知らない人のために申しますれば、画像の電車は東葉高速鉄道の１０００系と呼ばれる車両です。
パッと見、東京メトロの５０００系に似てなくもないなと思わせる風貌ですが、その眼力は正しいです。だって、元５０００系ですもん。
東葉高速鉄道は１９９６年４月に開業した鉄道ですが、計画当初は営団地下鉄（当時）東西線を延長させるつもりでした。
東西線は１９６９年の東陽町－西船橋間の開業を以って中野－西船橋間が全通しましたが、営団はさらに千葉県の勝田台まで延伸させる計画を企てていました。実際に沿線の船橋市や八千代市なんかでも「東西線の延長を」望む声があったようですしね。
そして１９７４年に当時の運輸省に免許を申請していたのですが、この事業計画に待ったをかけた鉄道事業者がいました。京成電鉄です。
経路が異なるとはいえ、同じ千葉から都心へと連なる路線ということで、京成は営団の進出に危機感を感じました。「まともに営団が侵略しようものなら、乗客を奪われかねない」と危惧した京成はすぐさま行動に出まして、断固反対の姿勢を打ち出します。もう一つ、大きな問題がありまして、所謂「帝都高速度交通営団法」では、営団地下鉄の路線は東京から外に出てはならないという条文があり、これが計画に関わる大きなボトルネックになっていたようです。京成もそこを突いたんでしょうね。オイルショックや成田空港問題で京成は経営危機に陥ってしまっていたので、そこに営団が侵略したら目も当てられない事態になっていたでしょうね。
その後、幾度か折衝があったのでしょう。１９８１年に京成出資の第三セクター方式による新たな鉄道会社を立ち上げ、経営については京成に委託する形を取ることで双方で合意に達しました。そうして出来たのが東葉高速鉄道で、１９８２年には西船橋－勝田台間の免許を営団は取り下げて、東葉高速が取得。１９８４年から建設工事が始まりました。
第三セクターということで、地方自治体と鉄道事業者、そして主要取引銀行による共同出資で成り立ちますが、自治体が千葉県と船橋市、八千代市が関与し、鉄道事業者側が帝都高速度交通営団（営団地下鉄）、京成電鉄、東武鉄道、新京成電鉄が出資に参加していますが、事実上、京成系の会社になります。
計画当初、１６．２ｋｍの路線に７駅を設ける予定でした。北船橋（仮称）では東武野田線と、北習志野（同）で新京成電鉄と連絡することになっていましたが、実際は東武野田線とは乗り換えしませんでしたよね。
最終的には昭和６３年度に開通するつもりで建設が進められましたが、用地買収が困難を極め、全区間の用地買収が完了したのは１９９４年でした。その結果、大幅に開業が遅れ、前述のように１９９６年にようやく開業に漕ぎつけました。東西線との相互直通運転は計画当初から盛り込まれていたことで、開業当初から東西線に乗り入れています。
車両は自社発注出来るような状況ではなかったようで、０５系の増備が進む東西線の５０００系を譲り受けて、改造を施して１０００系として就役させました。
外観上の大きな特徴は、フェイスリフトされた前面。丸目の独立した灯火類はユニット式の角目になり、小窓だった側面の乗降用ドア窓が大きくなりました。
１０両編成×１２本＝１２０両が転籍しましたが、運用に就いたのは１０編成だけで、残りの２編成は結果的には運用に就くことは無く、部品取り車となりました。
その後、２００４年に初の自社発注車である２０００系（東京メトロ０５系のＯＥＭ供給車（？））が就役すると、徐々に置き換えが進み、営業運転の終了は２００６年でした。
画像を見ると、先頭車が「１０５１」と読めますので、
←中野 東葉勝田台→
1051-1052-1053-1054-1055-1056-1057-1058-1059-1050
5810 5321 5683 5344 5110 5910 5331 5684 5332 5010
という編成になります。下段の細字は種車です。
その東葉高速鉄道ですが、東京メトロに吸収されるのでは？ という噂が流れています。
大いなる期待を持って迎え入れられたのは良いんですが、経営的には結構な赤字で、開業時から期待していたほどの収益にならなかったことに加えて、昨今のコロナ禍で在宅勤務が増えて鉄道利用者が減少したことがとどめになっているようです。事実上の親会社である京成も「見切りをつけたとかつけない」とか、「東京メトロが受け皿になる」とか様々な憶測が渦巻いていますが、やるなら早い方が良いのでは？ と思います。
【参考文献・引用】
鉄道ファンＮｏ．２４４、２４５（いずれも交友社 刊）
営団地下鉄車両写真集 （交通新聞社 刊）
ウィキペディア（東葉高速鉄道、同１０００形電車）