秘境ターミナル駅
奥出雲おろち号で備後落合にやってきました。
備後落合は芸備線と木次線の接続駅。
いわばターミナル駅です。
が…
芸備線備後庄原方面が1日5本、木次線が1日4本(おろち号含む)、芸備線東城方面に至っては1日3本しかなく、ターミナル駅にしてはけっこう寂しい陣容。
「秘境ターミナル駅」と呼ばれているのはこれが所以です。
芸備線ホームにはこんな横断幕が掲げられていました。
利用促進を訴えたいようですが……
おろち号でやってきたほとんどの客はそのまま復路のおろち号木次行きに乗車するようですが…
私は今日帰らないといけないので、遠回りになる折返しはやりません(きっぷも取れないでしょうし…)。
12:57、木次へと帰る奥出雲おろち号を見送りました。
元国鉄マンのお話
さて、私はこれから芸備線に乗って新見方面へ抜けようと思うのですが…
次の新見行きは14:37、まだあと1時間30分以上あります。
備後落合駅は秘境駅で周囲には何もなく、どう過ごそうか悩むところですが…
心配はいらないようです。
というのも私と同じことを考える鉄道ファン向けの楽しい企画が用意されていました…!
現れたのはボランティアガイドの永橋さんという方。
↑こちらの方です
永橋さんは元国鉄職員で、備後落合周辺で乗務を行っていた機関士でした。
まだ備後落合駅がターミナルとして賑わっていた頃の貴重なお話をたくさん聞くことができました!
大雪のときの話、出雲坂根駅三段式スイッチバックの話、日本には「落合」と名の付く駅は3つあるが、地名に由来しないのはここだけという話、備後落合以東の芸備線の線形の話、そして今、廃線の危機にある話…
「多くの方に備後落合のことを知ってもらいたい」。
永橋さんの言葉が心に残りました。
解説が終わったあとは駅舎横の倉庫へ案内されました。
ここには全盛期の備後落合駅の構内が再現されています。
SLが中心の時代で夜行列車を含む急行が何本も走っていたため夜も煌々と構内の明かりが灯り、「不夜城」と呼ばれていました。
当時備後落合駅で働いていた職員の数は200名を越えるとか…
無人駅になってしまった今では想像もできないですね…
無人駅での1時間30分、どう過ごそうか悩んでいましたが、貴重なお話を聞くことができ、有意義な時間となりました。
そうそう、備後落合駅のご乗車記念印をいただきました。
いい記念になりますね~
(なんで猿がキハ120に乗っているんだろう…)
栄光の遺構
次の列車まではもう少しだけ時間があるので駅周辺を見て回ります。
備後落合駅の駅舎。
1935年の開業時から残る立派な建物です。
駅前には立派な看板が。
そこから駅前を見た様子。
小さな川を隔てて国道183号線が走っています。
往時は駅前旅館も数軒立ち並んでいたそうですが、現在はすべて廃業。
その面影は感じられません。
構内には蒸気機関車が活躍していた当時の遺構も残されています。
遠くに見えるのが転車台。
そして左奥にあるのが給炭台。蒸気機関車へ石炭を補給していました。
天文学的数字
さて、そろそろ次の列車の時間。
それはこの備後落合駅が一番輝く時間帯でもあります。
三好方面からの普通列車が2番線に、新見からの普通列車が3番線に到着。
1番線には木次線からの普通列車が到着。
そう、この時間帯は3方向すべての列車が集結するのです!
