖線の予備車の置き換えです。西武9000系は転用前に3編成廃車されてしまっため車両数が足りず、新2000系が予備車として入っています。2つ目は西武9000系の西武園線への転用です。後述のように今回のサステナ車両導入には西武園線が含まれていません。今も僅かに西武園線運用がありますが、今後西武園線限定車両になる可能性があります。しかし距離の短い西武園線では車両が余ってしまうためどちらかというと1つ目の方が可能性が高いでしょう。

☑️両数はどうなるのか

 現在、狭山線(池袋線直通除く)•多摩湖線•多摩川線は4両、国分寺線は6両、西武秩父線では4両と8両(4+4または固定)が使われています。一方東急9000系は全車5両、小田急8000系は6両または4両です。普通に考えて国分寺線に入る8000系は6両でしょう。さすがに減車はしないで欲しいです。そして問題になるのは東急9000系です。単純に4両に減車するのか、はたまた5+5を4+6に組み替えて廃車を極力出さないのか、5両のままもあり得ない話ではありません。しかし西武秩父線では併結運用があるので併結を残すなら4両が必須です。8両を全て池袋線の固定編成に統一する可能性もありますがどうなるのでしょうか。

☑️西武園線には導入されないのか

 先述の通り、サステナ車両の導入線区には支線系統の1つであるはずの西武園線が入っていません。

 ナンバリングが国分寺線と連番なので西武園線は国分寺線の一部と解釈すればサステナ車両導入の可能性があります。例えば西武秩父線の一部として機能している飯能〜吾野間も正式には池袋線ですが、サステナ車両導入のプレスリリースに載っていません。吾野駅で系統分離する可能性は0なので同区間は西武秩父線と見做されていると言えます。ならば西武園線もあり得そうです。

 しかし西武園線と国分寺線はかつては直通がありましたが2022年に廃止され、現在は完全に別路線です。西武秩父線の事例とは異なり旅客案内上も国分寺線とは完全に区別されています。

 西武園線にサステナ車両が導入されなければ直通再開の可能性はほぼなくなります。もしそうなれば先ほどの西武9000系転用説が濃厚です。ただ、西武園線さたった1駅しかないのでそのために系統分離する意義があるとはあまり思えません。計画が変わる可能性もあるので今後の動向次第としか言いようがありません。

☑️秩父鉄道に乗り入れるのか

 導入区間に西武秩父線が含まれる東急9000系は秩父鉄道直通に対応するのでしょうか。現在秩父鉄道直通に対応しているのは4000系だけです。4000系は1988年登場と東急9000系よりも新しいですが、抵抗制御で車齢35年で機器更新は非効率なので廃車になるでしょう。そうなると東急9000系に秩父鉄道の保安装置を設置するか直通を廃止するかの二択になります。

 秩父鉄道との直通は元々、通勤客への便宜を図るために秩父市の要望を受けて開始されました。しかし2007年に北側の直通区間が寄居までから長瀞までに、2020年に池袋乗り入れが廃止され飯能以北のみに、2021年に土休日のみに、2023年には下り列車のみになってしまいました。西武車の秩父鉄道線内運用も激減しており直通は急激に縮小されています。秩父鉄道の保安装置が独自のものであることや、西武秩父駅から秩父鉄道沿線へ多数のバスが発着していることも相まって直通廃止は否定はできません

 しかし個人的には直通継続が濃厚だと考えています。理由は2023年ダイヤ改正で横瀬発長瀞行きの1駅しか直通しない列車が誕生し、さらに長瀞方面の秩父鉄道線内急行化が行われ、横瀬駅で特急との対面乗り換えも可能になったからです。特急連絡により長瀞方面への所要時間短縮が目的でしょう。秩父鉄道には東急からの譲受車が多数あるため乗務員研修や試運転も行いやすいでしょう。

 しかし現在飯能発の列車は横瀬駅で秩父鉄道の南側に直通する三峰口行きと北側に直通する長瀞行きに分割されていますが、仮に東急9000系に電気連結器が装備されなければ不可能になります。三峰口方面な西武秩父駅から多数のバスが発着し、三峰口駅が三峯神社から23kmも離れていて不便なことから廃止もあり得そうです。また、1駅だけの直通のみにするなら秩父鉄道車に西武の保安装置を積むという選択肢もあります。西武秩父駅での乗り換えは時間がかかりすぎるため不便なので1駅だけの直通でも大きな効果があります。

☑️異常時の運用に不都合がある可能性

 サステナ車両が導入される路線の内、狭山線には池袋線直通列車があります。また国分寺線も現在は高架化工事のため休止されていますが本来は新宿線直通があります。また2022年までは西武秩父線も飯能以東の池袋線と直通が、2012年までは西武園線も新宿線直通がありました。

