津山線、現在の中鉄バスにあたる中国鉄道が舟運に変わる輸送手段として建設し、国有化後は因美線と共に鳥取とを結ぶ陰陽連絡線を形成した路線でしたが、智頭急行開業後はその役割をほぼ失い、岡山と津山を結ぶ役割へと変化しています。
速達列車の歴史では、智頭急行開業前までは急行「砂丘」が岡山-鳥取を結び、同線開業以降は運転区間を津山線内までに短縮した急行「つやま」が走るも、キハ58の老朽撤退後はあろうことか普通列車用のキハ40系列を投入して「遜色急行」として各方面から大ブーイングを浴び、その後今も走る快速「ことぶき」になってからボックスシートに設定された自由席同然の指定席にまたも総ツッコミが入りと、速達列車に関しては迷ポイント多数なこの路線に、観光車両が導入されました。
「SAKU美SAKU楽」、JR西日本お得意のキハ40を改造した観光車両です。ええ、各地でキハ40系列が撤退開始(完了)しつつある中、まだまだ活躍する予感全開です(笑)
タラコ色が大多数を占める岡山の気動車の中、津山城の桜などをイメージしたピンク色の外観が目を惹きます。窓下には文字、九州や四国に似た系統の配置とも言えます。
トイレの部分にはロゴがあります。
列車種別用のサボは、ロゴのかわいいものが入っています。
行き先にもしっかりとサボが入っています。全席指定席、基本的に土日と大型連休中のみの運転で、祝日ですら運転されない日がありますので注意が必要です。
車内です。ええ、「津山線よまたか(笑)」とも言いたくなるような、観光列車でコケたら即一般運用にぶちこむ気満々な仕上がりです。構成だけで言えば、一般型のキハ40の一部ロングシート化改造車とほとんど変わらないんですよね。
ドアです。ステンレス仕上げの片開き式、足元のステップも含めて全然変わっていません。半自動対応の開閉ボタンはともかく、整理券発行機は大変無粋です。
運転台です。デッキなどは従来通りありませんが、暖簾が掛けられています。先述の通り、ワンマン機器はそのまま残されています。なお列車はワンマン運転で、検札はアテンダントさんが実施します。
天井です。ええ、ここだけ見せればそんじゃそこらのキハ40と変わりません。濃黄色の吊革がたくさんぶら下がり、デカい割に冷えない後付けの冷房もそのまま、特別感の欠片は吊り広告が専用のものになっていることくらいです。
また扇風機もそのまま残ります。何気に各部が塗装されていますね。アテンダントさんからは、「列車は走っていると暑くなって参ります、そのような場合は、扇風機がございます!」とアナウンスされるのですが、自虐的ジョークで言ってるのかマジで言ってるのか…(確実に、後者)。
中には吊革がこんなにギッチギチに詰められたポイントも(^^;;; なお冷房やそれに付随する機器は荷棚を完全占拠しておりまして、そこの席は荷物が置けません。一応荷棚上が埋まってる席は以下の通りですので、ご参考まで(目見ですので、もっとあるかも…)。
1B 3AB 6B 8AB 13B 15AB 16AB
荷棚にはステッカー式の座席番号があります。外観にもある花びらがあしらわれておりかわいいですね。
ロングシート席はこんな感じ。窓側や通路側などの表示はありません。
優先座席の座席番号はご丁寧に青いもので区別しています。指定席でしたら区別する必要も無いと思うんですけど…ね?
