【サステナ車両】西武鉄道、東急9000系と小田急8000形を譲受へ

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西武鉄道は2023年9月26日、東急電鉄・小田急電鉄と連名で「サステナ車両」として東急電鉄9000系・小田急電鉄8000形を譲受することを公表しました。

2022年に他社中古車両譲受の検討をしている旨を公表してか1年以上の年月を経て、計画の骨子が明らかになりました。

2022年に突如現れた「サステナ車両」計画

株式会社西武ホールディングスは2022年5月12日に『2022年3月期 決算実績概況および「西武グループ中期経営計画(2021~2023年度)」の進捗』(外部リンク)を発表した際に、「鉄道事業の強化策」の一環として「他社からの譲受車両」の導入を進めることで固定費削減を前倒しで実施する方針が示されていました。

1年以上もの間その計画の進展状況が明かされないまま経過しましたが、2023年9月26日、『西武鉄道と東急電鉄・小田急電鉄「サステナ車両」を授受 各社連携して、SDGsへの貢献を加速してまいります』(外部リンク)として東急電鉄・小田急電鉄と連名にて「サステナ車両」として東急電鉄9000系・小田急電鉄8000形を譲受することを公表しました。

今回は一般旅客向けのニュースリリースという性質もあり環境問題への訴求に重点が置かれています。

また、今回の発表で「サステナ車両」は「他社から譲受したVVVFインバータ制御車両を西武鉄道独自の呼称として定義」としています。2022年5月の発表当初は「無塗装車体、VVVFインバーター制御車両等の他社からの譲受車両を当社独自の呼称として定義」とされていました。

譲受車両と投入計画

導入車両として明らかになったのは、譲受車両の形式・導入時期・導入路線・総数です。

東急電鉄9000系と小田急電鉄8000形の2編成を合計約100両譲受することが明らかになっていますが、両形式の導入数の内訳は明記されていません。

当サイトの記事を以前にもお読みの方はご存知かとは思いますが、太字黄色下線は事業者が公表している内容・報道で明らかになっている等の明確な事実に基づくもの・赤太文字は周辺情報を収集した上での推論です。

9/28 NHK報道により、東急電鉄からの譲受車両は60両程度・小田急電鉄からの譲受車両は40両程度とされています。

東急電鉄9000系

かつての東横線の看板車両、文字通り“東急の顔”だった9000系。2012年筆者撮影

東急電鉄9000系は1986年から1991年にかけて8両編成14本・5両編成1本の合計117両が製造され、前者は東横線で・後者は大井町線で活躍していました。

2013年に東横線が東京メトロ副都心線に直通運転を開始するのを前に2009年度から順次大井町線への転用が実施されています。このとき8両編成の中間車3両が抜き取られ廃車となったため、2023年現在は5両編成15本の75両の布陣で活躍中です。

『2024年度に運行開始する第1編成は、小田急電鉄「8000形」』『東急電鉄「9000系」は、2025年度以降、順次運行開始する予定』との記載の通り、東急電鉄9000系は2025年度から2029年度にかけて順次導入されることとなります。

導入路線として多摩川線・多摩湖線・西武秩父線・狭山線といずれも4両編成が運用されている路線が挙げられています。既存の使用車両=代替車両はいずれも4両編成で運用されていることから、東急9000系は大井町線での5両編成から中間車1両を抜き取った4両編成で譲受・運用されるものとみられます

譲受にあたっての機器更新等については触れられておらず、譲渡の経緯を踏まえれば中間車1両を脱車することで部品を確保する展開が想像しやすいところです。東急9000系は後年の東急車・JRなど他社でも広く採用されている電動車ユニットを構成する編成ではなく、各電動車に制御装置を搭載する1C4M方式を採用しています。

また導入路線としては「西武秩父線」との記載ですが、路線の正式名称ではなく運行体系としての記載と推定されます。

前者の吾野駅〜西武秩父駅間だけでなく飯能駅〜西武秩父駅間で運用されることが考えやすいところです。新車両導入とともに輸送体系自体が見直される可能性自体は否定できないものの、わざわざ吾野駅〜西武秩父駅間だけの専用運用を構成するメリットは乏しいと言えるでしょう。

一方で、秩父鉄道直通列車の今後については一切記載がありません。秩父鉄道ではVVVFインバータ制御車両の入線実績がなく、過去の東武鉄道所有車両の検査事例などを見る限り、変電所の改修などの大規模な工事が生じる可能性が高そうです。秩父鉄道自身も新造から50年が経過する5000系(都営三田線 6000形譲受車)の置き換え検討時期に差し掛かっているかとは思いますので、現時点では未定・秩父鉄道次第といったところでしょうか。