 つまり、サステナ車両の導入路線は本線系統と完全に分離されていはいないということです。

 今までは支線用車両も本線用車両も構造が同じだったので両者を混ぜて代走をしたりすることができました。しかし構造が全く違うサステナ車両は本線系統への乗り入れは恐らく不可能で、混結もできません。異常時の対応に困らないのでしょうか。

 もしかしたら国分寺線や狭山線も含め、支線系統と本線系統の完全な分離をするのかもしれません。

※定期列車ではの話です。さすがに野球開催時の臨時列車は無くならないでしょう。

☑️ワンマン化の可能性

 多摩湖線、多摩川線、西武秩父線の4両編成ではワンマン運転が行われており、東急9000系のワンマン化はほぼ確実でしょう。ですが東急9000系導入により車両が共通になる狭山線に拡大される可能性もあります。

☑️西武10000系はどうなるのか

 直接この導入とは関係ありませんが、サステナ車両導入の目的はVVVF化率100%の達成ということは、西武新宿線で運用される特急型車両で抵抗制御の10000系「ニューレッドアロー」はどうなるのでしょうか。
 まず1つ考えられるのは001系Laviewによる置き換えです。同車は2019年から2020年にかけて製造され、池袋線•西武秩父線で10000系を完全に置きかえて一部を廃車に追い込みましたが、それ以降は製造されておらず、新宿線への導入は臨時列車を除き行われていません。一般的にはこの案がよく語られますが、個人的には川越に豪華な仕様のLaviewを導入する程の観光需要はないと思います。所要時間では東武東上線に負けていますし、そもそも特急でなければいけないほどの距離はありません。
 2つ目は40000系の導入です。既に池袋線のS-TRAINや新宿線の拝島ライナーに導入されているロング/クロス可変座席を装備した車両です。これを小江戸に導入すれば、運賃が下がるため特急料金の収入が下がりますが、それよりも製造費や運用•整備の効率化の方が大きいでしょう。
 3つ目は10000系のVVVF化です。しかし10000系は既に車齢30年で、サステナ車両導入完了後は36年です。もっと早い時期ならまだしも今からする程の価値はあまりないでしょう。
 4つ目は新宿線に合わせた新型車両の導入です。あり得なくはないですが、検査が大変になり運用の汎用性も低いので望ましくはないでしょう。
 最終増備編成に限り20000系同等のVVVFインバータ制御ですが同車は残るのかという疑問もあります。52席の至福のように観光列車になってくれたら面白そうですが、東武250型の例から廃車の可能性もかなりあります。

  ⑷感想

 最後に今回の発表の感想を綴ります。

 まず一番驚いたのは小田急8000系の導入です。普通鋼製で製造から約40年が経過しています。いつ廃車になるのかと思いきやまさかの転用です。無塗装車体の予定だったので衝撃的でした。有償譲渡ということなので、車両探しにとても苦労したのでしょう。ですが、もう少し早くしていれば小田急1000系未更新車や都営6300系、都営10-300形8両車(軌間が違うため台車交換必須)など、無駄死にした車両がたくさんあったはずです。何故それらを採用しなかったのか、疑問に残ります。なお、多くの鉄道ファンが予想していながら採用されなかったりんかい線の70-000形は伊豆急行転用説が有力でしょう。

 東急9000系の西武秩父線導入はかなり嬉しいです。元々僕が好きな車両というのもありますが、ボックス席はありがたいです。車端部だけにはなってしまいますがボックス全廃に向かいつつある現在ではかなり良い方でしょう。トイレがなくなるのはやや心配ですが... 寒冷地改造や急坂対応などをするのかも気になります。

 それにしても、西武車に混じって全然違う形の車両が走るのはかなり違和感ある光景になりそうです。かつては本線系統と一体化していた狭山線、西武園線、西武秩父線に関しては系統分離という現実を改めて突きつけられます。西武園線や西武秩父線の直通復活の可能性も大きく下がりました。悲しいですね。

 最後に甲種輸送について。小田急は恐らく松田→国府津→新鶴見→新秋津でしょう。東急の方も順当に行けば長津田→八王子→国分寺→新秋津になりますが、西武と東急は東京メトロ副都心線を介して一本で繋がっているため副都心線経由を期待したくなります。ただ普段甲種輸送が走らない地下鉄に何の試運転もなく入れるのは危険でしょうし、そもそも牽引車がないという問題もあります。地下鉄甲種は夢物語かもしれません。


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