その4(№5868.)から続く

今回と次回は、ホームドアの進化について取り上げます。今回は「扉の透明化、筐体へのサイネージ仕込み」などについて。

平成12(2000)年に所謂「交通バリアフリー法」が施行され、新規開業路線にはホームドア(可動式ホーム柵)の設置が義務付けられ、既存路線に関しても設置が努力目標とされました。この年以降に開業した路線では、各駅にホームドアが設置されています。普通鉄道に限っても、平成16(2004)年開業の「あおなみ線」、翌平成17(2005)年に開業した首都圏新都市鉄道(つくばエクスプレス・TX)、さらにその3年後の平成20(2008)年に開業した東京メトロ副都心線・大阪市交通局(現大阪メトロ)今里筋線などが該当します。ただし、これらの路線は、ほとんどがフルハイトタイプのホームドアではなく(あおなみ線金城ふ頭駅と名鉄空港線の中部国際空港駅ミュースカイ乗場を除く)、簡易な可動式ホーム柵となっています。その理由は以前言及したとおり、可動式ホーム柵はホーム上に筐体を据え付けるだけで事足りるので、フルハイトタイプのホームドアよりも設置が容易であることと、設置費用が抑えられることです。勿論、可動式ホーム柵では転落事故や触車事故は防げても飛び込みは防げませんから、その意味では限界があることは確かですが、それでもそのような衝動的な飛び込みを「思いとどまらせる」効果があることから、たとえ可動式ホーム柵であっても、既存路線ではこれの設置により、飛び込みが激減したということです。

【扉の透明化】
もっとも、ホームドアにもデメリット、限界があることは事実。
そのいくつかあるデメリットの中には、「ホームに壁が聳え立ってしまって、ホームが狭苦しく感じられ、ホーム上で列車を待つ乗客が圧迫感や閉塞感を覚える」というものもあります。これはフルハイトタイプのホームドアばかりではなく、可動式ホーム柵でも同じこと。特に地下鉄路線、中でも車両サイズの小さい路線や駅の天井が低い路線について顕著で(東京メトロ銀座線や都営地下鉄大江戸線など)、ホームドアの存在による圧迫感・閉塞感の軽減は、ホームドア普及に向けての課題となりました。
そこで、東京メトロや東急(目黒線以外)などでは、ホームドアの開口部を透明化した筐体を設置し、これらの軽減に努めています。そしてこの透明部分がガラスではないとすれば、一枚の金属板よりも軽量化することが可能となりますので、筐体の軽量化にも寄与することになります。
そのような考え方に基づき、現在のホームドア、特にホームゲートの場合、扉の部分を透明化したものが主流となっています。
最近は、扉の部分ばかりではなく、筐体部分までをも透明化したものが出現しており、これは東京メトロの銀座線や日比谷線などに設置されるようになりました。

【筐体の軽量化】
既存路線へのホームドアの普及に向けた一番の課題といえるのが「筐体の軽量化」。
新規開業路線であれば、フルハイトタイプのホームドアであれ可動式ホーム柵であれ、筐体の設置を見込んで駅を設計しますので問題はないのですが、問題は既存路線。というのは、既存路線の場合、駅ホームが戦前などの古い時期に作られたものであったり、昭和の高度経済成長期の輸送力増強の必要から簡素に作られたものであったりという要因から、既存のホームが筐体の重量に耐えられない駅が多くあることが判明したからです。このような駅にホームドアを設置しようとすると、筐体の重量を支えることができるよう、ホームに補強工事を施す必要が生じますが、その費用は驚くなかれ、1駅当たり数億円! これでは一民間企業の設備投資としては規模が大きすぎることから、その費用の軽減のためにも、軽量化は喫緊の課題とされました。
筐体の軽量化は、①筐体そのものを軽量化することと、②筐体の構成を簡易化して重量を減らすこととの、2つの方向に分かれます。
筐体そのものの軽量化(①)としては、前項で言及した透明部分を増やすことなどがありますが、より徹底した軽量化として、筐体の構成を簡易化することが挙げられます(②)。この事例に該当するのが、JR東日本が亀戸駅や蕨駅などで設置している「スマートホームドア」。これは、扉部分を板ではなく金属の棒で構成し、筐体部分の構成を大幅に簡易化したもので、これによって通常型の可動式ホーム柵に比べて大幅な軽量化が可能となっています。ただしこの「スマートホームドア」は、扉部分の下部に空間があるため、異物の落下の危険や小さい子供のすり抜けをゼロにできないという限界があり(扉が板ではなく棒なので、格闘技のリングの要領で棒をすり抜ける危険は残る)、その限りでホーム上の安全性は、本来の可動式ホーム柵に比べれば一歩譲ると言わざるを得ません。それでも、簡易な構造でホーム構造物の補強の必要がなくなることから、安価に設置を進めたい事業者には、有益なシステムであるといえます。
「スマートホームドア」の他に、「扉であること自体を放棄」してさらに構造を簡素化、そしてそれによって徹底的な筐体の軽量化を志向したものとして、「ロープ式ホームドア」もあります。これは、格闘技のリングにあるようなロープが昇降してホーム上の安全を確保するものですが、このシステムは扉の開閉を前提とするホームドアのシステムとは異質であることから、別の項目で取り上げることにいたします。

【筐体へのサイネージ仕込み】
最近のIT技術の発展により、注目されているのが「デジタルサイネージ」。これは、ディスプレイを設置してそこで動画を流すもので、静止画のポスターや中吊り広告とは比べ物にならないレベルの多くの情報を瞬時に流すことができ、広告宣伝効果は絶大とされます。
デジタルサイネージは駅の柱や車内などに設置されることが多いものですが、これをホームドアの筐体に仕込み、広告宣伝に活用する事例が見られるようになりました。勿論、広告宣伝だけではなく、例えば現在時刻や列車の運行状況など、乗客に対する案内表示をリアルタイムで行うことも可能となります。現に東京メトロ東西線九段下駅などでは、そのような案内表示を、ホームドアの筐体に設置したデジタルサイネージを使って流していたことがあります。
ホームドアの筐体にデジタルサイネージを仕込めば、そこに広告を出稿してもらって広告費を徴収することが可能となります。これは鉄道事業者の広告戦略として極めて有効であることから、近年採用する事業者が増えつつあるようです(東急田園都市線渋谷駅など)。
もしかしたら今後は、ホームドアの筐体の設置費用を負担することを前提に、一つの企業が独占して広告を流すような事例も出現するかもしれません。もうあるのかもしれませんが。

次回は今回の続編として、「ワイドドア車への対応」を取り上げます。

その6(№5883.)へ続く