君と、A列車で行こう。

鉄道とシミュレーションゲーム「A列車で行こう9」を中心に綴るブログ。当面、東北地方太平洋沿岸の訪問をメインにしています。

全線で運行を再開したアルピコ交通上高地線へ

全線運行再開をアピールする幕が掲げられた田川橋梁と、それを渡る新型車両

先日、長野県松本市で運行されている鉄道、アルピコ交通上高地線を訪ねました。

以前は「松本電鉄」と呼ばれていて、私もその印象が強いのですが、長野県のバス事業者であるアルピコ交通へ移管され、その鉄道部門という形になっています。

この鉄道を初めて訪ねたのは、3年ほど前の2019年秋でした。この時は、JR東日本の多くのエリアと、JR線に接続する地方鉄道の一部が乗り放題になる「週末パス」を利用して、甲信越方面の鉄道にひたすら乗るという一環で訪ねたので、上高地線についてはほぼ単純に起点と終点を往復するだけになってしまっていました。

a-train.hateblo.jp

とはいえ、これがまるで無駄かといえばそうではなく、特徴的な車両デザインや、登山輸送と日常輸送が同居する鉄道の在り方に興味が湧き、またいつか訪ねたいと思っていたのです。

そういうきっかけを掴む機会として、「とりあえず乗ってみる」ということにも意味があると思っています。

アルピコ交通上高地線について

アルピコ交通上高地線は、「上高地線」といっても上高地まで延びているわけではなく、そのアクセスルートの一部を担っています。

上の図のように、松本駅から西へ進み、山間部に分け入った新島々(しんしましま)駅が終点です。変わった駅名ですが、この地域では集落を「島」と呼んだことから、複数の集落がある=島々、となったようです。

新島々駅と併設されたバスターミナル

新島々駅からは西の上高地乗鞍岳へ向かうバスが発着しており、鉄道との乗り継ぎを前提としてダイヤが組まれています。

沿線は梓川奈良井川沿いの平野部に広がる、田畑も混在する住宅地で、松本大学などの学校も複数あり、行楽輸送と通勤・通学などの日常的な輸送が同居する形になっています。

2021年8月の豪雨災害について

昨年8月の豪雨により、最も松本駅寄りの橋梁である田川橋梁で橋脚が傾き、この橋を含む松本駅~渚駅間で列車の運行ができなくなっていました。

その橋梁が復旧されたため、6月10日に全線での運行を再開しました。

www.alpico.co.jp

冒頭の写真にもありますが、この橋に全線運行再開を告げる幕が掲げられ、それが6月13日までの短い期間だということだったので、この機会に訪ねてみることにしたのでした。

全線運行再開を告げる幕が掲げられた、上高地線の田川橋梁

地方鉄道で、大きな町のターミナルに一番近い橋が被災するというのは、2019年の台風19号で被災した上田電鉄(これも長野県)と同じ構造で、町や鉄道の成り立ちに共通点があるのかな、ということを考えたりします。

田川橋梁を走る列車を撮る(1)

そんなわけで、新宿発の特急あずさ1号で松本駅に着いた後、徒歩10分弱で田川橋梁へ。

午前中は雲が多めの予報でしたが、青空がのぞき、時折日も差したりして、懸念したほど悪い天気ではありませんでした。

全線運行再開の幕は橋の両側に掲げられているので、どちらからでも撮れるのですが、まずは背後の山並みが印象的だった北側から撮りました。

田川橋梁を渡る新島々行き列車

ただ、左上の山のてっぺん付近に暗めの雲がかかってしまったのがちょっと残念。こればかりはどうしようもないのですが。

この車両は、4月から運用が始まったばかりの20100形。鮮やかな青のラインと「ALPICO」の大胆なロゴが目を引きます。

もともとは東武鉄道で運行されていた車両なのですが、確かに端正な雰囲気に東武鉄道らしさがあるものの、デザインを一新することで譲受車であることを感じさせないのはアルピコ交通らしいなと思います。

