旅行情報誌の記事に誘われて、「砂の器」(松本清張)の舞台になった場所を訪ねた。
小説のあらすじを述べるわけにはいかないが、物語の中に、「亀嵩(かめだけ)」という地が登場する。
亀嵩とはどんなところなのか一度行ってみたいと思った。
東京から夜行の寝台特急「サンライズ出雲」に乗ってみたかったので、乗れば、寝ている間についてしまうという安易な考えで計画を練った。
ところが、いざ実行に移そうとしたらどのクラスも予約がとれず、その案は断念せざるを得ないことに。
計画を練り直したのだったが、山陰は遠かった。
東京から岡山まで新幹線のぞみ。
岡山で特急やくもに乗り換え、ほぼ日本を横切り日本海側の宍道(しんじ)へ。
宍道から木次(きすき)線に乗り換え亀嵩まで。
木次線はディーゼルカーのワンマン運転で、単線のため、木次駅では上り下りの列車の行き違いのための待ち合わせ。
ホームの駅名の表示も面白い。
東京を朝8:30発の「のぞみ」で出発した列車の旅は、目的の駅「亀嵩」についたのは日も傾く17:37であった。
朝から夕方まで、ほぼ一日列車の旅を楽しんで(?)いたことになる。
亀嵩の駅は無人で、どこか懐かしい風情のトタン屋根の平屋。
「驛嵩亀」と、旧の字体(驛)で書かれた駅名は右から左へ読む。
駅舎内にはお蕎麦屋さんが営業しているが、時間が合わず、お蕎麦は別な機会に譲るとする。
その日は、亀嵩温泉の一軒宿の送迎車で送ってもらい、のんびりと湯に浸かって体を休めた。
翌朝、宿から歩いて10分ほどのところにある「湯野神社」に行ってみた。
本殿に向かう石段の登り口にある鳥居の脇には、「砂の器 記念碑」と彫られた立派な石碑が建っている。
頑張って急な石段を登ると本殿の前に出る。
いろいろお願いしても、神様も東京の人間までは手が周らないのではないかと思い、今回の「旅の無事」だけをお願いした。
注連縄は、小ぶりではあるが、あの出雲大社にある注連縄と同じ形をした重厚感のあるものだった。
また、一段下がった広場には四本柱で屋根のある土俵が作られている。
出雲の神様は、相撲に関連する神事を司っておられるのかもしれない。
木次線は山あいを走っていて、登りに差し掛かるとディーゼル・エンジンはうなりを上げ、「頑張っているぞ!」と感じさせてくれる。
逆に、平らだったり下りになったりすると、軽やかなエンジン音を響かせ心地よい走りを見せる。
漂ってくる排気ガスの匂い、時々生じる舌を噛みそうになるほどの縦揺れなどが、楽しい路線であった。
この路線は「撮り鉄」さんたちにも人気があるのか、カメラを提げた人を何人も見た。
それはそうと、亀嵩(かめだけ)、木次(きすき)、宍道(しんじ)など、ちゃんと読めずに恥をかきそうな駅名が多いこと。