千葉県を走るJR久留里線の久留里~上総亀山間について、JR東日本がバス路線への転換を視野に自治体へ協議を打診する方針を固めたことを、複数のメディアが報じました。災害により不通となっている路線以外へ廃線を視野に入れた協議の打診は初のことです。

〇数字で見る久留里線の厳しすぎる現状

 JR久留里線は、木更津駅と上総亀山駅を結び、房総半島の中央部を走る32kmの路線です。このうち、久留里~上総亀山間については、収入が100万円なのに対し営業費用は2億8100万円と、2億円以上の赤字を計上しています。収支率は0.5%、営業係数(100円の収入を得るためにかかる経費)は19,110と、JR東日本の中でもワースト1,2を争う数字となっています。

 また、輸送密度は1987年度は823だったのに対し、2021年度はなんと55と、これもワーストクラスの数字となっています。

 そんな状況の久留里~上総亀山間ですが、存廃はどのようになってしまうのでしょうか。私の予想では、遠からぬうちに廃線になるのではないか、とみています。

 というのも、廃線にするデメリットがほかの路線に比べて少ないのです。

 

(1)高速バスの存在

 久留里~上総亀山間も含め、JR久留里線の一部区間は高速バスの路線が並行しています。具体的には、東京~鴨川を結ぶ「アクシー号」、千葉~鴨川を結ぶ「カピーナ号」の2路線で、久留里駅や上総亀山駅の近くにもバスは停車します。

 これに乗れば、東京・千葉・鴨川へ乗り換えなしで行くことができるうえ、ルートの近さ、速さいずれも高速バスの圧勝となります。そのため、久留里線に遠距離利用は期待できません。

 なお、現在は「アクシー号」「カピーナ号」とも、久留里線沿線の停留所どうしの利用はできません。例えば、久留里駅前バス停から亀山・藤林大橋(上総亀山駅から徒歩8分)バス停まで、これらの高速バスで移動することはできないというわけです。

 しかし、久留里線沿線の停留所どうしの利用もできるようになれば、これらの高速バスは東京や千葉への移動手段というだけでなく、JR久留里線の代替という役割も十分担うことができるでしょう。要は、バス転換が比較的難しくない環境にある、というわけです。

 

(2)路線が行き止まり

 例えば、JR内房線とJR外房線は、千葉と安房鴨川を結び、房総半島一周ルートを形成しています。こうした路線が一部でも廃線になってしまうと、路線の繋がりがなくなってしまい、さらなる利用者減につながりかねません。

 しかし久留里線は、木更津駅ではJR内房線と接続しているものの、それ以外の駅はどの鉄道とも接続していません。上総亀山駅も完全な行き止まり駅です。

 そのため、沿線住民の移動手段が確保できればバス代替としても支障は少ないという環境下にあります。

 

(3)存廃を検討している区間が一自治体のみを経由している

 久留里線の久留里~上総亀山間は、全区間が君津市に属しています。協議する相手は君津市だけ(入ってもあとは千葉県くらい)になるので、比較的協議がしやすい状況にあります。

 

(4)デマンドタクシー「きみぴょん号」の存在

 君津市では、小櫃・上総地区においてデマンドタクシー「きみぴょん号」が運行されています。

 

https://www.city.kimitsu.lg.jp/uploaded/attachment/260.pdf

https://www.city.kimitsu.lg.jp/uploaded/attachment/37498.pdf

 

 一番下のリンクに張った、観光客向けのパンフレットを見ると分かりますが、この「きみぴょん号」の運行範囲は、まさにJR久留里線が走っているエリアと共通しています。

 そのため、久留里~上総亀山間が廃線になってしまっても、久留里駅まで久留里線か高速バスで来ることができれば、あとは「きみぴょん号」で上総亀山方面へアクセスすることができます。

 そしてこの「きみぴょん号」の特筆すべき点は、君津市民以外の人も利用することができるということ。そのため、これさえあれば日常の買い物等の利用も、観光客の利用にも使えるのです。

 高速バスに加え、デマンドタクシーも久留里~上総亀山間をカバーできるとなると、久留里線の同区間はかなり厳しい立場に立たされることでしょう。

 

〇まとめ

 いかがでしたでしょうか。沿線住民が減り、利用が1日55人と著しく少ないうえに、高速バスやデマンドタクシーといった、久留里線の代替になりそうな交通が既に存在しているとなると、存続はかなり危ういでしょう。

 維持するにしても、JRが単独で運営するという形にはならず、自治体(=君津市)へ一定程度の負担を求めることになるでしょう。君津市がお金を投じても効果が見込めないと判断すれば、廃線の話は一気に進むと思われます。

 ただ、以前にも書きましたが、廃線はだめ、存続すればなんでもよしというわけではありません。沿線住民が本当の意味で便利だと思える交通を作ることが大事なわけで、廃線するならするでスパッと決断し、より便利な交通体系づくりに公金と労力を投じたほうがよほど沿線住民にとってよいのです。

 JR東日本と君津市との間でどのような協議が交わされるのか、そして君津市が久留里線の同区間についてどのように考え、交通不便地域の移動手段をどのように形作るのか、今後も注目です。