苦節50年・有楽町線豊洲分岐線(その2) | 書斎の汽車・電車

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 少々間があいてしまいましたが、地下鉄有楽町線の豊洲分岐線にまつわるお話の続編です。

 今回は2000年以降の話題を取り上げます。

 

③ 運輸政策審議会答申第18号~さらなる延伸計画と「格付け」の実施

 平成12(2000)年1月27日付の運輸政策審議会答申第18号「東京圏における高速鉄道を中心とする交通網の整備に関する基本計画」において、今後15年間に整備されるべき路線、整備を検討すべき路線が提示されました。本稿の主題である東京8号線(有楽町線)については、豊洲~東陽町~住吉~押上~四ツ木~亀有~野田市が示されています。このうち、住吉~押上については、東京11号線(半蔵門線)として既に建設中であり、また押上~四ツ木も11号線と線路を共用する形でした。また、東京11号線については、すでに押上から東武線への乗り入れが決まっていましたが、前回答申で示された押上~四ツ木~松戸という延長計画が今回も生きていました。

 さて、有楽町線の豊洲分岐線といえば、もともとは亀有までの計画であり、沿線の江東、墨田、葛飾各区のための路線でしたが、前回答申で武蔵野線方向への延伸が検討され、今回ついに野田市までの路線となったわけです。亀有以遠の経由地については、八潮、越谷レイクタウンあたりが想定されています。

 そして、今回答申で初めて、計画線に「格付け」がなされました。分類として、A1:「現在整備中の路線及び目標年次までに開業することが適当な路線」、A2:「整備主体の見通し等の整備に係る熟度等の課題はあるが、少なくとも目標年次までに整備着手することが適当な路線」、B:「今後の整備について検討すべき路線」の3つがありました。東京8号線と東京11号線については、「A2」となっていました。つまり、最優先で整備されるべき路線ではなかったということになります。そもそも、この2路線の延伸計画は、当時殺人的な混雑が問題になっていた常磐線方面の救済策の一環でした。しかしながら本答申が出された時点では、いわゆる「常磐新線」(つくばエクスプレス)の建設が進んでいましたから、地下鉄2路線の延伸計画について優先順位が低くなったのは致し方ないといえましょう。

 

 半蔵門線の延長区間である水天宮前~押上は、平成5(1993)年6月23日免許、同年12月6日着工、工事が進められてきましたが、平成15(2003)年3月19日、めでたく開業の運びとなりました。営団地下鉄にとって最後の新線開業となります。今回の開業区間のうち、住吉~押上はもともと有楽町線豊洲分岐線の一部でして、住吉駅などは有楽町線の延伸に対応した構造となっていました。前に述べましたが豊洲駅もまた、分岐線建設に対応した構造となっていましたから、地元自治体(特に江東区)としては、豊洲~住吉の建設は比較的容易であろうということで、早期開業に向けた運動を活発化させます。

 しかし。営団地下鉄改め東京メトロは、「副都心線が最後の新線開業」という姿勢を崩しませんでした。民営化(株式はいまだ国と都が保有していましたが)した東京メトロにとって、巨額の建設費を負担しなければならない新線建設は無理というのがその理由です。そのため、江東区は平成23(2011)年7月、豊洲~住吉について第3セクター設立、上下分離方式での建設、運営を提案しますが、東京メトロの腰は重いままでした。

 

 分岐駅である豊洲駅についても、この間二転三転します。そもそもこの駅、「ゆりかもめ」の開業と再開発で乗客が急増します。平成21(2009)年10月に、中央部の支線用ホームの柵を撤去し、仮設の渡り板で両端の上下ホームを結びました。つまり、巨大な島式ホームが出現したわけです。その後平成24(2012)年9月には仮設の渡り板を撤去し、中線を折り返しホームとして活用することになります。翌年3月からは豊洲折り返しの電車が登場しています。令和元(2019)年秋にはこの折り返し電車が廃止、翌年3月には中線は再び覆われて通路となっています。このあたりの変化は、やはりオリンピックとの絡みもありそうですが、豊洲駅の比重が増したことによる試行錯誤といえるでしょう。また、豊洲市場のオープンに際して、地元への交換条件の一つとして豊洲分岐線が取り上げられる一幕もありました。

 

④ 交通政策審議会答申第198号~実現へのハードルは「財源」にあり?