このほか、4両編成ツーマン運転ではあるものの新101系ワンマン車、9000系ワンマン車の運用実績がある西武園線が除外されている点も気になるところです。

ファン目線で最注目ポイントは、大井町線でともに活躍する3編成15両の小所帯である9020系が含まれているのか否かでしょうか。

9020系は田園都市線向けに投入された2000系10両編成3本を大井町線に転用するにあたり、2001Fの先頭車2両・2002Fの5両・2003Fの中間付随車を除く8両を対象に内装や走行機器を一新して2017年度から2018年度にかけて大規模な改造を行ったばかりです。

東急電鉄の2023年度設備投資計画(外部PDF)では「老朽化の進む大井町線の9000系、9020系車両の更新に向けた車両新造に着手」と置き換え対象ではあることが新たに示されていました。

西武鉄道側の車両数だけで考えても、多摩川線・多摩湖線で使用されているワンマン運転対応の新101系が4両7編成、西武秩父線4000系が4両11編成。これに加えて狭山線で運用される本線兼用の2000系をも代替するとなると、9020系を含めた18編成でも不思議でないくらいの布陣にも思えます。

一方で、リリースの記載をそのまま読み取ると、2000系を機器更新・改番した9020系は譲渡対象から外れているようにも読み取れます。譲受車両の経歴として「東横線の主力車両」「大井町線へ転籍」といった2000系〜9020系を一切排除した記載とされているなど、9020系を含んでいるのであれば少々不自然な内容です。

4000系の運用数が少なくなっていること、後述の国分寺線と異なり2030年度以降も30000系2両編成2本を繋げることで組成可能・西武秩父線と狭山線は8両編成での代走も可能・4000系の8両運用を池袋線用の8両編成が代替することもありうることなどを総合的に考えると、西武鉄道がサステナ車両を投入するにあたり目指していた要素の1つでもある「保有車両数を適正化」することが可能な路線であることから9000系15編成のみの譲受で運用可能な範囲とも推測できます。

機器の基本設計から細部の部品まで相違点が多く、中古車市場では走行機器や内装といった“質”は極めて高い状態であれど、球数という“車両数”がないことが理由で今回の“サステナ車両”選定から漏れてしまったと考えるのが自然でしょうか。

なお東急電鉄側の車両動向では、2022年1月7日に運賃上限認可申請をしており、1月11日よりパブリック・コメント制度に従って2025年度までの設備投資計画表が示されていました。この際、2023年度,2024年度に30両ずつ・2025年度に32両の代替が計画されていました。2022年初め時点では2025年度までに6020系を5両編成14本・7両編成1本を導入する想定だったことが推察できましたが、先述の通り2023年度は「新造に着手」に留まっており、コロナ禍の部品調達などの何らかの事情により計画が遅れたものと考えられます。

東急電鉄9020系は編成構成や使用機器が異なる点から避けられたのか、機器更新から経年が非常に浅く東急グループ内での融通をはじめとした何らかの“先約”があったのか……中古車両としては20m級4扉車両としては最上位クラスのコンディションなだけに去就が気になります。

小田急電鉄8000形

製造期間よりリニューアル期間が長く個性豊かな小田急8000形。写真ACから。

小田急8000形は1982年から1987年にかけて6両編成・4両編成が各16本ずつ製造され、地下鉄千代田線直通を除く各路線で使用されてきた車両です。2002年度から2013年度にかけてリニューアル工事が実施されており、初年度に実施された6両編成2本は界磁チョッパ制御のまま、2003年度以降に実施されたその他の車両はVVVFインバータ制御への更新もメニューに加わりました。

小田急電鉄からは8000形を譲受し、国分寺線が導入先とされています。

西武国分寺線は近年では新旧2000系6両編成が使用されていますが、完全な専用車両ではなく新宿線などで使用される車両と共通運用とされています。ホーム等の構造物が最大でも6両編成までの対応となっており、新2000系を最後に6両固定編成を新製投入していない西武鉄道にとっては将来的に専用の車両を用意する必要が生じることが濃厚な状態となっていました。

この状況と今回の発表から、2030年度にVVVF化100%達成後、6両編成を組成可能な車両は今回明らかになった小田急8000形譲受車に限定されます。西武国分寺線では平日朝に5運用設定されており、これに予備を1〜2本程度加わった6両編成6本または7本の譲受となるかとは思われますが、“代わりが効かない”ことを考えると後者に落ち着きそうです。

