JR東海とJR西日本は13日、今後の3大ピーク期(GW、お盆、年末年始)の「のぞみ」号を、全車指定席とすることを発表しました。今回はこれについてみていきます。

https://jr-central.co.jp/news/release/_pdf/000042944.pdf

 

1.概要

 この冬については、2023(令和5)年12月28日(木)~2024(令和6)年1月4日(木)に東海道・山陽新幹線(東京~博多間)を運行する全ての「のぞみ」号が、全車指定席の対象列車となります。通常、のぞみ号は1~3号車が自由席となっていますが、期間中は1~3号車も指定席となります。

 なお、「のぞみ」以外の列車(みずほ・さくら・つばめ・ひかり・こだま)には、通常と同様に自由席が設定されます。

 

2.自由席が設定されていることの乗客にとってのメリット

 考察に入る前に、自由席が設定されていることについてのメリットを考えてみます。

 

(1)指定券を持っていなくても、とりあえず来た列車に乗車できる

 全車指定席の列車は、座席の空きがないと利用することができず、希望の列車に乗車することができない場合があります。また、乗る列車が決まっていなくても、とりあえず自由席特急券を買っておいて、来た列車に乗りたいという場合もあるでしょう。そうしたときは、自由席設定は重宝します。

 

(2)指定席より安い料金で新幹線に乗れる

 自由席と指定席では料金が異なっており、一般的には自由席を使って移動すると最も安く移動できます。例えば東京~新大阪間で「のぞみ」を利用する場合、通常期は自由席のほうが850円安くなります。3大ピーク期の場合はさらに自由席と指定席の差が広がり、同区間で1,050~1,250円もの差が生じます。こうして考えると、決して小さな差ではないですね。

 

3.なぜ全車指定席化に反発の声があがるのか

 全車指定席化されるとなると、必ずと言っていいほど反発の声があがります。最大の理由はやはり、「新幹線や特急を利用するための最低価格が上がってしまうから」だと思います。

 自由席を利用する人の多くは、「自由席が最も安いから利用する。あわよくば自由席で座って移動したい」という気持ちがあるのではないでしょうか。正直に申し上げると、私自身もそのような考えで自由席を利用したことがあります。

 

4.全車指定席化のメリット

 では、2・3を踏まえ、ピーク時の全車指定席化のメリットについて考えたいと思います。

 

(1)指定席が3両分増えるため、より多くの乗客が指定席を確保しやすくなる

 3大ピーク期は、「予定を決めずに思いついたときにぱっと乗りたい」ニーズよりも、「事前に予定を決めて早々に新幹線の指定席を確保したい」というニーズのほうが大きいのではないでしょうか。新幹線、特に「のぞみ」ともなれば、数時間乗車することも決して珍しくないため、「乗客の多い時期にできるだけ多くの指定席を用意する」というのは、乗客の意に沿ったサービス提供と考えます。

 なお、自由席特急券しか持っていない場合でも、立席で「のぞみ」号に乗車することは可能としており、指定席が完売となっていた場合の最低限の救済措置は図られます。

 

(2)エクスプレス予約会員へのサービス向上

 JR東海などは、会員制予約サイト「エクスプレス予約」(以下、「EX予約」)を運営しています。このエクスプレス予約に会員登録していれば、通常の指定席特急料金よりもお得な額で東海道・山陽新幹線を利用することができます。

 2001年にサービスを開始したEX予約は、2022年12月に会員数1,000万人を突破するまでに成長しました。今年の秋からは、1年前から座席の予約ができるようになるなど、サービスがさらに拡充されます。であれば、会員が指定席を利用しやすくすべく、多客期に指定席を増やすというのは自然な考え方でしょう。

 

(3)余計な混雑を減らすことができる

 大型連休の初日は、東京駅などの始発駅で自由席を確保しようとする人、当日に特急券等を購入する人が続出し、ホームや窓口が異様な混雑をみせます。全車指定席化すれば、自由席着席狙いで長蛇の列ができることもなくなり、事前に指定券を購入する人も増えるため、駅の混雑は大幅に緩和されます。

 また、ピーク時期であっても、時間帯によって混雑ぶりに差もあります。例えば、大型連休の初日の午前中は一段と混雑が激しくなる傾向にあります。全車指定席化すると、ハイピークな時間帯以外の空きのある列車の座席を確保しようとする流れができるので、分散乗車が促され、列車ごとの混雑が平準化されることも期待できます。

 駅や列車の混雑が分散・緩和されれば、車内検札や駅構内の場内整理にかかる労力が大幅に軽減され、

 

5.まとめ

 いかがでしたでしょうか。確かに全車指定席化と聞くと、「実質的な値上げだ」と乗客は捉え、反発したくなるところです。しかし、全車指定席化することのメリットは、乗客・鉄道事業者いずれにとっても決して小さくないと考えます。

 今や新幹線や特急列車の指定席特急券は、「EX予約」などの会員制予約サイトに登録さえすれば窓口に行かずともインターネットで購入でき、数十年前と比べて購入の労力が大幅に軽減されています。また、会員制予約サイトから購入した場合は、指定席特急券を通常より安く購入できる、「早特21」などの会員限定の割引商品を購入できるなどのメリットもあります。

 通常価格だけでみれば確かに「実質的に値上げ」なのですが、指定席の購入という視点で見れば、従来よりも簡単に、お得な価格で利用できるようになっているとも言えます。

 鉄道事業者にとっても、インターネットで事前に指定席特急券を購入する乗客が増えれば、駅構内の場内整理や車内検札などに要する駅員や車掌の労力が大幅に軽減され、より効率的に鉄道事業を運営することができます。

 今回の「のぞみ」ピーク時全車指定席化は、乗客・鉄道事業者それぞれのメリット・デメリットが考慮されたうえでの判断だと考えます。「今後通年全車指定席化されるのか?」という声も上がっていますが、それは今後の動向次第だと思うので、今から注目です。