JR四国は17日、2019年度、2020年度の線区別収支と営業係数を発表しました。今回はこれについての分析です。

2022 05 17.pdf(jr-shikoku.co.jp)

 

1.2019年・2020年収支の概観

 まずは、JR四国が発表した資料について、概観をとらえていきます。2019・2020年度のそれぞれの数値を並べて記した表を下に示します。(収支率については、JR四国の資料をもとに(営業収益)÷(営業費)×100%で算出)

 コロナ前の2019年時点で、本四備讃線(通称:瀬戸大橋線)はかろうじて黒字、それ以外の路線は赤字となっており、既に厳しい状況であったことがうかがえます。

 そして、新型コロナが襲い掛かった2020年、本四備讃線も含めた全路線で赤字となり、赤字額・収支率いずれも大きく落ち込んでいることがうかがえます。

 

2.収支率・営業係数

 ここで、営業係数についてみていきます。営業係数とは、100円の運賃収入を得るのに必要となる額であり、数値が高ければ高いほど、その路線の収支率が悪いことを示します。収支率についての比較表を下図に示します。

 2019・2020年ともに、営業係数が大きい線区ワースト3は、予土線(北宇和島~若井)、牟岐線(阿南~海部)、予讃線(向井原~伊予大洲)となっています。ワースト5までは、順位の変動はあるものの、2019・2020年とも顔ぶれが変わっておらず、新型コロナにかかわらず、かねてから収支率の良くない区間であるとみることができます。

 これらの線区は、特急列車の設定がない(少ない)ものが多く、中心都市から離れたところにあり、利用者も少ないため、収支率が悪いと考えられます。

 

3.損益

 次に、損益についてみてみます。下表をご覧ください。

 前述のとおり、2019年は本四備讃線が唯一黒字路線となっていました。とはいえ、収支はほぼトントンであり、ほかの線区の赤字を補填するほどではありませんでした。

 しかし、2020年は新型コロナの影響を受け、本四備讃線も赤字路線に転落。しかも損益額では18線区のうちワースト6位にまで上がってしまいました。平均通過人員が23,017人から10,642人と半分以上下落しており、これがJR四国にとってはあまりにも大きな痛手となっています。

 他の特徴としては、営業係数(収支)が悪い路線が損益が大きいというわけでは必ずしもない、ということです。JR四国の中では比較的収支率が良好な予讃線(高松~多度津)や本四備讃線などが、損益ではワースト上位のほうにランクインされています。

 こうした路線は特急列車も運行されており、一定の運輸収入は見込めるものの営業費用もかかっています。赤字額としては大きいですが、四国の主要都市や本州との連絡ルートを形成している路線であり、赤字額が大きいからといっておいそれと廃止にはできないでしょう。JR西日本の収支公表の資料でも垣間見えましたが、芸備線のような収支率が1%前後の路線よりも、特急列車も運行されていて、20~30%ほどの収支率をもつ幹線のほうが、赤字額は多いことが往々にしてあります。

 

4.まとめ

 JR四国はこれまでも、路線維持のために努力の限りを尽くしてきました。2019年・2020年を比較して、営業費が約11億円減っていることも、企業努力の1つでしょう。他にも、パターンダイヤの導入による利用者に分かりやすいダイヤの形成、列車の減便分に代わり、並行する路線バスを利用できるようにする、自治体が策定した地域公共交通の計画に則って特急の停車本数を増やして利用の取り込みを図るなど、様々な取り組みを行っています。こうしてみると、これまで沿線に寄り添って路線を維持してきたといえるのではないでしょうか。大都市を持たないJR四国が、ここまで輸送サービスを維持し続けていることが、素晴らしいと思います。

 ここから大事なことは、自治体が鉄道事業者ときちんと向き合い、よりよい交通づくりのために協議、実践を重ねていくことだと思います。「廃線にはさせない」の一点張りで、事業者との協議を拒否したとしても、いつかは本当に維持できなくなる日がくるでしょう。

 四国では、画期的な取り組みも多く行われています。それらの取り組みが実を結ぶことを願います。