日本語学校に限らないが、コロナによりオンライン授業が一般化した。突然の変化に戸惑いが広がったが、それも2年経つと蓄積も出てくる。まさにそれをテーマにした日本学生支援機構が主催する講演会(正確には研究協議会というのだそうだが)を聴いた(オンライン講演会だったが、けんじいは都合が悪く、最近U-Tubeにアップされたものを聴いた)。
講演者は、鈴木克明熊本大学教授と藤本かおる武蔵野大学准教授。どこの日本語学校でも従来の対面授業ができなくなり、オンライン授業または対面とのハイブリッド授業が普通になった。だからいちいち実感を持って聴くことができた。以下記憶のためにメモる。
(1)考えてみれば、似たような授業形態はこれまでもあった。例えば時々登校する通信制の学校、テレビやラジオを聴いたりD V Dなどのオンデマンド教育、そして今のオンライン授業である。だから今回のオンライン授業が全く初めてのことというわけでもなく、それらの授業での経験を活かすことができるはずだ。
(2)オンライン授業の1番の問題は「学習者のオートノミー」(自律性)をどう確保するかである。教室に入れば強制的に授業を受けるので、自律性が欠けている学生でも少なくともその時間は学習するが、オンライン授業では、そうはいかない。学生に対して「コロナかで何が起きたか」という質問をすると、「学生の自律性の差で学習の成果に格差が生じた」という答えが多かった。学生自身がそう感じているのである。
(3)そのためには、諦めていく学生のモチベーションをどうやって高めるかである。それに対する理論の1つが「交流距離理論」で、マイケルムーアという先生が提示した。地理的(オンラインは遠隔地)でなく心理的な距離を短くする工夫が必要というもの。
横軸に構造、縦軸に対話(の量)を描く。構造とは目標や課題がはっきりしている程度、対話は文字通り、説明、励まし、フィードバックなどを通じた対話の量である。それも面談といった形式的になりがちなものよりは、ちょっとした声かけが大事だが、オンラインではしにくくなっているのが問題である。(そういえばけんじいも担任の時は、面談はあまりしないで休み時間にいろいろ話しかけて情報を取り込んでいた。)
一方、徐々に足場を外していき、自分たちでやっていけるように持っていくことも大事である。(確かに楽器のおけいこごとも、先生に技法を学ぶことは少ない。大抵は遅れないように自宅で練習する義務感もあって自律的に練習するから上達するのだと実感している。)
(4)自律性を高めるためのARCS理論(フロリダ州立大のケラー教授)も紹介された。やる気を引き出すための4つのポイントは、①注意(attention)おもしろく、②関連性(relevance)やりがいあり、③自信(confidence)やればできそう、④満足感(satisfication)やってよかった、である。具体的な手法は別途提示されていた。見たい人は当該ページを検索してください。
(5)長期的に見て、今回のコロナ禍は教育にもあらゆる意味で歴史的転換をもたらした。例えば、①オンライン留学の一般化で留学がままならない学生にも文化体験できるようになった、②コロナが収まったとしてももはや元に戻るわけではなく、ICT(情報通信技術)を活用できることが教師の義務になった。早くから独自の教育のデジタル化に取り組んでいるカイ日本語スクールの事例に言及した。
そうか、これからはけんじいのようなデジタル弱者世代は消えゆくのみかといささか寂しい気分になったところへ、学校からメールが来た。「来学期からは全面教室授業に戻ります。」