「鉄道事業者には、沿線住民や自治体に対して、丁寧な説明を行っていただきたい」

鉄道路線の減便や存廃の話が出ると、自治体はこんなふうにコメントすることが多いです。しかし、丁寧な説明とはいったい何だろうと、ふと疑問に思いました。今回はこれについて考えたいと思います。

 

1.丁寧な説明はなぜ必要なのか?

 鉄道事業者から沿線自治体に対し、ローカル線についての協議を求める場合、話題は減便や路線の存続についてなど、自治体にとってマイナスとなる話題が挙がることが多いです。日頃から協議を行ったり、鉄道路線についての現状共有がなされていない場合、「鉄道事業者から久々に話を持ち掛けられたかと思ったら、いきなり減便やら存廃に関しての話題を突き付けられたびっくりマークどうしろというのかびっくりマーク」と自治体側は思うでしょう。

 自治体の担当課も、鉄道路線に関わる情報を一通り集めないことには、他部署や市の上層部、議会への対応説明や、住民に納得してもらえるような方針の策定を行うことができません。そのため、事業者側からの”丁寧な説明”が必須なのです。

 

2.自治体側の問題点

 しかし、自治体側にも問題がないとはいえません。一つは、路線の存続を要望しながら、路線の利用状況などを把握していない場合があるということです。本気で路線を存続させたいと思うなら、ある程度自前で現状について学んだうえで、鉄道事業者からデータをもらって裏を取る、という流れが理想的です。

 また、先日のJR西日本の赤字路線の収支公開では、「赤字路線だけ収支を公開したのは、鉄道事業者が廃線やむなしという世論を作り上げるためだ」といった反発が起こりました。(公開されたデータに、減便や廃止に反対する理由に使えそうなデータがなかったので、「鉄道事業者にとって都合のいいデータしか出されていないのでは?」と自治体側は感じたのかもしれません)

 鉄道事業者の収支公開について要望する自治体も増えてきていますが、いざ収支が公開されたら、その路線の利用の現状を真正面から受け止める姿勢も必要と考えます。その姿勢なしに、ただ公開方法に文句をつけるというのは、ちょっと違うのではないでしょうか。

 自治体側は、”丁寧な説明”という曖昧な言い方ではなく、もっと具体的に「こういうデータを出してほしい」「〇〇について知りたい」と事業者へ要求すべきでしょう。どうも、自治体がいう”丁寧な説明”というのが、路線の現状や鉄道事業者の意図・方針をを分かりやすく説明するという意味ではなく、「自治体にとって得となる説明」を求めているふしがありますが、それは少々虫が良すぎな気がしています。

 

3.真の意味で”丁寧な説明”とは?

 よりよい交通を作るために必要な、”丁寧な説明”とはなんなのでしょうか。

①できるだけ早めに、ダイヤ改正についての案を自治体に示す

 沿線自治体によっては、コミュニティバスやデマンドタクシーなどの二次交通を運行しているところもあり、鉄道の時刻に合わせてダイヤが組まれていることも多いです。そのため、鉄道のダイヤだけが変わってしまうと、鉄道とコミュニティバスやデマンドタクシーの接続が失われ、利便性が大きく低下することになりかねません。

 また、自治体から住民への周知を図ることを考えても、改正内容について早めに自治体へ伝えることが望ましいでしょう。

 それでは、どうして鉄道事業者が、改正内容を沿線自治体に伝えることに消極的になることがあるのか?それは、特に減便メインの改正を行う場合、沿線自治体から反対の声や要望の声が殺到し、事業者の構想通りにいかなくなるからにほかなりません。

 沿線自治体も、鉄道事業者へ要望を出すことは大事なことではあるのですが、要望の内容については精査するべきでしょう。めちゃくちゃな要求を続けていると、鉄道事業者もデータの開示や事業協力に消極的になりかねません。

 

②根拠を持って示す

 時間帯ごとの利用状況など、できるだけデータを開示しながら説明することが望ましいでしょう。減便をする場合にしても、単に乗客が減っているというのと、〇〇人減っている、ある時期と比べて〇〇%減っている、などと数値を用いて説明したほうが、感情論的な議論にならずに済むでしょう。

 

③減便を内容とした改正を実施する場合、利便性低下を下げるために工夫したことを説明する

 減便を実施する場合、これは一番大切なことだと思います。例えば、以下のような説明です。

「朝夕は通勤通学利用が多いので本数を維持し、利用が減っている早朝深夜だけ減便としたい」

「毎時4本から毎時3本に減便するが、不均等だった運転間隔を20分ごとに統一して、分かりやすいダイヤにする」

「減便した分、スピードアップを図ったり、他路線と運転間隔を合わせて接続改善を図る」など。

 減便すると確かに利便性は低下してしまいますが、運転間隔の統一(パターンダイヤ化)を図ったり、他路線との接続を維持・改善したりすれば、利便性低下を抑えることができます。そうした施策をセットで実施している場合は、鉄道事業者は必ずアピールしたほうがいいでしょう。

 

<まとめ> 

 いかがでしたでしょうか。実のところ沿線自治体は、「減便」「廃線」という言葉に敏感に反応し、これらに繋がりかねない動きが出てきた場合、身構えるケースが多いように感じます。そのため、鉄道事業者には「利便性を維持・向上させる施策もとっている」というアピールが重要ではないでしょうか。

 また、沿線自治体は、減便を伴う改正がなされる場合、「減便」という言葉尻だけをとらえて批判する傾向があります。それでは、いくら事業者が"丁寧な説明"をしても、ことは何も進みません。

 鉄道事業者が”丁寧な説明”をするだけではなく、沿線自治体が”丁寧な説明”をしっかり聞いて理解し、協議の足掛かりを作っていくことが、重要なことだと考えます。