アルピコ交通20100形の前面(新島々駅で撮影)

この編成の前面には、全線運行再開のヘッドマークがついていました。運転席まわりはブラックフレームですが、下側のデザインは、左奥に見える既存の編成と似た感じですね。

最近、JRで使用されていた「キハ40系」の車両が小湊鐵道北条鉄道で走ったりしていますが、こういったJRや大手私鉄から譲られた車両は、懐かしさを集客につなげるためにそのままの見た目で運行されることが多いのです。

それも一つの方向性だとは思いますが、アルピコ交通の場合は、既存車両も含めて独自のデザインを施して運行していて、自社のオリジナリティを重視するあり方を好ましく思っています。

田川橋梁を渡る3000形電車(松本行き)

こちらは以前から運行されている3000形車両。これも京王電鉄から譲渡されたものですが、確かに窓の配置にそれらしさがあるものの、全体を白に塗装し、カラフルなストライプと「HighLand Rail」のロゴを配することで、譲受車であることを感じさせない仕上がりとなっています。

この2枚目は橋の南側からの撮影です。最初は背後に広く青空が広がっていて爽やかな雰囲気だったのですが、いつのまにか雲が湧き出てきたので、右上の青空の部分を少しでも入れる形に構図を変えて撮影しています。下側だけだと、どんより曇っているように見えてしまいますので。

2枚とも雲の感じが残念だったなと思いつつ、一応は撮れたので移動することにします。

ホーム上に駐輪場。サイクル&ライドの取り組み

田川橋梁の東隣にある西松本駅

実は、田川橋梁のすぐ東側が西松本駅です。ここから電車に乗って移動することにします。

上高地線ではSuicaなどのICカードが使えず、現金精算はめんどうなので1日乗車券を買って移動します。松本駅を出る時に買っておきました。

1日乗車券は1,420円で、松本~新島々間の片道運賃が710円なので、往復利用だけでも損せず使えます。

西松本駅の駅舎

西松本駅駅名標。PRキャラクター「渕東なぎさ」がデザインされた明るい絵柄

駅ホームに設けられた駐輪場

この駅や、乗車中に他の駅でも見かけたのですが、ホーム上に駐輪場が設けられています。

鉄道利用を促進するためにサイクル&ライド(駅まで自転車で、駅から列車を利用する)という取り組みはいろいろと行われていますが、駅前に駐輪場を設けるところは多くても、ホーム上に駐輪場を設けるというのは、列車と自転車の距離を可能な限り近づける、わりと究極の形ではないかと思います。

見る限りでは結構利用されているようですので、施策としては当たっているのかもしれません。

評判の高そうな手打ちそばの店へ

西松本駅から新島々行きの電車に乗って終点へ。

新島々駅駅名標。ホーム上ではなく、駅舎側に掲出されているもの

すでに11時を回っていたので、まずは昼食です。

付近にはいくつか昼食が食べられる場所があるのですが、事前に調べて、評判が高そうだった手打ちそばの店に向かうことにしました。信州ですからね。

手打ちそばと鴨うどんの店「とく兵衛」

上の地図の通り、新島々駅からは街道をまっすぐ歩いて7分ほどです。

この店は信州としては珍しく、うどんとそばの両方を売りにしているようです。もちろん、どの店もだいたいそばもうどんも出すのですが、売りにしているのはどちらか片方で、もう片方は言ってしまえばついでに出しているというケースが多いと思います。

鴨そばといなり2個

今回は「鴨そば」と「いなり2個」を注文。手打ちそばは、素朴さが感じられる食感で、いい意味でのボソボソ感(伝われこのニュアンス)がある麵でした。鴨肉やネギは、いままで食べたよりも大ぶりにカットされていて、それがまた素朴さを引き立てる楽しさがあってよかったです。

味は、スタンダードなのですがとてもおいしくて、表現する言葉を探していたのですが「食べ飽きない」ということになるのかもしれません。

先に書いた通り、この店はうどんとそばの二刀流ということで、うどんとそばをセットにしたメニューもあるようです。そのあたりも気になって、また訪ねてみたいと思っています。

