みなさんこんにちは。前回からの続きです。


3年振りに、今年は現地開催となった鉄道イベント「きんてつ鉄道まつり」。

会場の「五位堂検修車庫(奈良県香芝市)」の訪問記をお送りしています。



イベントの目玉、検修車庫の内部を見学しています。ちょうど入場していた、検査・修理中の車両がずらりと並べられていて、壮観です。



ところで、前回の記事では、この検修車庫内には3本のレールが至るところで敷かれている…ということについて触れました。


外側が「標準軌(1,435mm)」、内側が「狭軌(1,067mm)」と呼ばれるゲージ規格です。





「JR天王寺駅(大阪市天王寺区)」に隣接している「近鉄大阪阿部野橋駅(同阿倍野区)」。

飛鳥・吉野方面に向かう「特急 さくらライナー」が発着していることでも知られています。



この駅を起点にしているのは「南大阪線」系統の路線。近鉄ホームページより。



さまざまな鉄道会社が合併を重ねて成立した、今日の近鉄電車ですが、この「南大阪線」系統は、古く明治中期に最初の区間が開業した「大阪鉄道(大鉄)」という会社がもとになっていました。出典①。




「大鉄」は奈良や伊勢志摩方面へ向かう「奈良線」や「大阪線」とはライバル関係で、ゆえに出自もまったく異なる路線だったのですが、その名残で「南大阪線」系統の軌道幅は、それらとは一線を画す「狭軌」を現在も採用しています。河内長野にて。



前置きが長くなりましたが、軌道幅が異なる「南大阪線」系統の車両も「標準軌」路線の「大阪線」沿線にある、この「五位堂検修車庫」で検査・修理などを行っています。

先ほどの「3本のレール」は、異なる線路幅の台車を履いた車両も入場出来るように工夫されているものでした。


ところで、構内の一角で見つけたこの、屋根のない業務用車両。「モト98」という、無蓋(屋根がついていない)電動貨車です。


この後方には、同じような形状の「モト97」も連結されています。ただ、顔が見えません。


手元の書籍から。
このような、ニ枚窓の顔つきをしているのですが、実はこの「モト98」が、その「南大阪線系統」の車両をこの「五位堂検修車庫」まで運搬して来るという重要な役割を果たしています。出典②。


その拠点となっているのが、標準軌の「橿原線」と狭軌の「南大阪線・吉野線」が接続する「橿原神宮前駅(奈良県橿原市)」です。同。



この駅の構内には「台車交換場」という施設が設けられていて、名称の通り、標準軌台車と狭軌台車を履き替えさせるという、大変珍しい機能を有しています。


よくよく画像を見ていますと、レールがこちらには4本。標準軌と狭軌どちらの台車を履いた車両でも入線が出来る設えです。出典①。


この「橿原神宮前駅構内の台車交換場」については、その手元の資料に詳しく解説がありました。興味深いものですので、ちょっと取り上げてみたいと思います。



ここでは「五位堂検修車庫で検査を終えた南大阪線系統の車両が、自分が所属する狭軌の路線に戻る」という作業順序です。


①五位堂検修車庫から「モト97+98」に牽引されて車両が「台車交換場」に到着。
これの台座に載せられている台車は、検査を終えた車両が履いていた「狭軌」のもの。


牽引されて来た「南大阪線系統」の車両は、
自分の狭軌台車(本台車)が使えないので、標準軌の仮台車を使用し、ここに到着。


②「モト98」の台座から、狭軌の本台車をクレーンで持ち上げる


③狭軌の本台車を、4本レールに載せて架設する。



④車体を支えた後に床が下がり、ここまで履いてきた標準軌の仮台車を撤去する。


⑤別の場所に仮置きしていた、狭軌の本台車を所定の場所に移動させる。


⑥狭軌の本台車を載せた床を上下させ、クレーンで持ち上げられている「南大阪線系統」の車両に、本台車を一台ずつ本設置する。ここまで出典②。


というような、非常に緻密な作業を行うことで軌道幅の異なる「南大阪線系統」の車両を、こちらに運搬して検査や修理をすることが出来るようになっています。



訪問した際、くだんの「モト98」には「6604」と車番が記された台車が載せられていました。

近鉄の場合、車番が「6」からはじまる車両はまさにその「南大阪線系統」で使用されているもの。これからの経緯を知りますと、なんだかわくわくします。


さらに次回に続きます。
今日はこんなところです。

 (出典①「鉄道ピクトリアルNo.569 特集 近畿日本鉄道」鉄道図書刊行会発行 1992年12月)

(出典②「ヤマケイ私鉄ハンドブック13 近鉄」廣田尚敬写真・吉川文夫解説・山と渓谷社発行 1984年7月)