 平成28(2016)年4月20日付の交通政策審議会答申第198号「東京圏における今後の都市鉄道のあり方について」においては、東京8号線の延長計画は、次のように評価されています。まず、豊洲~住吉については、「事業化に向けて関係地方公共団体、鉄道事業者等において、費用負担のあり方等について合意形成を進めるべき」路線となりました。つまり、建設費用をいかに負担するかという問題をクリアーできれば、実現は比較的容易ということになります。

 一方、押上~野田市(と東京11号線の押上~松戸)については、「地域の成長に応じた鉄道ネットワークの充実に資するプロジェクト」と位置づけられていまして、こちらは昨今の情勢を考えれば、実現の可能性はかなり低くなったといえるでしょう。

 

 本答申を受けまして、国土交通省に設置された「東京圏における国際競争力強化に資する鉄道ネットワークに関する検討会」において、今後早期着手されるべき路線について検討がなされた結果、東京8号線(豊洲~住吉)と品川地下鉄(白金高輪~品川)が浮上してきたのでした。東京8号線の総事業費は1560億円、費用便益比2.6~3.0、19~29年目で黒字転換するというものです。あとは財源をどうするか、事業主体をどこにするかです。

 

⑤ 交通政策審議会答申第371号~ついに実現へ

 そして令和3年7月15日、交通政策審議会答申第371号「東京圏における今後の地下鉄ネットワークのあり方等について」が出されました。その中で、東京8号線(豊洲~住吉)と品川地下鉄(白金高輪~品川)について、「事業主体の選定や費用負担の調整を早急に進め、早期の事業化を図るべき」とされました。事業主体については、既存の地下鉄ネットワークとの関わりから東京メトロとすること、巨額にわたる事業費用については、十分な公的支援を行うべきであること、新規2路線の事業主体を東京メトロとするのに合わせて東京メトロの株式を早期に売却し、経営安定化をはかることなどが謳われています。

 今回の答申、地下鉄ネットワークをさらに充実させたい(但し都営地下鉄とはしたくない)東京都、株式上場で完全民営化を果したい東京メトロ、震災復興財源確保のため保有する東京メトロの株式を早期に売却したい国という3者の思惑が絡んだ結果でもあります。また、保有する東京メトロ株の売却に関連して、都営地下鉄と東京メトロの経営一元化を主張してきた東京都ですが、今回年来の主張を引っ込めたことも、事態の進展につながったのでした。

 そして、政府の一般会計からの補助と、財政投融資、東京都の一般会計からの補助など、巨額の事業費用に関するスキームがまとまったことから、東京メトロは令和4(2022)年1月28日、いよいよ有楽町線豊洲分岐線(豊洲~住吉)と、南北線(白金高輪~品川)について第一種鉄道事業許可申請を行いました。これが3月28日付で許可され、豊洲からの分岐線は当初計画から半世紀を経て、ようやく動き出したという訳です。

 

 とはいえ、その開業は2030年代といいますから、恐らく10年以上先のことでしょう。日中10分間隔で運転し、途中3駅(うち1つは東陽町駅)が設置予定とのことですが、運転系統などはどうなるのでしょう?恐らくは住吉から押上まで半蔵門線に乗り入れるものと思われますが、東武伊勢崎線からの直通運転区間は豊洲までか、それとも和光市まで入るのか、いずれにせよ東上線からの直通電車と出会うことになります。一方、東上線や西武池袋線からの直通電車も押上までは運転されるのでしょうか。さすがに森林公園発南栗橋行きなんていう電車は運転されないとは思いますがいかがなものでしょう。東武鉄道は新規事業計画で豊洲分岐線への乗り入れについて検討を始めたようですから、今後とも注視していきたいと思います。

 そして、今回同時に建設が進められる「品川地下鉄」に関連したお話も、どこかでご紹介できればと考えています。

 脳天気な私としては、豊洲分岐線にもこの7000系が使用されると信じて疑わなかった時期もあるのですが、かなわぬ夢となりました。それどころか10000系も開業時にはどうなっているやらですね。