旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

車扱貨物輸送はなぜ消えたのか〔3〕

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《前回のつづきから》

 

 1990年代はじめのバブル経済崩壊と、その後の景気低迷は鉄道貨物輸送にも大きな変化をもたらしました。不景気により生産活動も低下し、コスト削減を目的に生産拠点を国外へ移す企業も続出し、かつてのような需要もなくなって貨物輸送量も低下していきました。

 1990年代後半になると、それまで活躍してきた私有貨車も老朽化が進んでいました。特に、1960年代につくられた車両も数多くあり、更新の時期を迎えつつあったのです。しかし、ランニングコストの高い私有貨車と専用線を維持し続けるのは、荷主にとっても負担であり、輸送量もかつてほどではなくなったこともあって、トラック輸送へ切り換える荷主も出ていました。

 もちろん、JR貨物はそれを黙って見てはいませんでした。

 分割民営化当時に比べて技術も発達したこともあり、荷主である顧客にコンテナへの転換を提案したのでした。コンテナであれば、車両を新たにつくるよりも安価で、それを維持するコストも当然軽減できます。専用線の維持も必要なくなるので、全体としてのコストを大幅に軽減できるのです。加えて、小口輸送にも対応でき、トラック輸送と比べて環境負荷も少なく、定時制の確保もできるということでした。

 こうして、多くの車扱貨物がコンテナへの転換が進められていきました。

 液体の化成品は徐々にコンテナ化が進められ、新たに数多くのタンクコンテナが登場しました。20フィートサイズのタンクコンテナは、様々なバリエーションがあります。また、液化石油ガス(LPG)もタキ25000からタンクコンテナへ転換されるなど、ガソリンや石油類を除く石油化学製品もコンテナ化されていきました。

 さらに、従来は車両限界内に収めるため、コンテナのサイズも厳しい制限が設けられていましたが、コキ100系の登場によってそれも緩和されていったのも、コンテナ化を後押ししました。

 特にISOコンテナと呼ばれる国際規格の海上コンテナは、国内の鉄道輸送で用いられるJR規格のコンテナと比べて大きめのサイズでした。国鉄から継承したコキ50000では海上コンテナを載せると車両限界を超えてしまいますが、コキ100系であれば何とか収まるのでした。このことは、鉄道貨物輸送の幅を広げることにもつながり、ISO規格のタンクコンテナも鉄道で輸送することを可能にしたのです。言い換えれば、コンテナ船で運ばれてきたコンテナは、そのままJR貨物の貨車に載せて運ぶことができるようになったので、荷主にとってわざわざつくり分ける必要もなくなり、より効率的な輸送を実現できたのです。

 加えて、コンテナサイズが大型化したことは、積み荷の幅を広げました。このことは、荷主にとって非常に大きなメリットとなり、数多くの「規格外」コンテナを作り出すことにつながり、ひいてはコンテナ化を促進し、これまでトラック輸送のみだった貨物も鉄道へ転換させ、シェアの拡大にもつながりました。

 

1987年の国鉄分割民営化で誕生した貨物会社・JR貨物は、国鉄の貨物輸送をすべて継承した会社で会った。原則として拠点間直行輸送へ切り替えられ、その主役はコンテナ輸送となり、輸送時間の短縮と明確化、荷主のニーズに応えたコンテナの投入など、国鉄時代に考えられなかった施策を行った。一方で、紙類や化成品などコンテナ化が難しい貨物も多くあったため、すべてをコンテナへ切り替えることはできず、結局、車扱輸送も多数が残ることになった。中でも紙輸送は有蓋車であるワム80000とワキ5500が数多く使われ、一部の車両は性能改善をするも、国鉄時代に見られた威容の編成が走る姿が見られた。(ワム380310 新鶴見信号場 2010年10月13日 筆者撮影)

 

 また、JR貨物はさらなる顧客の獲得を目指して、それまでは鉄道利用運送事業者が保有していた20フィートサイズ以上のコンテナを、自ら製作して保有していきます。

 製紙工場で生産されるロール紙は、ワム80000であれば難なく載せることができますが、12フィートコンテナではサイズが合わず輸送効率が低下してしまいます。このことを解消し、ワム80000と同等の輸送力をもつ20フィートコンテナを製作しました。20フィートコンテナはそのサイズと積載量の大きさから需要が多く、引く手あまたの存在と言えます。その20フィートコンテナを製紙会社に常用されてしまうと、他の顧客が使えなくなってしまい、サービスの低下にもつながります。こうしたことなどが背景となり、国鉄時代に試作で終わったC900系列以来、初の量産20フィートコンテナとして30A形が製作されました。その後、20フィートコンテナは改良が続けられ、今日では30D形が主力として運用されています。

 また、2000年代なかばを過ぎると、JR貨物の輸送体制に変化が見られました。

 最近良く耳にする「選択と集中」という言葉の通り、国鉄以来、延々と受け継がれてきた列車の運行体制や、輸送効率に対して大きなメスが入れられました。

 今日の貨物列車は、一部を除いてコンテナによっておこなわれています。1本の列車にコンテナが載っていればいるほど、その列車の利用率が高いことがわかります。顧客から人気のある列車は常に満載に近い状態で走るので、積載枠(旅客列車でいえば座席)が取りにくいといわれています。

 逆に供給量が過剰だったり、列車の走行する時間帯が不適切だったりすると、積載枠が埋まっていない状態になります。コキ車の上にはコンテナの姿はなく、ただの「板っぺら」だけが虚しく走る状態になるのです。

 この頃から、国鉄時代からの列車の運行体制を大幅に見直し、顧客に人気のない列車、言い換えればコンテナの積載率が悪い列車の運行をやめました。そのため、列車の運行本数は減らされたものの、輸送率はかえって上昇したといいます。

 さらに、空コン回送も大幅に減らしました。

 空コンとは、「空のコンテナ」のことです。

 コンテナの強みは、貨物を載せて目的地の駅に到着すると、顧客の指定先まで運ぶことができることです。そして、その帰りのコンテナは空になるので、その駅から新たな貨物を載せて、次の目的地まで運ぶことができるというもので、載せるものさえあれば次々と行先を変えて運用できることにあります。

 しかし、時には「空コン返却」と呼ばれる、何も載せていない空のコンテナを輸送することがありました。一見すると輸送量が多く見えるものですが、そもそも、何も積んでいないコンテナだけを運ぶのは効率が悪く、なによりコストだけがかかっていて収入がありません。私有コンテナであれば、そうしたこともやむを得ないことですが、JR貨物自身が保有するコンテナでは、無積載での輸送はコンテナのメリットを活かしきれていないといえます。

 こうした無駄を解消するため、JR貨物は2010年代に入る頃から営業に力を入れるようになりました。

 

《次回へつづく》

 

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