旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

日光・鬼怒川路を駆け抜けた6050系 『リユース』の先駆けとなった更新車【2】

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《前回の続きから》

 

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 一方では鬼怒川線から新たに開業する野岩鉄道、さらには会津鉄道への直通運転が計画されていました。特に野岩鉄道奥鬼怒川から会津までを結ぶ路線であるため、多くの長大トンネルが存在することになっていました。6000系でも対応が可能とされましたが、冷房化は避けることができず、同時に6000系自体も製造から20年が経っていたこと、直通運転に際してイメージアップを図る必要がありました。

 そこで、東武6000系を「更新」する形で6050系を登場させたのでした。

 「更新」という形を採ったのは、それなりに理由がありました。

 新しい車両を導入する場合、国鉄では新製がほとんどでした。しかし、資金に限りのある私鉄では、すべてを新製することがない場合もあります。確かに6000系は製造から20年が経って、車両の老朽化・陳腐化は否めません。とはいえ、すべてを廃棄することは簡単ですが、使えなくもない「リユース」が可能な機器も多くあったのです。

 そのことに目をつけた東武は、車体などは新製しましたが、リユース可能な機器類については6000系から6050系に移植しました。そうすることで、全くの新製よりも製作コストを下げ、同時に機器類は従来から同じであることから、検修に携わる社員の教育も軽減させることを可能にしました。更新によって変わった部分だけを新たに学べばよいので、検修社員の負担も軽減できるのです。

 6050系では主電動機などの電装品や台車は6000系からそのまま受け継ぎました。そのため、1980年代に多くの私鉄で採用され始めていたチョッパ制御ではなく、抵抗制御が受け継がれました。もっとも、主制御器は新製されたものでしたが、主抵抗器を引き継いだため抵抗制御が採用されたのです。

 台車も6000系から受け継いだ鋳鋼製ミンデンドイツ式軸箱支持装置のFS357(動力台車)とFS057(付随台車)が装着されました。この台車は枕ばねにベローズ式空気ばねを採用していたため、乗り心地の面では国鉄が多用したコイルばねと比べると、格段の違いがありました。空気ばねを採用していたことが、車両更新後も乗り心地を確保したまま再使用を可能にしたのです。

 新製された車体は、片側2ドアの両開き扉になりました。6000系では片開き扉でしたが、両開き扉になったことで扉幅を拡大させ、混雑時の乗降をスムーズにすることを可能にしました。

 客室窓も6000系では上段上昇下段下降の2枚窓であったのに対し、6050系では下降式1枚窓となりました。窓面積も拡大したので、客室も明るいものになりました。

 前面デザインも大幅に変わりました。

 6000系では丸みを帯びた印象でした。通勤形の8000系と同じく高運転台構造でしたが、前面窓上には行先・種別表示幕を設置、前部標識灯と後部標識灯は1つのケースに収められ、前面窓下に設置されていました。

 

2扉セミクロスシートと、国鉄でいえば「急行形」に相当する車体レイアウトをもちながら、客用扉は1,300mm両開き戸、客室窓も一段下降式とされるなど近代的なものになった。前面デザインも種車となった6000系とは大きく異なる直線的なもので、前面窓は凹み、周囲は黒色のジンガート処理が施されら「額縁スタイル」となった。通過標識灯は貫通扉上に、前部標識灯と後部標識灯は窓下に角型ライトケースに一体化して設置されるなど、種車とは一変したものであった。(クハ62102 下今市駅 2019年12月28日 筆者撮影)

 

 6050系では一変して、角張った印象を持つデザインに変わりました。前面窓は大型ガラスを用い、窓まわりを凹ませたいわゆる「額縁スタイル」とし、6000系と比べて若干大型になった行先・種別表示幕は窓上に設置されました。前部標識灯と後部標識灯は角型になって一体ケースに収められ、6000系では縦配列だったのに対し6050系では横配列とされます。このデザインは、後に8000系更新車にも採用されるなど、後の東武標準スタイルとなっていきました。

 車内設備も大幅に改善されました。

 ボックスシートは背もたれが拡大されるとともに、シートピッチは6000系の1,480mmから1,525mmに拡大されたことで、座り心地が改善されました。また、窓側には折畳式テーブルが設置されるなど、長距離を乗車する乗客の居住性も改善されました。

 6000系ではトイレがいわゆる「垂れ流し式」でしたが、6050系では汚物循環装置を備えました。これは、旧来のトイレは走行中に発生する風圧によって汚物を「飛散」させて処理していましたが、黄害が問題になったことからこれを解消するために設置されたのです。黄害は衛生面で非常に問題で、特に保線や電気に携わる職員にとっては「大敵」で、列車が通過する時には線路から相当な距離を空けなければ、走行中に用便をした乗客の汚物をまともに浴びることもしばしばあったそうです。また、沿線住民からの苦情も絶えなくなり、乗客サービスと沿線住民、そして線路で作業する職員などへの配慮から、こうした設備は欠かすことのできないものとなりました。更新によって汚物循環装置を設置したことは、衛生面での改善に繋がっていきます。

 6050系への更新で、最も重要な課題となっていた冷房装置は、当初から設置されていました。冷房能力10500kcal/hをもつRPU-3002JA集約分散冷房装置を3基搭載し、さらに乗務員室用として2,250kcal/hのRPU-0751を1基搭載していました。車両全体では31,500kcla/h+2,250kcal/hと低めに見られますが、そもそもが長距離速達列車で運用することが前提であり、停車駅数が少ないことと2ドア車であることから、必要十分であると考えられます。

 6050系とほぼ同じ目的で製作されたとも考えられる国鉄急行形電車では、集電装置を装備したモハ164などでは、AU72集中冷房装置を搭載していました。冷房能力は33,000kcal.hであったことを考えると、6050系のほうが若干能力が低く、もしかすると不足気味にも見えますが、今日ほど夏場の気温も高くなかった製作当時としては、これでも十分だったのかもしれません。

 この冷房装置を搭載したため、集電装置も6000系では一般的な菱型でしたが、屋根上野スペースを確保するために下枠交差式のPT4815を1基、モハ6150に搭載していました。後にローカル運用に転用されるようになると、霜取り用として一部の車両にPT4801を1基増設しました。

 このように、6000系とは接客設備の面では大幅に変わり、車体そのものは新製されたため、更新車と言われるとなかなかピンとこないものがありました。それだけ、6050系は非常に完成度の高い車両だったということができると思います。

 

《次回へつづく》

 

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