波動用としての役割が増える「リゾートあすなろ」
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▲「リゾートあすなろ」宮古駅にて(2021年4月撮影)

 2022年11月にJR東日本より新しい観光列車「ひなび(陽旅)」「SATONO」が発表された。JR東日本の新しい観光列車は2019年10月にデビューした「海里」以来、約4年ぶり(※1)になる。そこで今回はこれらの改造元である「リゾートあすなろ」の現況と「ひなび」「SATONO」の概要について見ていきたいと思う。
 「リゾートあすなろ」は2010年12月の東北新幹線八戸~新青森間開業に合わせ、それまで大湊線などで活躍していた「きらきらみちのく」を置き換える事を目的に2両編成2本が導入された。運行区間は新青森~蟹田間を結ぶ「リゾートあすなろ津軽」と、新青森~大湊間を結ぶ「リゾートあすなろ下北」の2系統が設定された。前者は運行区間を三厩駅まで延長した上で「リゾートあすなろ竜飛」に改称したり、弘前駅まで延長したりと様々な試みが行われたものの2017年に運行を終了した(※2)。後者の「下北」は現在も存続しているが運行日数は年々減少している。運行の撤退や運行日数の減少が起こっている理由として「リゾートあすなろ」の役割が変わっていることが挙げられる。

※1:観光特急も含めれば2020年3月にデビューした「サフィール踊り子」以来となる。
※2:詳細は『観光列車史【北東北編・第4回】なぜ「リゾートあすなろ竜飛」は運行を終了したのか』を参照。

 ジョイフルトレインには様々な分類方法があるが、その中に着地型と波動用というのがある。着地型とはいわゆる観光列車の事で、「リゾートしらかみ」や「海里」のような土曜・休日を中心に特定の区間で営業運転に就く車両の事だ。一方で波動用とは不定期に様々な区間で運行に就く車両の事で、季節ごとに運行区間を変える「びゅうコースター風っこ」はこちらに当てはまる。では現在の「リゾートあすなろ」はどうだろうか。そこで同車両の運行日数を数えてみた。

あすなろ番外 (3)
あすなろ番外 (4)
▲表1:「リゾートあすなろ」波動運用一覧表(路線別)
※1:
山田線に関しては「リゾートあすなろ」が不定期的に運行されていた2017年までの運行のみ反映している。
※2:津軽線に関しては「リゾートあすなろ」が不定期運行になった2018年以降の運用のみ反映している。(「2大半島終着駅号」は例外)
※3:主にJR東日本から発表される臨時快速列車のみカウントし、団体列車の運用は反映していない。
※4:運行予定でカウントしている為、自然災害・車両故障・新型コロナウイルス等による運休は反映していない。


リゾートあすなろ運行日数表
▲表2:主要区間別「リゾートあすなろ」設定日数(2023年3月2日訂正)
※1:数字は日数を表す。
※2:1日何往復運行したかはカウントしていない。片道のみの運行でも1日とカウントする。
※3:「2大半島終着駅号」運行日は大湊線・津軽線それぞれの運行日数に含めている。
※4:仙台~平泉と秋田~平泉の列車が同日に運行している場合は重複してカウントした。
※5:主にJR東日本から発表される臨時快速列車のみカウントし、団体列車の運用は反映していない。
※6:運行予定でカウントしている為、自然災害・車両故障・新型コロナウイルス等による運休は反映していない。


リゾートあすなろ運行日数
▲グラフ1:主要区間別「リゾートあすなろ」設定日数(2023年3月2日訂正)
※1:縦軸は日数、横軸は年度を表す。
※2:1日何往復運行したかはカウントしていない。片道のみの運行でも1日とカウントする。
※3:「2大半島終着駅号」運行日は大湊線・津軽線それぞれの運行日数に含めている。
※4:仙台~平泉と秋田~平泉の列車が同日に運行している場合は重複してカウントした。
※5:主にJR東日本から発表される臨時快速列車のみカウントし、団体列車の運用は反映していない。
※6:運行予定でカウントしている為、自然災害・車両故障・新型コロナウイルス等による運休は反映していない。

 上記の表・グラフより近年「リゾートあすなろ」の運行日数は全体的に減少している。その一方で2014年の山田線での出張運転を皮切りに他線区での運行は年々増加傾向にあると言えるだろう。特に2022年は大湊線での運行日数が28日だったのに対して、他線区では19日とその差は小さくなっている。
 先述したように「リゾートあすなろ」は「きらきらみちのく」の後継の観光列車ということもあり、運行当初は車内販売や車内イベント行われていた(※3)。だが現在ではこういったサービスも見られなくなった。その一方でJR東日本では車両の老朽化などからジョイフルトレインの淘汰が進んだ(※4)が、後継の車両は投入されずに、その役割の一部は「あすなろ」車両が受け継ぐようになった。例えば2021年に485系「ジパング」が引退してからは、「あすなろ」車両が平泉方面への波動用車両として使用される回数が大幅に増えた。

