JR東海は5月30日、東海道・山陽・九州新幹線の会員制ネット予約&チケットレス乗車サービスを提供する「エクスプレス予約」(以下、「EX予約」)について、今秋に価格改定と新たな商品の設定を実施することを発表しました。今回はこの中でも価格改定を中心に分析します。
1.価格改定される商品
対象となるのは、乗車券と特急券が一体化された「EXーIC」(往復割引の商品を含む)、そして特急券商品の「e特急券」です。それぞれの商品の詳細については、下記リンクに詳細が記載されていますのでこちらをご覧ください。
要はこれらの商品の割引額の縮小、すなわち値上げがなされるということです。
では、この秋から価格や内容がどのように変わるのかをみていきましょう。次の通りとなります。
(1)普通車指定席分、グリーン車分について、割引額が現在より縮小されます。なお、自由席分については現行通りです。
(2)「のぞみ」「みずほ」を利用する場合、通常のきっぷでは他の列車(ひかり・こだま・さくら・つばめ)の特急料金+加算額を支払う必要がありますが、現行のEX-ICやe特急券は加算額を支払う必要がありませんでした。しかし改定以降は、EX-ICやe特急券で「のぞみ」「みずほ」を利用する場合に加算額を支払う必要があります。
それでは、改定前後でどのくらい額が変わるのか、通常料金と比べての割引額はどのくらいなのか、東海道新幹線の例をあげてみます。
〇のぞみ
〇ひかり・こだま
中でも目を引くのは、のぞみを利用する際の割引額の縮小ぶりでしょう。前述のとおり、通常の特急料金は「のぞみ」「みずほ」とそれ以外の列車で料金に差がつけられていますが、現行のEX-ICやe特急券は、どの列車に乗っても特急料金は同額なので、「のぞみ「みずほ」に乗車するほうが割引が大きくなっています。
現行では、東京から新大阪まで片道乗るだけで1,000円前後もお得になりますが、改定後の割引額は420~490円に抑えられます。
(3)特急料金は、通常期の料金のほか、最繁忙期(お盆やGW、年末年始など)、繁忙期(長期休暇や3連休など)、閑散期(一部の平日)の料金があり、最繁忙期は400円増し、繁忙期は200円増し、閑散期は200円引きという形になっていますが、現行のEX-ICやe特急券は通年同額です。しかし、改定以降はEX-ICやe特急券にもシーズン別料金が適用されます。
ここでも、通常料金とどのくらい異なるのか、EX-ICを例に図でみてみましょう。
◇通常期(再掲)
◇最繁忙期
現行のEX-ICは通年同額なので、たとえ最繁忙期であっても値段が変動しません。そのため、利用者の多いGWや年末年始、お盆といった時期に乗車するほどお得な設定になっています。最繁忙期に「のぞみ」を東京~新大阪間で乗車すると、無条件で1,500円もお得になるので、これは相当お得ですね
ですが、改定後はシーズン別の料金が適用され、割引額も通常期と同様に抑えられます。
3.背景
以上が価格改定のあらましですが、このタイミングで価格改定を行う理由は何でしょうか?
それはずばり、現行の価格設定がいびつなことです。一般的には、利用者の少ない列車や、閑散期の列車にこそお得な料金のきっぷを設定し、全体の利用率を底上げして安定した収益獲得を目指すのがセオリーですが、現行のEX-ICやe特急券は、上記でふれたとおり、利用率の高い列車(「のぞみ」)に乗るほど、利用客の多い時期(お盆、GW、年末年始)に乗るほどお得な料金設定になっており、セオリーと逆行しているのが現状です。
新型コロナにより、JR各社も大幅な減収を余儀なくされたこともあり、このタイミングで価格設定を是正し、増収を狙う意図があるとみています。
4.改定後の展望
EX予約は会員制の予約サイトであり、会員になるには1,100円の年会費を支払う必要があります。今回の割引額縮小により、新幹線に乗る頻度が年1回以下の人であれば、会員でいるとかえって損してしまうということもあるかもしれません。
しかし、関東~関西の移動のような、距離のある移動の場合は、会員であり続けるほうが得策でしょう。東京~新大阪を1往復しただけで、無条件で980円お得になるわけで、年会費の元をとるのにかなり近づきます。
さらに、EX予約では、21日前までの予約で「のぞみ」の指定席を格安で利用できる「EX早特21ワイド」など、早期の予約で割安となる商品が設定されており、これらの商品は料金改定後も現行通り設定されます。今回の改定とあわせて、新たに「EX早特28ワイド」も設定されるため、お盆や年末年始のようなピーク時以外にも新幹線を使う人であれば、これらの早特商品の恩恵を受けることもできるため、EX予約の会員を続けるメリットは大いにありそうです。
また、EX予約で予約すれば、「列車の変更が無手数料で何度でも可能である」「窓口に行かずとも、手元のPCやスマホで予約できる」といったメリットもあります。こうしたスピーディーに、柔軟に列車の予約ができるのもEX予約のメリットなので、こうした点も踏まえて会員を続けるかどうか決めるのがよいでしょう。
これらの点から、価格改定後も利用者の逸走は少ないものとみています。
5.まとめ
いかがでしたでしょうか。 今回の改定で割引額がかなり縮小されるので、東海道新幹線を頻繁に利用する人からすれば痛い値上げとなります
しかしながら、利用者の多い列車や時期になればなるほどお得な価格設定となっていたことは、JR東海としては手をこまねいて見ているわけにはいかなかったでしょう。新型コロナ渦で減収となっただけに、なおさらです。
EX予約もサービス開始から20年以上経過し、会員も大幅に増加しました。さらに現在、関東圏~関西圏の対航空機シェアは、新幹線:飛行機=85:15と優位に立っており、こうした背景も価格改定を後押ししたのでしょう。
JR東海では、EX予約会員に対し、7号車をビジネスパーソン向け「S Work車両」として売り出したり、価格改定と同時に旅行プラン全体の予約・決済が可能となる「EX-MaaS(仮称)」の導入や、1年前から指定席の予約が可能となるなど、価格面以外のサービスが拡充される予定です。
この秋、EX予約は大きく変わることになりますが、それにより新幹線やEX予約の利用がどのように変わるのか、注目です。