16日目 天竜川を越え、浜松へ
徒歩旅行日:2021年5月22日(土)
前回の歩き旅から2週間ぶり、再び静岡は掛川の地に降り立った。掛川からスタート地点の磐田までは東海道線で行けば時間はかからない。しかし折角だから趣向を凝らした移動をしたいものだ。※前回の記事はこちら→会社員の東海道53次 徒歩旅行記⑮【掛川〜磐田】 - 旅の記憶
前回歩いた時に線路をくぐって気になっていた天竜浜名湖鉄道天浜線。これで遠州森という駅まで行って、そこからバスで袋井、袋井から東海道線で磐田まで、という行程で移動することにした。今回は一泊2日で歩くことにしたから、これくらい遊ぶ余裕がある。
午前10時、掛川駅を出発、のどかな車窓を楽しもうとワクワクしながら乗車。しかし、大きな悲しい事態に気付く。前方と後方以外の窓全てが、広告のラッピングで潰されているのだ。広告のシール越しにしか車窓が見えない…。車窓に映る景色は暗い色のフィルターがかかる。悔しいから、時たま席を立ち上がり後ろから車窓を眺める。
10時20分、あっという間に遠州森駅へ。1935年築の木造駅舎の雰囲気が良い。駅名標も国鉄からのもの…?北海道意外でこの駅名標初めて見た。
列車が行ってしまうと鳥の鳴き声しか聞こえないのどかさ。天浜線は、元々国鉄の路線で、今は第三セクターとして運営されている。掛川から愛知県境近くの新所原まで、東海道線とほぼ並行に内陸を走っている。
駅前は驚くほど何も無い。どうやら遠州森駅から森町の市街地まで離れているようだった。15分くらい歩く。
古い家並みが残っている中心部。ここは秋葉街道の宿場町だったらしい。東海道以外の街道にも、宿場が整備されていること、そして今でもその面影が残っていることは改めて凄いと思う。
秋葉街道は浜松北部の山中にある秋葉神社へ通ずる道。静岡に入ってから秋葉山と彫られた常夜灯をよく目にするようになっていたから、きっと多くの信仰を集めていたに違いない。人の往来も多かったんだろう。
街の外れの川沿いにバスターミナル発見。静鉄バスグループ、秋葉バスサービスが運営する森町〜袋井の路線に乗る。この頃くらいから、地図を凝視するだけでバスの路線がどこを結んでいそうか、かなり正確に予測できる特殊能力が開花してきていた。森町〜袋井もその予測が見事当たったのだ。
鼻高々にバスを待つ。
コロナ禍は圧倒的に我慢することが多かったけど、バスに乗る時、思いっきり窓を開けても換気という大義名分があるのは実に良かった。一番後ろを陣取って、窓を目一杯開けて田んぼから吹き込む稲の匂いを浴びる。これぞ田舎旅の醍醐味。前回歩いて通った袋井へ。駅を使うのは初めて。静鉄の廃線跡の案内がある。
東海道線で移動し、昼過ぎにようやく磐田駅に着いた。近くの蕎麦屋でカツ丼を食べて(蕎麦屋のカツ丼が一番美味しい)、やっと本業を始める。この日の目標は浜松、12.5キロと優しめの行程だ。
街道を走るバスは遠鉄バス。静鉄から遠鉄へと勢力圏が変わったようだ。
九州民ご用達ファミレス、ジョイフルがあるではないか。どういう出店計画なんだろう。九州で発行されたジョイカフェチケットは使えますか…?
これも秋葉山信仰の常夜灯だったはず。
一本道を淡々と、1時間進んできたてようやく大きな景色の変化が。大河が目の前に現れた、天竜川だ。
水源は長野・諏訪湖。スケールが大きい。直近雨が降ったのか、混濁とした川面、うっすら恐怖感を覚える。江戸時代、ここには橋は掛かってなく渡していたそうだ。私は国道1号線に沿って新天竜川橋を歩く。長さは実に912メートル、東京都心の駅間より長そう。すぐ隣には1933年に作られた天竜川橋、こちらもまだ現役だ。
富士川、安倍川、大井川、天竜川と静岡で大きな川越えはこれで4回目。身分の高い人々が東海道では無く中山道を選択して京都に向かっていたと聞いたことがあるが、理由を身をもって知れた気がする。
ついに浜松市に入る。遠くに来たものだ…。と静岡市くらいから新しい町になる度に同じ感慨に浸る…。
これは古い方の天竜川橋。狭くて歩道がなかったので新天竜川橋を選択して歩いた。トラス橋のシルエットは華奢で美しい。
川を越えると中野町という場所。ここは船で運ばれてきた木材の集積地として栄えた街らしい。木曽の深い山々からここまで木を運んでいたのでしょう。
他にも浜松〜中野町間を蒸気機関車が繋いでいた跡があったりと、ここが栄えていたことが窺える。
松が残る道を進む。少しずつ浜松市街地が近づくにつれ、今っぽい住宅が増え、交通量が増していく。
遠くに浜松のシンボルタワーといえようアクトシティーが見える。浜松駅はもう少し距離がありそうだ。時刻は16時を回っていた。
浜松市中区へ。
時々、ハッとするような美しい家があったりする。萬屋蒟蒻店という看板もまたいい。営業しているのだろうか。
20分ほど歩くとアクトシティーのビルが随分近づいてきた。
馬込川を越えると一気に旧街道は、都会のメインストリートへと変貌を遂げた。
そしてこの馬込川を境にして、29次目、浜松宿に入ったようだ。
アクトシティーを通り過ぎ、
この日は一旦この板屋町という交差点で歩き旅を終了することにした。
ここからは浜松を散策しつつ宿に向かう。翌日の仕事のために一生懸命帰らなくていいのだ、最高だ…。かなり上機嫌で散策する。遠州鉄道高架下の遊歩道を歩いて、浜松駅(遠州鉄道は新浜松駅)まで行ってみる。
静岡県下一位の人口を誇る浜松、街の規模が大きい。スズキやヤマハなど大企業も多いし、さすが。
新浜松駅から宿に向かうため遠州鉄道、通称"遠鉄"に乗る。新浜松駅は遠鉄百貨店直結だし、いかつい駅かと思いきや、案外改札は小さくて可愛い。
しかし、電車はかなり混んでいた。
新浜松から二駅、遠州病院で下車。微妙な場所に宿を取ってしまい、また20分ほど歩く…流石に足取りが重くなってくる。
ようやく、宿にチェックイン。おばちゃんが1人で切り盛りしていそうな小さなビジネスホテル。客室はのび太くんとドラえもんの部屋みたいだ。窓際に腰掛けて外の景色を見てみる。
山並みの向こうにうっすら、まるで淡い雲のように富士山が山頂を覗かせていた。浜松まで来たのにまだ見えるのか…。久しぶりの富士山、そしてこの先の東海道からはもう拝むことがないだろう富士山。夕刻、ミルク色の空に溶けてしまいそうな淡い姿は、深く心に刻まれるものだった。
日が暮れるまでぼんやり部屋から景色を眺めていると、さすがにお腹が空いてきていた。さあ浜松に泊まるんだから!名物の浜松餃子を。宿近くの『福みつ』に並ぶこと30分。ありつけた餃子の美味しさもまた、深く心に刻まれるものだった。
つづく。↓次の記事