札幌~福岡間を毎日快走20年 国内最長距離のJR貨物列車

札幌貨物ターミナルから福岡貨物ターミナルに向かう国内最長距離のJR貨物列車

  

北海道管内の貨物列車はDF200形電気式ディーゼル機関車で牽引。

 「日本で最も長い距離を走る列車は」と問えば、東京や大阪と北海道を結ぶ寝台列車を思い浮かべるかも知れない。だが、答えは「札幌と福岡を結ぶコンテナ専用列車」だ。定期列車になって20年。地味な存在だが、季節の農産物など生活を支える品を毎日せっせと運んでいる。


 札幌―福岡間の走行距離は2132キロ。旅客列車で最長の寝台特急「トワイライトエクスプレス」(大阪―札幌現在廃止)の約1500キロより、はるかに長い。1959年 に国内でコンテナ専用列車が走り始めて50年たつが、この路線は青函トンネルの開通後に運行を始め、90年に定期列車に格上げされた。

札幌~福岡まで走行距離は2132キロの路線図


 長い旅の始まりは札幌貨物ターミナル駅だ。毎日午後9時50分、コンテナを積んだ20両の貨車が機関車にひかれて動き出す

青函トンネルを含む海峡線で貨物列車を牽引しているEH800形・電気機関車

日本海沿いの、交流・直流区間路線の貨物列車を牽引するEF510形交直両用電気機関車「レッドサンダー」

 

秋田、新潟と日本海沿いを南下。大阪から神戸に入って山陽線を通り、福岡貨物ターミナル駅に は翌々日の午前10時57分に到着する。

直流区間の山陽本線で貨物列車を牽引する、EF210形直流電気機関車「桃太郎」

 

  福岡と札幌を結ぶ“最長距離列車”のルートや所要時間は?

「南行き(札幌発福岡行き)と北行き(福岡発札幌行き)があり、走行距離は湖西線経由の南行きが約2140km、米原経由の北行きが約2137kmと異なります。北海道にもルートが異なる箇所があるため、所要時間は南行き36時間53分、北行き43時間18分です」

 

 この間、37時間07分。最高時速は95キロ。本州では貨物を積み下ろしせず、ひたすら突っ走る。福岡発のルートは所々で積み下ろしがあるため、43時間20分だ。これでも船や車より速い。飛行機を除けば札幌―福岡間の最短の貨物輸送手段となる。乗務員だけは途中で交代して16人がリレーしていく。

 

 片道43時間もかかる運行で乗務員の交代はどのように行われているのか?。

 南行き、北行きのいずれも東室蘭操車場、五稜郭、東青森、秋田貨物、酒田、南長岡、富山貨物、敦賀、吹田貨物ターミナル、岡山貨物ターミナル、広島貨物ターミナル、幡生操車場、北九州貨物ターミナルで交代を行っています。

 

 JR貨物が義務付けている1人あたりの連続乗務距離の上限は220kmです。広島貨物ターミナル~幡生操車場間の222.3kmが唯一の例外区間で、その他の区間は220km以下です。連続乗務時間の上限については、深夜帯(22時~午前5時)を2時間以上含む場合は4.5時間、日中は6時間までです。

信号確認の際に「第一閉塞(へいそく)進行、第一場内進行!」指差喚呼

乗務員の体調管理などは?

 急な体調不良などで運転を見合わせることのないように、事前の食事や飲料水摂取に注意を呼び掛けているほか、乗務10時間前から飲酒を禁止しています。乗務が始まる前から仕事は始まっているのです。体調管理に関して、禁酒以外に特別なルールはありませんが、居眠り運転などの対策として、乗務員が1分間動作をしなかった場合にエマージェンシーブレーキ(EB)が作動します。つまり、運転室内に警告音が鳴って5秒以内に確認しないと、非常ブレーキが作動する仕組みです。

 

 乗務員の方が運転の途中、トイレなどで降車したくなった場合はどうするのか?また深夜乗務で眠くなった時はどう対処するのか。

車内で待っているのが原則ですが、どうしてもトイレに行きたい場合は運転キーを外し、機関車が勝手に動くことがないようにした上で、運転指令の許可が出れば可能です。眠気対策としては喫煙も可能ですし、運転席にドリンクホルダーも設置しているので、TPOをわきまえて各自で行ってもらっています。駅などに停車中は運転指令の許可があれば車外に出ることもできます。信号確認の際に『第一閉塞(へいそく)進行、第一場内進行!』などと、手と口を能動的に動かすことも眠気対策になります。このように乗務員さんのご苦労で運行される長距離列車です。

本州と九州を繋ぐ関門トンネル用貨物列車を牽引する、三電源方式のEH500形電気機関車「金太郎」

 

 札幌発の主な貨物は、タマネギやジャガイモなど北海道を代表する野菜。最近は味とお手ごろ価格で人気の道産米も増えてきた。貨物量のピークは収穫の秋で、貨物列車としては異例の「満席」になることもある。福岡発はこれらの農産品を加工した菓子や食品が中心だという。

 スピードが売りものだけに、生鮮食品など日持ちのしない貨物も多い。昨年度の平均積載率は81.6%と高く、JR貨物北海道支社は「貨物業界ではとても人気がある列車なんですよ」。荷主の期待を背負って1年365日、今日も休まず走り続ける。

 

by   GIG@NET

 

 

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