西武国分寺線は2019年3月のダイヤ改正以降は新宿線本川越駅方面への直通列車が設定されていた歴史がありましたが、東村山駅の高架化工事進展とともに休止状態となっています。

また、東急電鉄9000系と同様に、小田急電鉄8000形についても西武園線の記載はありませんでした。

東村山駅の高架化工事次第では西武園線や西武新宿線本川越駅方面への通し運転の再開もあり得る路線ですが、東村山駅の工事が6年程度遅れた2030年度ごろの完成見込みとなったばかりなど極めて流動的なタイミングであり、今回は両路線とも記載するには至らなかったのでしょうか。

やはりファンにとって気になるポイントとして、どういったデザインの塗装とされるのかも気になります。20m級4扉かつ戸袋に窓がある電車ということで、西武鉄道の黄色塗装がとても似合いそうですが、西武グループの歴史と昨今の事情を考えると異なる塗装も見られそうです。

譲渡対象車両の状況・小田急電鉄の近況としては、小田急8000形は2002年度から2013年度にかけて少しずつリニューアルが実施されており複数形態がみられます。

小田急電鉄側は既存車両のリニューアル時期であった1000形は196両中160両を対象とするといった公表数の途上で中断、2000形も小規模な修繕にとどめ、2023年9月現在で大規模なリニューアルを受けたのは3000形のうちワイドドア車両である2001年度製造の1次車・翌2002,3年度製造の2次車を飛ばして2004年度以降に製造された3次車以降の編成から再開されています。

既存車両の修繕の収益性が芳しくないと判断されて中断される事例は芳しくありませんが、当初計画で明記されていた「無塗装+VVVF車両」という条件を満たすだけなら小田急1000形・2000形の方が適当にも思えます。譲渡時期・編成構成・機器構成などの都合から8000形が譲渡対象に選ばれたものと推測できます

将来的には機器更新を飛ばした車両の廃車が予想される状態ですので、急ぎさえしなければ3000形1,2次車6両編成が理想であり、公表前にはこれらの車両を予想するファンの声も複数聞かれました。

小田急側で今後どういった車両代替を想定しているのかは不明ですが、小田急3000形の廃車順序はまだまだ先であり、2030年度までに車両導入を完遂したかった西武鉄道側の譲受希望時期と合致しなかったことが想像できます。

単純に6両編成を譲受する場合、更新時期が新しい順から選ぶと走行機器の種類が増えるほか、小田急側の廃車時期の意向とは相違が生まれそうでどういった選定となるのかが注目されます。

小田急8000形のリニューアルは6両編成を優先的に実施していたため、3000形世代の機器を搭載した車両が6両編成に・4000形世代の機器を搭載した車両が4両編成に偏っています。

小田急電鉄でのリニューアルが後回しかつ置き換えがとなっていた4両編成を組み合わせる・部品をトレードするなども含めれば異なる展開も十分あり得ますが、単純に考えれば小田急側として手放し時である2004年度〜2006年度リニューアルの初期車両で揃えた方が都合が良いかもしれません(ただし、そもそもの小田急側の廃車選定基準に法則性が少なく不明瞭です)。

歴史は遡れないものの……

当初の「無塗装+VVVF車両」という前提にも反する小田急電鉄8000形は特にファンの予想でもあまり聞かれない車両でしたので、意外な印象を受けた方も多そうです。

株主宛てに納得のいく理由説明として大手を振った可能性こそあれど、無塗装車体は近年の西武鉄道の導入車両の選定を見ていても、中長期で進めていきたい施策であることは間違いありません。

一方で、「サステナ車両」導入とともに2030年代でも6000系や9000系、そして001系“Laview”といった塗装車両が残存すること自体は決定事項となっている状況下ですので、この点は大きな問題ではないと言えそうです。車体塗装は割り切ってでも電力コストが抑えられるVVVFインバータ制御車両への代替を早急に実施したかったという強い意向が見えてきます。

現実的には“理想的な出物がなかった”状況が容易に推測できます

同業他社とてコロナ禍の減収と半導体不足による車両代替計画を大幅に見直している状況で、20m級4扉・1,067mm軌条といった最小限の条件を満たしており、かつまとまった廃車が予定されている事業者だけでも選択肢が少ない状態です。

