近鉄の運賃値上げ問題に関する提案 | 京阪大津線の復興研究所

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大津線とは、京阪の京津線と石山坂本線の総称です。
この大津線の活性化策を考えることが当ブログの目的です。
そのために、京阪線や他社の例も積極的に取り上げます。

近鉄が鉄道線全線の運賃改定を国土交通省に申請しました。認可されれば、2023(令和)5年4月1日から平均で普通運賃が17.0%、通勤定期が18.3%、通学定期が9.2%上昇します。

 

3kmまでの初乗り運賃は160円から180円、1km未満繰り上げで33kmとなる大阪難波~近鉄奈良間は570円から680円へ値上げされます。特急料金をはじめとする付加サービスの対価に変更はありません。

 

阪急と阪神も同日から値上げを予定していますが、これらは鉄道駅バリアフリー料金制度に基づくものであり、普通運賃の加算額は10円です。33kmである阪急の大阪梅田~神戸三宮間と、阪神の大阪梅田~元町間は加算後でも330円に留まります。


近鉄の阪奈間の申請運賃は、同じ距離帯の阪急・阪神の2倍を超えています。これはいくらなんでも格差が過ぎるのではないでしょうか。


奈良線は近鉄発祥の路線であると同時に、社内で最大の輸送密度を誇ります。現在の正式な区分では布施~近鉄奈良間のみが奈良線であり、大阪難波~大阪上本町間は難波線、大阪上本町~布施間は大阪線に所属しますが、実際の運転系統からすれば大阪難波~近鉄奈良の全区間を奈良線とみなして差し支えありません。


この場合、奈良線の輸送量は阪急の神戸本線や阪神の本線に見劣りしません。独立した会社ならば、運賃を阪急・阪神と同水準に抑えることも不可能ではないでしょうが、長年の拡張戦略が仇となっています。
 

もともと、近鉄の運賃は遠距離逓減(ていげん)の傾向が強いのが特徴ですが、申請運賃が認められればこれが一層顕著になります。競争相手であるJR東海・西日本と比べると、80kmまでは概ね近鉄のほうが高くなり、完全に逆転するのは81km以上となります。これは逆であって然るべきではないでしょうか。


近鉄の通勤通学圏は、大阪難波起点79.9kmの青山町、近鉄名古屋起点78.8kmの伊勢中川、近鉄四日市起点72.1kmの五十鈴川、津起点78.3kmの賢島がおのおの区切りの目安となります。いずれも80km以内です。


近鉄の輸送密度の低さが広大な路線網に起因する以上、本来は長距離区間の値上げ幅を大きくするべきであり、その負担を日常利用の中近距離客に求めるのは筋が違います。そこで、折衷案として80km以内の普通運賃を据え置き、81km以上の値上げに主眼を置くことを提言します。

 

81km以上を運賃区分に従って160円ずつ値上げした場合、91km以上の区間で申請運賃と折衷案が逆転します。最長区間である241~250kmでは3,690円から4,200円に上がりますが、それでもJR東海・西日本の4,510円よりは安くつきます。


最も競争力が必要な名阪間(181~190km)は2,860円から3,240円へと380円高くなりますが、速達版名阪甲特急「ひのとり」のレギュラー車両の特別車両料金(名阪間は200円)を廃止し、名阪乙特急「アーバンライナー」のレギュラー車両と同額の1,930円に引き下げれば、折衷案の運賃との合計額は5,170円に収まります。

 

新幹線の名阪間は自由席利用でも5,940円なので、価格面での優位は動きません。JR東海ツアーズが販売するツアー切符「ぷらっとこだま」の4,600円には及びませんが、これは何かと制約の多い商品なので、そこまで過敏になる必要はないでしょう。

 

それに、近鉄にも名阪間を10回分の運賃で14回利用できる「名阪ビジネス回数きっぷ」があります。有効期間は発売日から3ヶ月に限られますが、バラして使うこともできます。折衷案の運賃を当てはめれば1回あたり2,314円、特急料金との合計は4,244円で「ぷらっとこだま」より安くなります。


また、「ひのとり」のプレミアム車両に折衷案の運賃を適用すると6,070円になりますが、新幹線の自由席より130円高くなるだけです。この値段でグリーン車よりもランクの高いグランクラスと同等の車両に乗れるのですから、お得感はむしろレギュラー車両以上です。プレミアム車両はコロナ禍の2020年上半期でも約7割の乗車率を維持しているので、ここはもっと強気に出るべきと考えます。


なお、「ひのとり」は阪奈特急の一部にも充当されます。その場合のプレミアム車両の特別車両料金は300円ですが、これを撤廃してレギュラー車両ともども他の特急車と同額にすべきです。近鉄の屋台骨を支える奈良線の利用客に少しくらい還元しても罰は当たらないはずです。
 

最後に定期運賃ですが、これは申請通りの値上げで良いでしょう。前述の通勤通学圏云々とは矛盾するようですが、通勤定期の場合は大多数の職場が従業員に通勤手当を支給しているので、利用者の負担には直結しません。

 

さらに、その大部分が集中する朝ラッシュ時の輸送力を確保するための設備投資が鉄道会社を圧迫し、かつ通勤客に身体的な苦痛を強いてきた歴史があります。これは通勤手当支給の反面で、定期運賃が安く抑えられてきたことに起因するものです。

 

海外では「ピークロードプライシング」と称して、逆に通勤時間帯の運賃を高くする例もあるほどです。一気にそこまで行うのは現実的でないですが、通勤定期を値上げすることには一定の社会的意義があります。
 

一方、通学定期の値上げは家計を直撃します。現状では近鉄も大手私鉄の例に漏れず、約8割引と破格の安さですが、本来それを値引きする義務は鉄道会社にはありません。

 

ただ単に経営的に余裕があったからサービスで行っていただけのことであり、本来は行政が担う福祉政策の領域です。その余裕が失われた以上、地元の地方自治体が差額を負担するのが筋です。

 

今回の近鉄の値上げ問題に対しては奈良県知事が猛反発していますが、80km以内の普通運賃が据え置れるならば、見返りとして県と市町村が通学定期運賃の一部を補助しても良いのではないでしょうか。

 

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