特急「信州」とは
我が故郷である長野県では今年の4~6月に、長野市の善光寺では7年に1度の御開帳、そして諏訪地域にある4つの諏訪大社では本来6年に1度の開催であったが、コロナ禍で1年延期となった御柱祭が行われた。
そんな2つの大きな祭りの開催地を結ぶために、通常では直通の特急が走ることのない茅野~長野間を結ぶのが、今回乗車した臨時特急「信州」である。
この特急の特筆すべき点は、前述した運行経路のみならず、その他に使用車両や停車駅などにも見られる。
使用車両
特急「信州」で使用されている車両は、普段は主に特急「あずさ」「かいじ」等で中央本線を中心に運行されているE353系であるが、前述した定期運行の特急で必ず使用されている基本編成9両ではなく、あくまで元々の運行目的が余剰した付属編成の一時的な使い道としてということや、長野県内で完結するので運行距離も短いということもあり、付属編成3両のみが使用されている。付属編成のみの運行は、定期運行では特急「富士回遊」(富士急線内に限定)以外に無く、長野県内で見られるのは極めて珍しい。
そして何よりも、このE353系が定期運行では決して走行することのない、松本~長野間にも乗り入れることが珍しく、この区間だけでもこの列車に乗車する価値が十分にあるだろう。
停車駅
次にこの列車の停車駅であるが、筆者が乗車した特急「信州」3号の停車駅は、茅野を出発すると、上諏訪、下諏訪、岡谷、塩尻、松本、明科、姨捨、篠ノ井、終点長野の順番である。ちなみに特急「信州」は上下合わせて4本運行されており、そのうちの2、3号は前述した停車駅である(2号は長野発)が、残りの1、4号は明科、姨捨を通過する。
特に筆者が乗車した3号と逆方向の2号は、ただでさえE353系が松本以北に乗り入れることが珍しいのに、停車駅の中に普段はこの区間を運行する特急「しなの」が全列車通過する”姨捨“が含まれており、特急がこの駅に停車すること自体がより珍しい。しかもこの駅は今では貴重な存在となったスイッチバック駅であり、長野方面のこの列車は駅を発車後に一旦バックするというかなり変わった体験を味わうことが出来た。
この列車には前述した車両や停車駅以外にもいくつか変わった点が見られる。例えば、この列車は一応“特急”を名乗っているにも関わらず、途中の松本駅で11分間停車し、その合間に普通列車を1本先行させるほか、前述した姨捨駅では24分間も停車し、上下合わせて何本かの列車と待避を行うということもあり、所要時間が松本~長野間だけで1時間42分と、この区間を走行する普通列車以上にかかっている。余談ではあるが、実際に乗車した際に何となくスピードが特急にしては少しゆっくりであると感じ、そういったことも所要時間の長さに関係しているだろう。
これはあくまで推測になるのだが、特に前述した姨捨駅は「日本三大車窓」の一つでもある沿線屈指の絶景駅であり、あえてそこにやや長めの停車時間を設け、駅ホームからの絶景を眺めたり撮影したりすることが出来るようにしているのだと思われる。こういった観光要素もこの列車には含まれており、そういった点も乗客目線ではとてもありがたい。
また、この列車は臨時列車かつ特殊なルートを走行するということもあり、停車駅の案内時に普段使用される自動放送の代わりに車掌によるアナウンスが行われた。但し、車内の案内表示はこの列車の運行に合わせた独自のものが見られた。例えば、列車名である「信州」や、普段乗り入れていない松本から先の停車駅である「明科」、「姨捨」、「篠ノ井」、「長野」などがある。
乗車中の特別なイベント
この列車は善光寺の御開帳と諏訪大社の御柱祭に合わせて運行された臨時列車ということもあり、乗車中の車内や途中駅でささやかなイベントが行われた。
まず、この列車が停車する各駅では、横断幕等を掲げたJR東日本の駅員たちによるお見送りが行われた。ちなみに24分間も停車する姨捨駅では、駅員のみならず、長野県を代表するゆるキャラである“アルクマ”も来ており、実際に記念撮影を行うことも出来た。
また、車内ではアテンダントさんからこの列車や観光案内などのパンフレットが入ったビニール袋を頂き、その中には応募ハガキのついた長野県内の駅名クロスワードもあったので、乗車中に挑戦してみた。それ以外にも、茅野駅発車時などに車掌さんによる沿線の観光案内のアナウンスがあった。
最後に
特急「信州」に今回乗車してみて、普段は中央線特急として使用されているE353系という何の変哲もない至って普通の特急車両を祭事に合わせて運行経路・ダイヤや車両編成などに一工夫するだけで、これだけ珍要素かつ観光要素を含んだ、乗っていてとてもワクワクする列車になることを改めて実感した。また、筆者の出身地でもある長野県へは久々の訪問だったこともあり、かつてよく見ていた風景を眺めて懐かしさも感じつつも、同じ路線でも普段とは少し違う列車に乗ったことや、イベントによる少し特別なムードを感じたこともあり、長野県の今までとは少し違う楽しみ方を味わうことが出来た。
(著:今井 俊輔)