※3:詳細は観光列車史【北東北編・第3回】「リゾートあすなろ」を参照。
※4:「ふるさと」「Kenji」「リゾートみのり」「リゾートうみねこ」など。



「ひなび」「SATONO」へ
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『東北の文化・自然・人に出会う旅へ「SATONO」がデビューします』より

 このように「リゾートあすなろ」の波動用車両としての役割が強くなる中、2022年11月に「ひなび(陽旅)」「SATONO(さとの)」の概要がJR東日本より発表された。「あすなろ」車両2本のうち1本を「ひなび」へ、もう1本を「SATONO」へ改造する。どちらも2号車をリクライニングシートからボックスシートへ改装するので、2両あたりの定員は78名から59名へと減少する。「ひなび」は2023年冬より盛岡支社の観光列車として岩手県・青森県の各線区を走行するのに対して、「SATONO」は2024年春より東北本部(旧仙台支社)の観光列車として南東北を中心に運行する。この事から前者は今まで通り八戸運輸区所属だろうが、後者はHB-E210系も在籍する小牛田車両センター(宮城県)へ転属することになるかもしれない。


運行区間について
 先述したように「ひなび」は岩手県・青森県の各線区を、「SATONO」は各地のイベントや季節の移り変わりに合わせて、宮城・福島・山形の3県を中心に運行することが発表されている。この為、車両の役割としては「リゾートしらかみ」や「海里」といった着地型では無く、「びゅうコースター風っこ」のような様々な線区で運行することになる。敢えて運行線区を定めないのは、現在の「リゾートあすなろ」と同じく波動用車両として、お祭りやイベントに合わせて柔軟に運行することができる上、桜や新緑、紅葉、雪といった季節の特性に合わせて列車を設定できるメリットもある。そこで最後に「ひなび」「SATONO」がどの線区を走行するのか簡単に予想してみる。

「ひなび」の運行線区予想
大湊線:
「リゾートあすなろ下北」が時々運行している為、「ひなび」もこの区間で引き続き運行する可能性は高い。一方で近年の年末年始やお盆の時期はキハE130系500番台による臨時快速が設定されることも多いので、「ひなび」の運行する機会は少ないままかもしれない。

釜石線:現在は4月~11月頃に「SL銀河」が設定されているが、同列車は2023年5月をもって引退するので、その後の観光列車として時々運行する可能性は高い。

男鹿線:毎年2月の“なまはげ柴灯まつり”に合わせて「あすなろ」車両を用いた列車が設定される為。だが男鹿線は秋田県なので「ひなび」になった後も運行が継続されるとは限らない。

「SATONO」の運行線区予想
磐越西線:
現在は4~11月頃に「フルーティアふくしま」が設定されているが、同列車は2023年12月をもって引退するので、その後の観光列車として時々運行する可能性は高い。

東北本線:毎年秋ごろに「あすなろ」車両を用いた列車が仙台~平泉間で設定されている為。

左沢線:毎年6月に「びゅうコースター風っこ」を用いた「さくらんぼ風っこ」が設定されているが、「風っこ」はキハ40系改造という事もあり車両の老朽化が進行している。その為「SATONO」が同車両の役割を受け継ぐ可能性は高い。一方で「風っこ」は「フルーティア」と異なり引退が発表されていないので、活躍はまだ長いかもしれない。

 「ひなび」「SATONO」の運行区間、指定席料金、車内サービスは今後発表されるとの事なので、これからも「リゾートあすなろ」「ひなび」「SATONO」の動向に注目していきたい。



【参考】
『北東北に新しい観光列車「ひなび」がデビューします』JR東日本 盛岡支社(2022年11月22日)
『東北の文化・自然・人に出会う旅へ「SATONO」がデビューします』JR東日本 東北本部(2022年11月24日)
『「リゾートあすなろ」波動運用一覧表』はJR東日本盛岡支社・秋田支社のプレスリリースを元に作成



おまけ
あすなろ番外 (1)
あすなろ番外 (2)
▲表1:「リゾートあすなろ」波動運用一覧表(年月日順)
※1:「リゾートあすなろ」が2編成同時に使用される日の場合、1編成目は緑色、2編成目は橙色で掲載している。なお2編成が連結して運用に入る日は金色で掲載している。
※2:
山田線に関しては「リゾートあすなろ」が不定期的に運行されていた2017年までの運行のみ反映している。
※3:津軽線に関しては「リゾートあすなろ」が不定期運行になった2018年以降の運用のみ反映している。(「2大半島終着駅号」は例外)
※4:主にJR東日本から発表される臨時快速列車のみカウントし、団体列車の運用は反映していない。
※5:運行予定でカウントしている為、自然災害・車両故障・新型コロナウイルス等による運休は反映していない。


HB-E300系編成表
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「リゾートあすなろ」デビュー時のパンフレット
あすなろ (1)
あすなろ (2)