JR東日本は28日、平均通過人員(輸送密度)が2,000未満の路線について、収支を公表しました。今回はこれについて分析します。

ご利用の少ない線区の経営情報を開示します (jreast.co.jp)

 

 同じ路線でも、区間によって利用状況が大きく異なる路線もあるため、そうした路線は何区間に分けて収支が公表されており、35路線66区間が対象となっています。

 ここでは、「収支率・営業係数」「赤字額」「輸送密度」の3側面から検証し、最後にそれら3つを合わせて分析したいと思います。

 

(1)収支率・営業係数

 公表された66区間の収支率をワースト順にランキングにすると、以下の通りとなります。

   

 驚くべきは、東京近郊に位置する久留里線の久留里~上総亀山間が、ワーストトップクラスということでしょう。このほかにも、花輪線・陸羽東線・磐越西線・飯山線などの数値が極端に悪く、2020年においては収支率1%未満、営業係数が5桁に達してしまっています。

 また、2020年は全区間において収支率が悪化しており、66区間中64区間が収支率10%未満となっています。東京から比較的近く、特急も走っている外房線ですら収支率が7%というところにも、厳しい現実を感じさせられます。

 

(2)赤字額

 次に、各区間の赤字額についてランキングにしてみます。

 奥羽本線・羽越本線の赤字額の大きさでしょう。日本海側の都市をつなぎ、特急や貨物列車も通る区間で赤字額が大きくなっています。

 こうしてみると、収支率の低さと赤字額の大きさは比例していないことが分かります。利用が極端に少ない路線は、本数も少なく、設備投資や営業投資も最低限にしていることが多いからと思われます。一方、特急や貨物が走るような区間は、それ相応の設備投資や維持費用もかかり、赤字額は大きくなるという現象が起こります。

 これは西日本や四国でも見られた現象です。こうした区間は赤字額が大きくてもおいそれと廃止にするわけにいかない区間ばかりなので、どのような維持をしていくか、非常に難しいところです。

 なお、このランク付けの仕方だと、距離が長い区間が不利になる傾向が出るので、1km当たりの赤字額についてもランキングにしておきたいと思います。

 kmあたりの赤字額でみても、津軽線や奥羽本線の赤字額の大きさが目立ちます。また、外房線のkmあたり赤字額が大きいのが特徴で、特急列車が走っているから収支がよいわけではない、むしろ赤字額が大きくなってしまうこともあることを示唆しています。

(3)輸送密度

 最後に、輸送密度をみてみましょう。こちらは1987年、2019年、2020年のワーストランキングです。

 1987年を見ると、津軽線の青森~中小国が突出して多くなっています。これは、本州と北海道を結ぶ特急列車等が走っていたためで、その特急列車等に乗っていた人が全員カウントされているためです。現在は北海道新幹線開業により、本州-北海道間の連絡という役割を失ったため、輸送密度が大幅に減少しています。

 データを見ると、1987(昭和62)年時点で、66区間中半数以上の38区間が既に輸送密度2,000を下回ってしまっています。利用者が少ないという問題は、ここ数年で始まったわけではないのです。

 しかし、総じてみると、コロナ渦前の2019年でさえ、1987年とは比較にならないほど落ち込んでしまっています。2019年では66区間中48区間が、2020年では54区間が、輸送密度1,000を下回っている状況です。高速道路の開通に伴うマイカーや高速バスの台頭、人口減少などが要因と考えられます。

 

(4)総合

 最後に、「営業係数」「kmあたり赤字額」「輸送密度」のワースト順位をまとめた一覧表を示します。3つの順位の合計も示しており、その合計値のワーストランキングを示しています。

 営業係数が高い・輸送密度の少ない区間が、比較的上位に占めていることがわかります。一方で、赤字額のワーストは営業係数や輸送密度に比例していないこともうかがえます。

 やはり、久留里線(久留里~上総亀山)がワーストトップクラスに位置していることが衝撃的です。房総ローカルについては、別立てて特集する予定ですが、このままでは久留里線は存廃問題がかなり深刻になること必至です。

 

〇まとめ

 いかがでしたでしょうか。厳しい数字が飛び出してくることは予想していたものの、正直私の予想をはるかに上回る厳しさでした。房総ローカルについても3路線4区間が該当し、そのどれもが厳しい数値を示していました。

 国交省が実施した鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会では、輸送密度1,000未満の路線については特定線区再構築協議会(仮称)を設けて、存廃や今後の在り方について協議する仕組みを導入するよう、提言がなされました。輸送密度2,000未満の路線についても、法定協議会などでモビリティの在り方を協議するよう提言がなされています。

 利用者が少ない鉄道路線をどうしていくのか、存続にしろ、廃止にしろ、いかに地域住民が利用しやすい交通を作るのか。今回の収支公表は、そのことを考えるための材料となるので、このデータをよく咀嚼して、方策を考えることが今後求められます。

 もはや住民、事業者、自治体で不毛な争いをしている猶予はありません。こうしたデータを活用し、本気で膝をついて話し合い、持続可能な交通づくりに地道に取り組むほかないのです。