ひろば 研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

候補は芸備線と筑肥線か

2023年09月26日 01時11分30秒 | 社会・経済

 時事通信社のサイトに、気になる記事が掲載されていました。昨日(2023年9月25日)の20時30分付、「芸備、筑肥線で協議要請見込み ローカル線再編へ鉄道会社―交通再生法施行で都道府県調査・時事通信」です。

 今年の通常国会(第211回国会)において「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律」の改正法律が成立し、10月1日に完全施行されます。その目玉商品とも言えるのが再構築協議会です。以前から、その第1号が芸備線になるのではないかという噂が流れていましたが、やはりそのようになるかもしれません。しかも、筑肥線の山本駅から伊万里駅までの区間(上記時事通信社記事では唐津駅から伊万里駅までの区間と書かれていますが、正確には、唐津駅から山本駅までの区間は唐津線です)も候補になるようです。

 時事通信社は、8月の下旬から9月の中旬にかけて、各都道府県を対象としたアンケート調査を行いました。その設問の中に再構築協議会の設置に関するものがあったようで、候補が芸備線の備中神代駅から備後庄原駅までの区間、筑肥線の山本駅から伊万里駅までの区間ということです。どちらも、同一路線でありながら線区によって平均通過人員の格差が激しい点が共通しています。芸備線の終点(広島駅)側のほうは、やはり政令指定都市の広島市を通る鉄道路線らしい平均通過人員の数値で、幹線にしてもよいくらいです。筑肥線に至っては全体として幹線に位置づけられていますし、姪浜駅から唐津駅までの区間では福岡市営地下鉄空港線との相互直通運転が行われています(但し、福岡市交通局の車両は、通常、筑前前原駅までしか乗り入れません)。芸備線を利用したことがないので同線については何とも言えませんが、筑肥線を利用したことはありまして、電化されている姪浜駅から唐津駅までの区間と、非電化のままで本数も非常に少ない山本駅から伊万里駅までの区間との格差(落差?)が激しい点には驚かされたのでした。昔はともあれ、現在は分断されていますし、同一路線としておくほうが不自然であると感じられます。

 芸備線については、既にJR西日本が再構築協議会の設置を要請する旨の意向を示しています。路線バス路線であったとしても低すぎる平均通過人員からして、当然のことでしょう。これに対し、筑肥線の山本駅から伊万里駅までの区間については、現在のところJR九州は何の意向も示していないようですが、佐賀県はかなり気にかけているようです。

 上記時事通信社の記事では「アンケートで、自治体側から協議会設置を求める予定があるか聞いたところ、いずれも『ない』と答えた」とのことです。記事の原文でも構造が見えにくい文章となっていますが、全都道府県(沖縄県を除く。後述)がどの鉄道路線についても自ら「協議会設置を求める予定」はないということのようです。また、事業者が設置を要請した場合の対応については、埼玉県、神奈川県、愛知県、山口県および香川県が応ずる旨の回答をしました。これに対し、秋田県および長野県は応じない旨の回答をしています(理由はよくわかりませんが、第三セクターの鉄道事業者との関係でしょうか)。その他の都道府県(沖縄県を除く)は「廃線を前提としない条件付きで応じる」などの回答をしたようです。

 今回のアンケートの全質問に回答をしなかったのが沖縄県です。その理由は、同県に鉄道事業者が存在しないということでした。「いや、沖縄都市モノレールがあるだろう?」とお思いの方も多いことでしょう。たしかに、沖縄都市モノレールは第三セクターの軌道事業者です。しかし、東京モノレール羽田線のように旧地方鉄道法に基づいて鉄道路線となっているモノレールもありますし、こんなところで鉄道と軌道とを厳密に分ける必要もないと思うのです。おそらく、沖縄都市モノレールの場合は再構築協議会の設置を必要とするだけの前提がないということなので、沖縄県は回答をしなかったのでしょう。

 各都道府県にはそれなりの交通事情があります。どのような選択をするのかは、各都道府県、各地域の自由です。ただ、国が全く関わらないというのは、話が違うでしょう。

 最後に少し、違う筋の話を記しておきます。地域公共交通を重視する立場の人たちから「交通税」の導入が叫ばれます。しかし、少し考えてみれば、日本では道路特定財源が存在したのであり、その硬直性が問題となったのでした。私自身、今から20年以上前に、日本税務研究センター刊行の日税研論集46号に掲載された「地方目的税の法的課題」において道路特定財源とされた地方税のいくつかについて論じており、目的税や道路特定財源の問題点について述べたことがあります(これが碓井光明先生の「要説地方税のしくみと法」で論評されており、私としても非常に光栄に思っております)。目的税や道路特定財源は、導入当初はよいものであるとしても、長く続けば悪い意味における既得権のようなものとなり、財政、さらには政治を硬直化させます。一応は租税法学や財政法学に取り組む者の立場からすれば、「交通税」を目的税や道路特定財源のようなものとして構築することに対して批判的な立場を採らざるをえません。ただ、道路特定財源が一般財源化される前に、公共交通、例えば鉄道に向けての財源に転換されることがあったならば、現在のような公共交通機関の惨状は多少なりとも防ぐことができたかもしれません。


コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« やはり、この形には慣れない | トップ | あまり類例のない譲渡 大手... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

社会・経済」カテゴリの最新記事