鉄道の俯瞰撮影ができるのかな……と思いきや

上高地線は平野部を走ることもあり、鉄道撮影の一つの定番である俯瞰撮影ができる場所がなかなかありません。

そんな中、Googleマップストリートビューで見ていて、新島々駅の近くに、もしかしたら俯瞰撮影ができそうな場所があったので、踏切を渡り、坂を上って行ってみました。

俯瞰撮影ができるのでは、と行ってみたものの

しかしまあ、列車が走る場所の見当が間違っていて全然話になりませんでした。

まあ、行ってみてダメだったと知るのも経験ですからね。

ひっそりと佇む神社へ

地図で見ると、その行ってみた場所の近くに「上海渡(かみがいと)稲荷神社」という神社があるようなのですが、行きに横を通った限りではまったく気づきませんでした。帰りによく見てみると、通りからはほとんど見えない方向に鳥居があり、そこに通じる道があるようなので行ってみることにしました。

高い木々に包まれるように、ひっそりと佇む上海渡稲荷神社

上の写真のように、神木と思われる大木と、周囲の木々に包まれるように、ひっそりと佇んでいます。

石でできた鳥居や狐の像は相当年季が入っていますが、しめ縄などを見る限り、ちゃんと手入れがされていて大切にされている感じです。

正一位 稲荷大明神」の意味が気になりましたが、総本山である京都の伏見稲荷大社がとにかく「正一位」を与えたそうで、位階に特に意味はないようです。

この付近にはカタクリの群生地があるそうで、植物に興味がある方にはいい場所かもしれません。

島々駅の復元駅舎……はなかった

上高地線の今の終点は新島々駅ですが、かつてはその先に「島々駅」がありました。

今も新島々駅の先からは少しだけ線路が延びています。

新島々駅から西に、少しだけ延びる線路

島々駅は土砂災害で被災して廃止されたのですが、その駅舎が新島々駅の隣に復元されていると知ったので、今回見ておこうと思っていました。

ところが、いくら駅周辺を見渡してもそれらしい建物が見当たらず、Googleマップで示された場所を見ると真新しい更地になっていました。

島々駅の駅舎が復元されていた場所。今は更地に

後で調べると、今年2月に解体されていたそうです。

www.shimintimes.co.jp

前回訪ねた2019年には存在していたということなので、その時に注意して見ておかなかったことが悔やまれます。

芸術の彩り豊かな喫茶店

新島々駅付近をいろいろ訪ねつつ、空振りもありつつ駅に戻ってきて、今度は駅に隣接する喫茶店「カフェプレイエル」を訪ねました。

新島々駅に隣接する喫茶店「カフェプレイエル

cafe-pleyel.com

店のWebサイトでは日曜日は休みのような記述もありますが、コロナ禍で一時、日曜日の営業を取りやめていたそうです。

今は土・日・月のランチ時間帯の営業となっています。

薬膳カレーも気になりますが、昼食はさっき食べたので今回は喫茶で。

創業以来受け継がれているという「ヒロコ・プレイエル・ケーキ」とコーヒーのセットを注文しました。

ヒロコ・プレイエル・ケーキとコーヒー

プレイエルケーキは、要はフレンチトーストっぽいんです。生地に卵・牛乳・砂糖をたっぷりしみこませて焼いたもの。ただ、生地の食感はトーストではなくプリンのようにしっとりプルプルで、これは面白いなと。そして、牛乳や卵の濃厚さがしっかり感じられつつ、後を引かずくどくない甘さというのが絶品でした。

さすが店名を冠するだけあるメニュー。1日8個限定だそうですが、訪ねる機会があれば食べてみていただきたいです。

そして、店内には油絵や様々な芸術作品が展示されている他、1909年製や1923年製といった100年もののピアノが展示されており、常連の方が弾き心地を確かめておられました(私も触ってみたかったですが、さすがに初見の立場でそういうわけにもいかず)。