荷棚にはスピーカーがあります。アテンダントさんが観光案内をしてくれる訳ですが、その案内はここから流れます。
窓です。化粧板は木目調になっていますが、それ以外は体質改善工事の頃から大きく変わっていません。せっかくの観光車両なんですから、せめて一枚固定窓にして欲しかったです。あーあと、柱にあるコート掛けが交換されています。
座席です。まずはボックスシートからですが、国鉄標準品から新規品に交換されています。とは言っても、同じく岡山で走るキハ120形体質改善工事施工車とベースは同型品、違う点としては窓側に肘掛けがあること、対して出入りを考慮してか通路側に肘掛けが無いこと、座面側面や持ち手が木目調となっていることですね。
使い勝手は異なっていても座り心地までは変えられず、シートピッチは広げられてもその一部しわ寄せは切り立ちすぎた背ズリとして跳ね返ります。本来ある程度角度に余裕を持たせてセットすべきものをぶっ立ててる訳ですから、ずっと座ってりゃキツいですよね。あと最大のツッコミどころはテーブル、まさかの市販品の床置きスタイル(苦笑) 脚は転倒防止のために四足で支える方式ですが、いくらシートピッチを広げてもこの方式は完全に足元の邪魔、更に面積が狭い上にパーテーションを付けたものですから、専有面積が著しく狭いんですよね。今までの観光列車で積み上げたノウハウが全く活かされておらずガッカリ…。なおシートピッチ拡大のあおりで横が柱という席がこの通り、眺望がクリアな席は津山行きだと9・10のCD、岡山行きだと11・12のAB席となります。
そして、座席の大半を占めるロングシートです。正直「これで運賃のほかに料金取るの?」と言いたくなりますが、しっかり取られます。
座席自体はボックスシート同様に背ズリが高いタイプに交換されていますが、こちらも背ズリがかなりの急角度になっているため、せっかくの背ズリの高さを活かしきれていません。というか、景色がウリのハズの観光列車にしてロングシート、何をして欲しいのやら…と思いましたが、10%程度は納得しようと思える理由があったり無かったり。それは後述いたしましょう。
こちらもテーブルは市販品の床置き、ボックスシートとは異なりXの字で支えるタイプです。いや、これでも邪魔は邪魔ですが…。パーテーションは横から見るとLの字状をしており、下辺には滑り止めが付けられています。95km/hまで高速化されたとは言え地方ローカル線規格で揺れがB'z並に激しい津山線、カーブや揺れで飲み物が落ちないようにするためなんだとか。そのためパーテーションを無くすに無くせない事情がありそうですが、そろそろこの列車をデザインしたコースターなんかを作って置き換えてもいいのではないでしょうか。
普通列車に投入する気満々な優先座席です。指定席として発券はされないようで、観光案内スペースと化しておりました。なおこんな調子なので、コンセントも無ければフリーWi-Fiもありません。
向かい側には何やらハンドベル。これも後述しましょう。
ドア付近の暖簾です。デッキは無いので、せめてもの区切りとしてのものでしょう。春の桜をイメージしたものですね。
そして反対側は里山をイメージしたものになります。
トイレです。箱は国鉄時代のままで車椅子利用などどこ吹く風ですが、化粧板は貼り替えられ、中も洋式に変更されています。
ここにも暖簾。トイレを図示したものですね(笑)
側面には非常灯と機器の箱があります。
さてさて、ここからは乗車の模様を少しだけ。岡山駅にはこのようにステッカーが貼られ、9番のりばから発車する案内がされています。
ホームでは特に乗車位置の案内が無いのですが、発車順序がひとつ前になると、この通り発車標に「●1」と表示されます。両方向の列車とも、乗車は岡山寄りからとなります。
列車はなぜか吉備線方面から10番のりばに一旦到着、その後入れ換えをして9番のりばへ入って来ます。
到着後もすぐには乗車出来ず、発車準備が行われます。
10:35、乗車準備が整い車内に案内されます。アプリでお食事を予約した場合、停車中に予約画面の提示を求められます。
入口横には乗車記念ボードがあります。長時間停車中に、アテンダントさんがこれを持って記念撮影に応じてくれます。
更にもう一つのテーブルには沿線の案内が置かれています。
