TMS75周年記念号 | 書斎の汽車・電車

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インドア派鉄道趣味人のブログです。
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 現存する最古の鉄道趣味誌である『鉄道模型趣味』(TMS)誌が、現在発売中の9月号(通巻968号)で、創刊75周年を祝っています。

 

 当ブログでもすでにご紹介している通り、後発の『鉄道ピクトリアル』誌がすでに1000号を達成していますが、雑誌としての歴史そのものはTMSの方が長いのです。

 

 さて、その記念号の内容ですが、75周年を記念した「アニバーサリーチャレンジ」のグランプリ受賞作「甦る記憶のために」(田中康彦氏が1949年の草軽電鉄北軽井沢駅周辺を45分の1・16.5mmで再現したもの。本号の表紙も飾っています)が掲載されています。また、準グランプリ、大東孝司氏の「伊藤 剛 鉄道模型館」と、編集部特別賞、大竹尚之氏の「鉄道模型のための樹木」も載っています。

 また、記念号らしい企画として、大仁田雅男氏の「私見 TMS75年史」は、創刊以来のすべての号について、代表的記事(筆者の主観に基づくものですが)を記すほか、編集人・発行人や印刷所の変遷なども記しており、書誌的価値が高いといえましょう。あわせて、TMS誌100号に載った「103冊のTMSを顧りみて」が再録されています。

 

 75周年記念連載として、南井健治氏の「車輌の外部色」が始まりました。『国鉄色ハンドブック』のヒットを受けて、さらに「色」について究めていこうということでしょう。また、片野正巳氏の「昭和広告逍遥」も、TMS誌旧号の懐かしい広告を紹介していこうということでスタートしています。

 小林信夫氏の連載「楽しい軽工作」も「元祖単端を作る」と題して、『鉄道模型作品20題』に掲載の、赤井哲朗氏の「たんたん式軽油動車」をリメイクしています。そして、実物関連の「特別企画」として、村樫四郎氏の「ピーコックを追って 自転車で魔境・葛生の最深部へ」が載っています。東武の蒸機や葛生界隈の鉄道が大好きな私としては、こちらも見逃せない記事でした。

 

 そして何より、本号には、巻頭に山崎喜陽氏の「創刊に際して」が掲載されています。これは昭和21(1946)年、山崎氏が『鉄道模型趣味』の旧1号(ガリ版印刷)を創刊した際の決意表明を再録したものですが、その内容が何とも凄い。「子供のためでなく大人の本を作る」「私達の趣味にもっと知性を注入したい」そして、「今迄の総べての模型雑誌と異り、模型店の宣伝誌ではない独立した本」なので自由な立場で編集ができるとあります。また、山崎氏は「美しい本を作りたいのです。読む人と雑誌の間にほのぼのとした愛情がめばえるやうな親しめるものをお送りしようと思っております」とも述べられています。そして「私が一つの完然とした線にそって進むことだけは、はっきりと記しておきたいと思ひます。この線を持たない編集者には本を作る資格はないと云へませう」という強い決意が述べられています。この「創刊に際して」だけでも、本号には価値があると思います。

 

 山崎氏の宣言を受けて、現編集長の名取紀之氏による「創刊75年を迎えて」もあります。名取氏は誌名にある「趣味」の2文字の意味を改めて考察されています。「趣味」とあえて誌名に付けたのは何故なのか?ぜひご一読ください。そして、名取氏は、TMSがかつてのように趣味界をぐいぐいと牽引する存在ではないとしつつも、山崎氏がかつて記した、読者と雑誌の間にほのぼのとした愛情がめばえるような存在として「この趣味と出会えて良かった、そう思っていただけるお手伝いができたらと思っております」と結ばれています。

 

 『鉄道模型趣味』創刊75周年記念号、永久保存版といえる1冊となっております、そして、次は通巻1000号記念号を楽しみにしております。名取氏はじめスタッフの皆さんのご健勝をお祈り申し上げます。

 

 表紙デザインは特別に昭和24年から26年にかけてのものを復刻しています。そして、この表紙にはもう一つの「仕掛け」があるのですが、そちらは実際にお手にとってお確かめ下さい。