静かだった備後落合駅にしばしの賑わいが訪れます。
(木次線の列車がやってくるとき直前横断する方がいました…やめて)
乗車するのは折り返し新見行きとなるこちらの列車。
新見方面からやってきた多くの乗客が次々と降りてきます。
降車時に運転士さんが乗車券のチェックをしていたので何の気はなしに見ていたら…
なんと立ち席が出るほどに大量に乗っていた客のすべてが青春18きっぷ利用でした。
そういえば今有効期間でしたね…
青春18きっぷ利用は利用実績に含まないという説がありますが、それが正しいとするならばこの列車に乗っていた数十人はカウントされず、利用実績としては乗客0人…
ここまで地元利用が全くないという事実に戦慄しました。
そう、ここは日本でも一二を争う閑散区間なのです。
芸備線広島~備中神代間のうちここ備後落合~東城間の輸送密度は脅威の9人/日(2018年)。
参考までにJR北海道がバス転換を目指す「赤線区」の基準は200人/日以下、国鉄時代の廃線基準は4000人/日でした。
これに伴い営業係数も凄まじいことになっていて、2017年~2019年度の平均がなんと25416。
営業係数とは、100円の収入を得るために必要な営業費用のことで、この場合、100円の収入を得るために掛かった費用は25416円。
もはや天文学的な赤字と言えます。
運営するJR西日本もこの赤字を問題視していて、旅行後の2023年、存廃を含めて検討する「再構築協議会」の設置を国に要請しています。
残念ながら芸備線の将来には濃い暗雲が垂れ込めているのが現状と言えそうです。
そんな天文学的赤字区間である備後落合~東城間にこれから乗車します。
ちなみに使用するきっぷはこちらの連続乗車券。
車内は国内屈指の赤字区間とは思えないほど混雑しており、立ち席も出ていました。
14:39、誰かが駅に忘れ物したという理由で2分遅れて備後落合を発車しました。
備後落合と次の道後山の間は標高差が160mもあるため、列車は6.8kmかけてぐるっと迂回するようにしながらゆっくりと高度を上げていきます。
列車は高い鉄橋を渡ります。
これは小鳥原第一鉄橋。高さ30mで中国地方で一番高い橋梁です。
道後山に到着。
標高は611m、三井野原に続きJR西日本で2番目に標高が高い駅です。
以前は駅に隣接してスキー場があり、シーズンには臨時列車も走ったのだとか。
続いて停車したのは小奴可。
…とここで現れたのはなんと先ほどお話しを聞いた備後落合駅ガイドの永橋さん。
先ほどの客の忘れ物を届けにここまで先回りされてきたようです。
思わぬ再会となりましたね。
そして…残念ながら小奴可まで車で先回りできたという事実が芸備線が根本的に自動車に勝てない理由を如実に示しちゃっています。
勾配に弱く、しかも戦前開業ということで長大トンネルを掘る技術がなく山裾を迂回するように引かれた鉄路。
それに対して勾配に強く、トンネルでショートカットする国道・中国自動車道。
勝敗は火を見るよりも明らかです。
日本一の赤字区間ということでどのような風景が広がるのかと車窓を眺めていたら、平凡な(?)田園風景が流れていきます。
北海道と違って人家が全くない無人地帯というわけではないようですが、鉄道は移動の選択肢に上がらないみたいです。
内名に停車。
高梁川水系の成羽川に沿って走ります。
次の備後八幡に停車。
備後八幡から1駅、営業係数25000区間の終わり、東城に到着しました。
とはいえ、ここから先も輸送密度73(2018年)、営業係数4129(2017年~2019年度)と大赤字であることには変わりありません。
伯備線が止まらない駅
東城を出た列車は県境を越え、岡山県へ。
今度は神代川と寄り添います。
坂根に停車。
出雲坂根駅よりも7年先にできた駅です。
坂根を出ると奥から電化路線が近づいてきました。
伯備線です。
備中神代に到着。
ここで芸備線は終わりですが、全列車が伯備線に乗り入れ、2つ先の新見まで走っています。
次の布原に到着。
この駅は面白い駅で、伯備線上に存在するにも関わらず、伯備線の普通列車は一切停車せず、芸備線直通のみが停車するようになっています。
駅周辺に人家が少なく芸備線の本数のみで対応可能なことが理由だそう。
ちなみにこの駅付近は鉄道写真の撮影スポットとなっており、古くはD51三重連貨物列車の撮影で名を馳せました。
16:01、列車は終点の新見に到着しました。
続きます。
★乗車データ
芸備線 444D 普通 新見行き 備後落合(14:37 14:39)→新見(16:01) キハ120-334
※2022年8月21日乗車
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