その13(№6093.)から続く

今回はJR西日本のキハ187系を取り上げます。
この車両の登場の経緯は、老朽化したキハ181系の置換えと、スピードアップによる高速バスへの対抗策のため。
鳥取・島根の両県は、山陰線などの高速化事業を行い、特急列車などのスピードアップなどを行っていますが、キハ187系はその事業に必要な車両として登場したものです。ちなみに、キハ187系は、JR西日本としては初めて投入する特急用気動車という点でも特筆されます。
キハ187系のスペックは以下のとおり。

① 車体は軽量ステンレスとして軽量化と低重心化に配慮。ただし客用扉はプラグドアではなく普通の引戸であり、側窓も連窓ではなく通常の構造。
② 先頭部は切妻貫通構造。
③ カラーリングは紺と黄色をあしらい、先頭部には警戒色を兼ねて黄色部分を多くしている。また車体側面には島根県の県花「牡丹」のイラストが貼られている。
④ 編成は先頭車のみの2連、一方の車両に便所・バリアフリー設備等を装備(これらを装備しない車両は原車号+1000)。
⑤ 2連だがユニットというわけではなく、1両単位での組成も可能。
⑥ 車体傾斜装置は制御付き自然振子(ベアリングガイド式)。その他メカニックはJR四国2000系を踏襲しているが、JR西日本独自のカスタマイズもなされている(機器類を電車と共通化するなど)。
⑦ 最高運転速度は120km/h。
⑧ 客室は普通車のみ、座席(リクライニングシート)は683系電車と同じものを装備。

ざっと眺めるとこんな感じですが、キハ187系はもともと乗客の少ないエリアを走行することが想定されているため、最小単位の2連で運行する一方、必要があれば適宜1両単位での増結で対応することとし、中間車は作らず、また優等車も作らない方針とされました。また製造に関してもコストダウンが意識され、そのような意識は部品・座席等の電車との共通化に現れています。
現車はまず0番代が平成13(2001)年に登場、米子-益田間の高速化改良工事が完成した同年7月から「スーパーおき」(米子-小郡(駅名は当時)など)及び「スーパーくにびき」(米子-益田など)で運用を開始しました。
この2年後、平成15(2003)年の鳥取-米子間及び智頭-鳥取間の高速化改良工事完成とともに、前者を対象とする増備車が投入され、こちらは10番代として区分されています。この10番代は「スーパーくにびき」改め「スーパーまつかぜ」(鳥取-米子など)に投入され、0番代ともども、所定の性能を遺憾なく発揮しています。
10番代は0番代から見ていくつか変更点があり、最も外形上顕著なのは屋根上のクーラーキセ(カバー)の数。0番代では1基だったものが2基になりました。また内装ではモケットの色が変更されています。さらに0番代では「牡丹」だった車体側面のイラストは、鳥取県の県花「二十世紀梨の花」に変更されました。
なお余談ながら、この改正では「スーパー」の冠がつくとはいえ、国鉄時代に山陰の名門特急として君臨した「まつかぜ」の名が蘇ったことになります。
この平成15年には、キハ187系にもう一つ新しい番代区分が登場しました。それが後者の区間に対応した500番代で、こちらは「スーパーいなば」(岡山-智頭-鳥取)に充当されています。基本的には10番代と同一ですが(したがってクーラーキセの数も10番代と同じ)、智頭急行線などでの運行の必要から、0番代・10番代にはないATS-Pを搭載しており、その関係で客室の一部を潰してこれらの機器を搭載しているため、500番代は0番代・10番代とは客室定員が異なっています。
これら一連のキハ187系投入により、キハ181系は風前の灯火となり、平成15年10月1日の時点で、キハ181系使用の特急は「はまかぜ」「いそかぜ」のみになりました。しかしこれらも、平成17(2005)年のダイヤ改正で「いそかぜ」は列車そのものが廃止、最後に残った「はまかぜ」もその翌年キハ189系に置き換えられ、これらによってキハ181系はJRの全路線上から姿を消しています。

さて、これでキハ187系が出揃い、高速化が達成され、乗客にとっても快適性が高まった…となるのですが、実は同系は「いいことづくめ」ではありませんでした。
その理由は、完全切妻の先頭形状。
振子式車両で先頭車が完全な切妻形状をしているのは、今のところキハ187系が唯一となっています。他の車両は、流線型かそこまでいかなくても半流線型といえるような先頭形状をしているため、あまり問題にならなかったのですが、この車両では顕著な問題となっていたものがありました。
それが「トンネル微気圧波」の問題。
これは別名「トンネルドン」ともいわれるもので、列車が高速でトンネル内に突入すると、トンネル内で急激な気圧変化が起き、逃げ場を失ったトンネル内の空気が反対側の出口へ急速に押し流されていくため、それが出口に達した段階で、あたかも砲撃のような轟音が鳴り響くというもの。
キハ187系は運用の効率化と増解結の容易化のため、先頭形状を完全切妻としました。しかしそれが、高速運転時のトンネル突入に際し、騒音問題を引き起こすことにもなります。
このため、同系の使用路線、特に智頭急行線内においては、トンネル突入時の制限速度を設定し、その速度以上ではトンネルに突入しないようにして、トンネル微気圧波の発生を抑えています。

キハ187系の登場以降、JR各社では振子式車両はしばらく登場しなくなりました。キハ187系の次に登場するのは、JR四国の2700系気動車ですが、この車両の登場はキハ187系から実に18年を経た令和元(2019)年。
何故これほどまでに、新たな振子式車両が登場するまで間が開いてしまったのか。
その理由は、「振子式車両を使わずともある程度のスピードアップは可能になったこと」に尽きると思われます。そうなれば、機構が複雑でメンテナンスも煩雑な振子式車両など、わざわざ投入する必要はなくなりますし、また振子式車両は軌道に与える負荷も大きく保線の苦労も大きいということなので、振子式車両でなくてもよければ、そのような保線の苦労も軽減することができます。
このような考え方に基づき、振子式ではない車体傾斜車両、あるいはそもそも車体傾斜機構を持たない車両が投入される事例も増えてきました。
次回以降は、そのような動きを見ていきたいと思います(※)。

その15(№6095.)へ続く
 

【お詫び】(※)

JR東海383系をすっ飛ばして、JR西日本キハ187系を取り上げてしまったため、次回は383系を取り上げ、次々回以降に振子式車両からの脱却の動きを取り上げていきます。

大変失礼いたしました。