少し前には、ここで演奏会をするために千葉から訪ねてきたグループもあったそうです。

そして店の奥には、地元出身の版画作家、加藤大道の作品を中心としたギャラリーがあります。

版画以外にも焼き物の販売、古いチェンバロリードオルガンの展示、店主が実母から戦争体験を聞き取って出版した本の原画など、所狭しと並べられています。

それらを見ているとなかなか楽しくて、あっという間に電車の時間が来てしまいました。

山間部の鉄道の終着駅の隣に、こんな店があるというのはすごくいいなと思います。

今回は訪ねられなかったですが、駅のすぐ北側には梓川が流れていてその景観もよさそうだし、実は新島々駅周辺は、単に電車とバスの乗り継ぎ地点というだけではなく、観光スポットとしてもなかなかの穴場なのでは、と感じました。

田川橋梁を走る列車を撮る(2)

この日は昼過ぎから快晴になる予報でしたが、その通り、新島々駅から松本行きの電車に乗っていると綺麗に晴れてきました。

なので、午前中にはちょっとイマイチだと思っていた、田川橋梁を走る列車をまた撮ることにしました。

田川橋梁を走る新島々行きの列車

午前中と同じ、松本を出て新島々へ向かう20100形の列車。

後ろの山並みの見え方に合わせて角度を変えていますが、撮り方としてはほとんど同じです。午前中はやや逆光でしたが、午後になって順光になったこともあり、とても明るい雰囲気になりました。

田川橋梁を走る3000形電車(新島々行き)

背景の山並みを大きく見せるために、できるだけ遠くから撮影。

電線の保護カバーがどうしても目立ってしまうのは仕方ないのですが、やっぱり目立つかなあ。市街地だけに、すべてをクリアにするのはなかなか難しいですね。

松本名物、山賊焼を堪能して帰宅

上の写真のように、南東側の山並みは綺麗に見えていたのですが、西側の北アルプスは午後になっても雲が取れませんでした。

雲に覆われた北アルプス松本駅アルプス口の窓ガラス越しに撮影

もし北アルプスが綺麗に見えていたら、夕方からは松本駅の北にある城山公園展望台に夕景や夜景を見に行こうと思っていたのですが、それは期待できなさそうなので、この日は早めに切り上げて帰ることに。

せっかくなので、少し早い時間ですが松本駅付近で夕食を……と思って探していると、駅ビルのMIDORI松本に「松本からあげセンター」という店を見つけて即決。松本と言えば、独特の唐揚げ「山賊焼き」が名物ですしね(ただ、名前の由来自体は塩尻にある居酒屋「山賊」らしいですが)。

松本からあげセンターの外観

山賊焼定食とハサイダー

大町名物ハサイダー

まずはスタンダードな山賊焼定食を注文。ライスは+100円で野沢菜ごはんに変えられます。これまた長野らしいオプションです。

飲み物は松本の北、大町の名物「ハサイダー」に。大町と言えば立山黒部アルペンルートの東の出入口ですが、黒部ダム建設のためのトンネル掘削工事の際、岩盤が砕けた破砕帯にぶつかり、大量の湧水と土砂に苦しんだ話はよく知られています。

その破砕帯の天然水を使用しているというサイダー。確か黒部ダムでも売っていたと思います。

山賊焼は、実は今まで駅弁でしか食べたことがなくて、店で食べるとこんなに巨大なのかとびっくりしました。

でも、しっかり味がついててそのまま食べても充分おいしいですし、ソース、醤油、胡椒、マヨネーズなど調味料がテーブルに用意されているので、味変して食べていくこともできます。

そして、松本駅17:20発の特急あずさで帰宅。

訪ねる前は、住宅地ばかりで見どころに乏しいようなイメージがあったのですが、沿線で今回行けなかったところもいくつかあるし、新島々駅周辺で訪ねた店もリピートしてみたいし、実はなかなか魅力的なところなのでは、と思えてきました。

上高地乗鞍高原と合わせて訪ねる手もあるし、またいずれ訪ねてみたいと思っています。