鉄道車両は発注から落成まで1年半から2年程度要することが知られていますが、中古車両となればうまく話が進めばそれよりはスムーズに調達が可能です。

一方で、小さ過ぎる「中古車市場」では新造車導入をしない中小私鉄などは早ければ車両代替を公表する前から水面下での交渉を進めていた等の話も耳にします。

譲渡元・譲渡先双方の鉄道事業者次第では、打診こそしても譲渡の条件に合致しない事例は数多く見られます。

近年では日比谷線03系のうち15両程度がトレーラーでの輸送をしてまで数年間疎開されていたものの、譲渡対象から外されたのか解体となった事例がありました。海外譲渡などを含めれば現在も今後の動向が不明瞭となっている車両が全国各地に存在しています。

このほか当初発表では、早ければ2022年度内に譲受が開始される可能性も含んだ記述となっていました。水面下である程度目処がついていたものの何らかの理由で計画の変更を余儀なくされたのか、本社側の見切り発車だったのか……ファン層からの推測で飛び交った車両は当然選択肢に入っていたはずですので、選定車両の結果からも後者の色合いが随所に感じられます。

話題性が非常に高く今後の進展が楽しみな一方で、導入経緯を踏まえれば保安装置改修等の最小限の改造に留まることが想像されます

一方で、同一メーカーの日立製(それも製造時期)を搭載した西武6000系電車を2014年から2019年にかけて1次車(量産先行車状態の6101F,6102F)を除き完遂しており、「サステナ車両」といったワードが飛び出した後となる2023年度に6000系1次車にも新たに機器更新工事を施工する時系列となっていました。こちらも2019年ごろまでの編成短縮や編成ごと淘汰する想定から中長期の使用にシフトしたことが想像されます。

また、9000系についても2017年度に代替された車両は編成単位での代替となっていました。

同等機器を搭載している20000系電車の機器更新は当時の時点で未着手(※)であったことを考えれば、当初は編成単位で廃車にして経年が浅い20000系の部品確保に充てる……という同業他社でも見られる手法を狙っていたことも想像されます。

※加筆:2021年度より内部基板を交換する方式(関東圏だとJR東 E531系などの事例)で主要機器の更新を実施

結果論ではあるものの、9000系80両の編成単位での廃車を避けて転用を実施・新2000系のうち大規模な更新工事を受けた編成に適切な走行機器類更新も実施するなどの動きが実現していれば、状態が理想とは言い難い代替車両と同世代かつ取り扱いが異なる他社車両を譲受する必要はなかったのでは……といった西武ファンの声も複数聞かれました。

西武鉄道のコアなファンにとっては面白さはあれどもったいない印象を受けた方も多いのではないでしょうか。

考えれば考えるほど「適切に運用するには大規模修繕が好ましい」「大規模修繕するならば経年に差異がない自社車両の修繕の方がコストが下がりそう」といった矛盾があり、目的と結果がアンマッチな印象も否めません。

本社上層部が期待しているほどのコスト削減効果も得られなさそうですが、西武ホールディングス特有の経営状況なども鑑みると“ない袖は振れない”状況であり、かつ当初の計画を覆してでも“早急に実施したい”意向は理解できる点でもあります。

既存車両に旧来機器を使用しており、現在は部品確保が困難となりつつある現状は関東圏でもお隣の東武鉄道、東武・西武と同様に関東圏でも輸送密度が低い路線を有するJR東日本も苦戦している印象です。

JR東日本では編成短縮による地方線区転用を前提とした都市部の新造車を削減して地方線区向けに必要数の新造車を投入する方針へ、東武鉄道では経年や用途が異なる複数形式を少しずつ代替することで予備品を確保する方針へシフトするなど、西武鉄道とは異なるアプローチでコロナ禍の減収と部品調達難化に立ち向かっています。

「伊豆戦争」「箱根山戦争」をしていた西武・東急・小田急のグループ間での車両譲渡。昨日の敵は今日の友ーー各社が協調する令和の鉄道業界の象徴的な事例となりそうです。

様々な疑問点が残るものの、まずは営業運転開始まで大きなトラブルなく進むことを願って止みません。

過去記事(サステナ車両導入計画 初報)

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コメント

  1. えなりのおいなり より:

    下記のネット記事に
    「西武の広報担当者によると、この9020系も譲受対象に含まれているそうです。」と記述があります。

    西武が導入する「サステナ車両」、発表にない「第3の形式」も? 譲受車両の運用、既存車両の今後の動向を聞く(鉄道コム) https://news.yahoo.co.jp/articles/262bf856cfab85606d009176ff243066373d3846

  2. イシロ より:

    どんなルートで譲受されるのか、ということにも興味湧きますよね。
    (新)松田/長津田からJR経由の甲種輸送なのか?、直通運転ルートと東京メトロの連絡線経由で回送するのか??みたいに。