席には予約したお料理が予め用意されております。津山行きですとこちら、かえし寿司というお料理をいただけます。なお列車の発車後、アテンダントさんがマイクを使用して各種案内を実施します。カウンターなどは無いので持ち運び可能なマイクで案内をしますが、その際は観光バスのバスガイドさんよろしくロングシートより案内を行います。なるほど、案内を聞いてお食事を楽しむ分にはロングシートに分があるということですね。
で、このかえし寿司、アテンダントさんからは開封に際していくつかの指示があります。それは「表紙以外開けないこと」です。
そして一通り説明されたあと、箱ごとひっくり返すよう案内されます。そうするとビックリ、表では酢飯しかみえませんでしたが、裏にネタが入っていました。質素倹約が求められた時代に、このようにしてネタを隠していたことからこうなったそうな。
そしてもう一つ、津山行きではスイーツも販売されております。列車の形をしたボックスに入っており、汚さなければ持ち帰ることも出来ます。なお、白桃ジュースも一緒に付いてきます。
蓋を開けてみました。岡山県のフルーツを使ったスイーツで、どれもおいしくいただきました。なお底面だけにすることが出来るので、食べる際はわざわざ取り出す必要はありません。
入口には途中の長時間停車の案内が貼られています。アテンダントさんからも案内はありますが、降りる前に目で確認することが出来ます。そうそう、この列車の乗降は起終点となる岡山・津山のみ可能で、途中停車駅からの客扱いはいたしません。
岡山駅を出てしばらく、津山線の絶景ポイントの旭川沿いを走る区間へと差し掛かります。今回はボックスシートを予約しましたが、ロングシートだとどっちに座っても景色見にくいんですよね…。
その後列車行き違いのため牧山駅に停車です。行き違い設備はありますが崖の下に作られた駅ですね。津山線のトイレって、瓦葺きの独立した建屋を設けているのが特徴のひとつですね。
跨線橋からは旭川が見えます。川の向かいの畑では、夏になるとひまわりが植えられて咲き誇るようです。
お食事を食べ終えた頃、アテンダントさんからグッズの車内販売のメニューを渡されます。実用的なものから実際に車両に取り付けられているサボのレプリカまで、様々な商品が揃えられています。
車内販売のカートがこちら。…と言っても揺れる津山線かつロングシートでカートだんじりをやらかす訳には行きませんので、欲しい商品をアテンダントさんが確認の上ここまで取りに行ってお客さんに渡すという、大変ホスピタリティな方法で実施しています。
福渡駅の手前で旭川を渡ります。奥の白い橋、旭川が氾濫すると度々流される人道橋なんだそうな…。
その後2駅目の長時間停車駅、福渡駅に到着です。駅名標が七福神のデザインを加えたものになっています。
駅の外にも出られます。津山線は歴史ある木造駅舎が残っていますが、この駅は車寄せの上屋が追加されているようです。
当駅では地元の方のお出迎えが実施されます。そしてアテンダントさんが例のハンドベルを持ってホームで待機しており、記念撮影や世間話の相手をしてくれます(笑) ハンドベルは発車の3分前と1分前に鳴らすようになっており、お客さんの乗り遅れを防いでいます。
終点、津山はB'zのボーカル稲葉さんの出身地ということで、このような看板も。なお例の化粧品屋さんの最寄りは東津山駅になります。
さて、折り返しの岡山行きにも乗車してみましょう。津山駅での折り返し時間が30分程度ですので、観光やランチには向きません。行程の片道に組み込むのがちょうど良いですね。
ドアが開きまして乗り込みます。再度記念撮影プレートのところですが、ここには記念乗車証も置いてあり、同じく隣に置かれたスタンプを押すことが出来ます。
岡山行きでもお料理を予約出来ます。岡山県の素材をふんだんに使用した「岡山県北イロドリちらし」でございます。
開いてみました。主菜はローストビーフ、左側に様々な野菜が見えますが、その下には雑穀米の酢飯が敷かれています。
岡山行きでは、津山行きでドアが開かなかった弓削駅で長時間停車を行います。津山線最古参の駅舎が残されており、委託の窓口もあるので清掃も行き届いているようでした。
おいしいお料理に気さくなアテンダントさんの小気味よいアナウンス、ソフト面ではかなりレベルの高い観光列車なのですが…車両が、嗚呼車両が。少なくともテーブルだけでも改善願いたいものです。