先日来の大雪のごとく、雪国の人が雪でたいへんに苦労することが多いのを承知の上で言わせていただければ…

雪は好きだ。

雪は余計な雑物を隠してくれて、フォトジェニックな景色を提供してくれる。雪には普段見慣れた光景を一変させ、魅力的なものに変える力がある。

長年住んでいる東京でも雪が降ると今でもワクワクする。昔に比べると東京に雪が降ることは減ったような気もするが、それでも何年かに一度は大雪が降ったりすることもある。そんなときは鉄道写真を撮りにスクランブル発進したいと思うのだが、道路が大渋滞するとか電車が大幅に遅延するとかで実行することはほとんどない。

↓以下の写真は全て立川機関区拝島派出所にて撮影

僕の滅多にないスクランブル発進歴の中でも1983年2月のことはよく覚えている。17日の夜明け前から降り出した雪は朝になっても止む気配はなく、このままいけばかなりの積雪になりそうだった。

1ヶ月後には古豪ED16が引退することがアナウンスされていた。 ED16は好きな機関車でそれまでもしばしば奥多摩の地を訪れていたが、雪の中を走る写真を撮ったことはなかった。このまま雪景色のED16を見ることのないままお別れかと思っていた。そう思っていた矢先の大雪。雪景色が撮れる最後のチャンスと思った。翌日から大学の学期末試験が始まるというのに、僕は意を決して、モノクロフィルムを装填したニコンFEを持って青梅線を目指した。

中央線を立川で乗り換え、青梅線に入ると雪はますます強くなってきた。これは奥多摩方面に行けば、板谷峠のような写真が撮れるぞとニンマリしながら電車に揺られた。と思ったのも束の間、電車は拝島止まりに変更になり、それ以上奥には進まなくなってしまった。今で言うところの運転抑止である。せっかくやって来たのになんという不運と悔やんだ。

冷静に考えれば、仮に奥まで行っていたら帰れなくなっていたわけで、拝島で足止めを食らったのはむしろ幸運ととらえるべきだったのだが、そのときはそんなことに思いが至らなかった。

ともかく今更撮れませんでしたと帰ろうものなら、単なる阿呆。腐ってもなんとかしようと、僕は拝島派出所に向かった。派出所といってもおまわりさんの交番ではない。立川機関区拝島派出所といって、ED16がたむろしているところだ。案の定派出所には数両のED16や後釜のEF64、それにEF15がいた。この大雪で出番のない機関車たちはみなパンタグラフを畳んだ状態で置かれていた。僕は雪の降りしきる中それらの機関車を夢中で撮影した。

ひととおり撮り終わったところで帰宅しようと駅に戻ると青梅線は立川・奥多摩間全線不通になっていた。幸いまだ八高線が動いていたので八王子に出て、危うくも無事帰宅することができた。

後日鉄研の仲間に、どうだ、珍しいだろうと写真を見せびらかしたところ、パンダグラフが上がっていないので廃車体に降り積もる雪のようだとからかわれたが、廃車体ならもっと雪が積もるはず、僕にはそうは見えないと強がったりするのであった。