その9(№6075.)から続く

更新再開に伴いまして、連載記事のアップも再開いたします。ただし、当面は不定期更新となりますのでご容赦を。

今回は(予告編ではリストアップしていませんでしたが)JR四国8000系のお話を。
8000系の登場の経緯は以下のとおり。

昭和末期から平成初期にかけて、四国島内では高速道路網の整備が進められており、JR四国ではこれに対抗するためのスピードアップが喫緊の課題でした。そのスピードアップのために登場したのが、以前に取り上げた2000系気動車ですが、8000系は電車。これには、高松-松山・伊予市間の電化完成も関係していました。つまり予讃線系統の高速化を、電車化と振子車両化によって達成し、もって高速道路(自家用車・高速バス)に対するアドバンテージを確保しようという狙いがありました。

8000系はまず、平成4(1992)年に試作車3両が登場(ただし、後の量産車とは異なりグリーン席は設けられていない)、同年9月から岡山・高松-新居浜間の特急として営業運転を開始しました。この時点では新居浜-伊予北条間は電化が完成していません。
新居浜-伊予北条間の電化は翌平成5(1993)年に完成し、岡山・高松と松山の間が完全に電化されました。そしてこれに伴ってJR四国は8000系の量産車を投入、宇和島直通列車以外の「しおかぜ」「いしづち」を全て同系に置き換えました。これにより、従来の気動車使用列車よりも20分短縮されています(最速列車同士の比較)。

8000系のスペックは以下のとおり。

① 車体は軽量ステンレス構造として軽量化に配慮。
② メカニックはVVVFインバーター制御だが、試作車が電動車2両分の電動機を制御する1C8M方式であるのに対し、量産車は個別の電動機を制御する「1C1M」方式。
③ 最高速度は130km/h(2連で運転の場合は120km/h)。ただし試作車の設計最高速度は160km/hであり、レールブレーキを備えていた(後に撤去)。
④ 制御付き自然振子装置を採用し(2000系気動車と同じ)、曲線通過速度を向上。車体傾斜の方法は、試作車がベアリングガイド式、量産車がころ式。
⑤ パンタグラフの追従の方式として、台車とパンタグラフをワイヤーで結び、常にパンタグラフが真上を向く「ワイヤー式」を採用。
⑥ 編成は5連(1両の半車がグリーン席)と3連。

「車体傾斜車両」としての特徴を挙げれば、8000系は2000系気動車と同じ「制御付き自然振子式」を採用していますが(④)、これは勿論乗り心地への配慮のため。
ただ電車の場合、車体の傾きに従ってパンタグラフも傾くことになるため、架線との関係をどうするかが難問になります。国鉄時代の381系は、新規電化開業路線への投入ばかりだったので、国鉄当局が投入路線に対する電化工事の際、架線の張り方を工夫してこの問題を解決しましたが、8000系は既存の電化区間も含まれるため、そのようなわけにはいきません。量産車投入時点では新居浜-伊予北条間が非電化ではあったものの、この区間だけ381系方式で架線を張ってしまうと、他の区間では振子を使えないことになりかねず、8000系の所定の性能が存分に発揮できなくなってしまいます。勿論既電化区間でも架線の張り方を改めれば無問題ですが、それでも費用が掛かり過ぎます。
そこで、8000系では地上設備への改修を最小限、特に架線の張り方を変えなくて済むように、車両側で対策を施しました。
その対策こそが、台車とパンタグラフをワイヤーでつないだ、パンタグラフ追従装置(⑤)。これによって車体が傾こうともパンタグラフが常に真上を向いている状態を確保でき、架線の張り方を変える必要をなくしたのです。
もっとも、パンタグラフ追従装置にワイヤーを採用したのは、今のところは8000系だけで、その後に登場したJR東日本のE351系やJR九州の883・885系などは、車体に穴を開け、その穴を台車に直結された櫓が貫通していて、パンタグラフがその櫓の上に乗っている形態を採用しています。ワイヤー式が普及せず「櫓式」が多数派になったのは、恐らくですが、ワイヤー部分などの可動部のメンテナンスを嫌ったためではないかと思われます。

ここで試作車の160km/h運転試験について言及しておきましょう。
8000系試作車は、湖西線や予讃線で高速走行試験が実施され、150km/hからは600m以内で急停止できることも確認され、所謂「600mルール」遵守が可能であることも確認されました。しかしなぜか150km/hでの営業運転は行われず、試作車のレールブレーキも量産車の営業運転開始までに撤去されてしまいました。

8000系の運転区間・運用の変化は少ないのですが、平成10(1998)年に編成の方向転換を行い、従来松山方を向いていたグリーン・普通合造車を岡山・高松方に向かせました。これは、宇多津駅での増解結の時間を短縮し、特に岡山発着列車の所要時間を短縮するためでしたが、これによって2000系気動車使用列車とグリーン席の向きが反対になってしまい、旅客案内上は不都合が生じてしまいます。そのためか、16年後の平成26(2014)年には再度方向転換を行って元に戻し、グリーン席の位置を2000系気動車使用列車と合わせることになり、現在に至っています。

登場11年を経た平成16(2004)年から順次、内外装の大規模なリニューアル改造が行われました。内装のリニューアルを施されたのはグリーン席と普通車指定席のみで、普通車自由席はそのままとされました。同時にドア周りのカラーリングをグリーン席は赤、普通車指定席はオレンジ、普通車自由席を紺にそれぞれ色分けし、視覚でもそれぞれの座席種別がわかりやすくなりました。同時に一部のトイレを洋式へ変更、さらに喫煙スペースの設置も行われています。もっとも、喫煙スペースは禁煙志向の高まりの結果か、7年後の平成23(2011)年に使用が停止されてしまいました。
ただし、このときは座席へのコンセント設置などは行われなかったため(車端部の席を除く)、今年度からコンセント増設、バリアフリー対応などを目指した2度目のリニューアルの計画があるとのことです。

8000系は今年で量産車登場から満30年。2度目のリニューアルも計画され、ますますの活躍が見込まれます。近年8600系の投入がありましたが、8000系を置き換えるには至らず、しばらくは両者の競演が続くのでしょう。

次回は、JR東日本に登場した振子車両を取り上げます。

その11(№6080.)に続く